ユート・ブレーン殿『営業システム研究会』 2003.1.16
本文は,株式会社ユート・ブレーン殿が主催されている,製薬会社のMRの方およびMR支援情報システムに関係されている方を対象にした『営業システム研究会』で,私が講演した予稿です。講演および配布レジメはパワーポイントで作成しており,本文通りに講演したわけでもないので,実際とは若干異なることもあるかと存じます。主催者のご好意により,Webサイトへの掲載をいたしました。
製薬業界では,他業界に先んじて1980年代に営業支援システム構築が行われました。環境の変化に伴い,現在その見直しや再構築が検討されています。ここでは,どのような観点で再構築するべきかを検討します。なお,私はこの業界の経験がありませんので,文献等による推察での話ですから,あるいは実情に合致しないこともあるかと存じます。
ここでは,MR活動支援のための情報システムを営業支援システムということにします。情報システムを検討するには,それに関係する実務の把握が必要になりますが,私はこの業界の素人です。それで,まず私が理解(想像)しているMR活動を整理してみました。
製薬業界・医療業界はこれまで恵まれていた(現在でも恵まれている)業界です。
人間だれでも病気になります。その治療のための投資は他の投資よりも絶対的な優位性があります。そのため,不況であっても安定した需要があります。しかも,優良顧客である老人層は増加しますし,健康志向の動向が高まっていますので,需要は将来的に着実な増大が期待できます。
また,この業界は,行政の手厚い保護を受けてきました。法律,行政手続,国家試験などにより高い新規参入障壁が構築されていますし,医療保険制度とは,製品(薬品や医療行為)価格の大部分を税金(厚生年金制度)で補填する制度だともいえます。
ところが現在は,医療制度改革による医療費負担増額,外資系の進出,製薬企業の再編成など競争の激化が起こってきました(それでも他の業界から見ればまだコップの中の嵐ですが)。脅威はビジネスチャンスでもあります。変化を先取りして対処した企業が生き残り発展するのです。
そうなると他社との差別化が求められます。しかも,できれば価格競争ではなく付加価値競争へ持って行く必要があります。そこで,MRの効果的活動が求められ,MR支援のための情報技術活用が重要になってきます。
MR(Medical Representative)とは,製薬会社の医薬品情報担当者です。販売担当ではなく,病院の医師や薬剤師など医療関係者に医薬品の品質,有効性,安全性などに関する情報を提供する任務を持つ有資格者(MR認定制度)です。この業界では製薬会社が直接に病院と売買取引はせず医薬品卸売業を介しています。実際に値決めをして注文をとる営業活動は医薬品卸のMS(Marketing Specialist)という営業担当者が行います。
ですから,MRは病院の医師や薬剤師を訪問することが営業活動になります。ところが,全国で5万人以上のMRがおり,これは医師5人に1人の割合です。MRの1日の訪問先は20件といわれていますが,1回の面談時間5〜10分であり,それも面談できないことすらあります。しかも訪問規制が行われるようになり,面談の機会も制約されるようになりました。大きな病院などでは,大勢のMRが廊下にたむろしていて医師が出てくると一斉に群がるというような(タレントとファンのような)光景すら見られます。
MR活動を支援する情報技術の活用が必要になります。一般に営業活動を支援する情報システムをSFA
(Sales Force Automation:営業支援システム)といいますが,製薬業界では他業界に先駆けて1980年代にこれの構築が積極的に行われました。現在ではほとんどのMRが携帯用パソコンを持ち,インターネットを介してオフィスの情報にアクセスできるようになっています。
MR支援システムは,それなりに効果をあげてはいるのですが,後述のような問題点もありますし,さらにはCRM(Customer Relationship Management:顧客関係改善情報システム)への発展が期待されるようになり,MR支援システムの見直し再構築が検討されている段階です。
ここで,この業界ではなく,一般論としてSFA/CSMの概要を整理します。
ですから,大雑把にいえば,CRMの一部がSFAであるともいえます。逆にいえば,SFAの究極的な目的がCRMだともいえます。両者の境界はあいまいです。ここではあえて両者を混同して「営業支援システム」ということにします。
上記のように営業支援システムは企業競争戦略に重要な武器になるものですが,往々にしてその目的とは異なった観点で構築され運用されがちです。そのような営業支援システムの陥りやすい危険を指摘します。なお,ここではこの業界の事情に特化したものではなく,一般論として考えます。
本来は,営業活動を「支援」するはずのものが,結果として営業活動を「管理」するためのシステムになっていることが多いのです。
それを言い替えれば,現場の営業担当者の業務を支援するよりも,本社で営業企画管理をしているスタッフ業務を支援するシステムになりがちだということです。
本社スタッフが頭の中で考えると,どうしても理想的(空想的?)なシステムになりがちです。トップダウン的に営業活動はいかにあるべきか,それを改善改革するにはどのような情報があるべきかという「べき論」で考えます。それで,あれもほしい,これも重要だとなりがちです。
その結果,非常に入力するべき事項が多くなります。ところがそれを入力するのは本社スタッフではなく,現場のMRなのですね。5分の訪問に30分の入力作業が要求されたのでは,1日に20件も回るMRはたまりません。一般的に事務処理分野の情報化では,データを入力する人と出力帳票を必要とする人が違うのが特徴です。情報化により本社経理部は大きなメリットを享受しますが,支店の営業課は単に仕事が増えるだけになりがちで,昔の情報化推進時代には,これが大きな阻害要因でした。それと同じことが,営業支援システムでも繰り返されているようです。
入力作業の不満をそれを解決しようとして,画面の穴埋め方式にしたり,テンプレートを用意してそれを修正すればよいとしたりして,入力フォーマット化して簡素化する方法がとられます。これは一見便利なようですが,その結果,本社スタッフが必要とするデータに限られるようになり,さらには基幹業務系システムに必要なものだけになり,交通費精算システムあるいは得意先訪問証明書作成システムに成り下がってしまうことすらあります。このような情報は現場営業担当者にとては役に立たない情報ですから,ますます入力するのが面倒になります。
あるいは,入力作業に不満を持つのは営業担当者が情報化や業務改善の重要性を認識していないからだと思って,「啓蒙」教育を行うこともあります。でも,これはピントはずれなのですね。不満はこれが「Take&Take」のシステムであり,営業担当者にとって入力しても自分のメリットがないから不満を持つのです。それを解決する必要があります。
MRの任務は医師・薬剤師に医薬品の情報を提供することですから,医薬品に関する情報をデータベースにしたり,効果的なプレゼンテーションをするための説明資料を蓄積して,MRが簡単にそれを取り出せるようにすることが必要だと考えます。
ところが現実には,廊下で待ち構えて歩きながら話をするような状況です。廊下でパソコンを出してパワーポイントの画面で説明するのでしょうか? 目的の画面が出たときには「さようなら」の時間になるので,現実には画面をプリントして「後でご覧になってください」となるのではないでしょうか? 頭で考えたシステムは,とかく現場の状況が無視されがちです。
このようなシステムでは,MRにとってのメリットがないのですね。せいぜい「直行・直帰」のメリット程度でしょうが,それも自宅で報告書作成することになり,サービス残業になってしまいます。このような雑業?から解放してほしいと思うのは当然です。
もっと役立つ情報提供をする必要があるのですが,次にそれを考えます。
(「面会ができない」ことを前提にすると,MR活動そのものが不要になる(これについては後述します)ので,ここではそれについては眼をつぶることにします。)
このシステムの直接の受益者はMRのはずです。「面談時間が長いMR,待たれるMR」になることがMRの最大の願望でしょう。そうなるには,顧客に喜ばれるのが営業活動の基本ですから,顧客である医師・薬剤師に役立つ情報をすることが必要になります。
自社製品の公式的な情報,自社にとって都合のよい情報などは,あえてMRが面談しなくてもいくらでも情報を入手することができるでしょうし,必要ならば呼びつければいつでも説明を受けられるでしょう。ですから,このような情報は顧客は期待していないのではないでしょうか。
顧客がMRに期待する情報は,公式には得られない情報,口頭でなければ得られない情報だと思われます。私にはわかりませんが,たとえば薬品情報ならば副作用などのマイナス情報や他社製品に関する公平な評価などがありましょうし,医療情報では他院での例や行政に関する情報などが求められるのではないかと思います。
営業ではなく相談者としてのMRを期待しているのであり,そのようなMRならば,「面談時間が長いMR,待たれるMR」になるでしょう。そのような情報をMRに提供し,MRがそれを伝えることを許す文化と勇気が企業にあるでしょうか?
マーケティング技術では「顧客の顧客」へのサービスが顧客満足を得る秘訣であるとされています。小売店へのサービスは,小売店そのものへのサービスよりも消費者へのサービスを向上させることが,結果として小売店の利益に大きく貢献するのだという考え方です。
即物的な対応では,消費者を対象としたコマーシャルや店頭サービスがそれにあたりますが,もっと基本的には顧客購買動向を素早くキャッチして,そのニーズに合致した製品を迅速に開発すること,消費者価格を下げるために,流通在庫を削減してコストを下げることなどが重視されています。それには,QR・ECRやSCMなどのように企業間連係と情報技術の活用が不可欠です。
この業界でいうならば,顧客が病院ならば,顧客の顧客は患者あるいは社会です。患者・社会に喜ばれる病院にするために,MRは何をすればよいのか,患者への説明用の情報,社会への情報提供をMR活動にどう結びつけるのかを考える必要がありましょう。
言い替えれば,営業支援システムは,その重要度は「患者(社会)>病院>MR>スタッフ」の優先順序で評価するのが適切なのです。この逆になっていなければよいのですが。
営業支援システムにかぎらず,とかく情報化では情報システムの開発そのものが目的となりがちです。それで,現実には
どこのソフトを入れたらよいだろうか?
どうやったらトップの承認を得られるだろうか?
開発メンバが揃えられるだろうか?
現場の協力は得られるか?
スケジュール通りに開発できるだろうか?
ちゃんと動くだろうか?
などが関心になり,それが実現できれば
「動いた! 成功だ!! 打ち上げをやろう!」
ということになり,当初の計画を評価するための「現場の効率があがったか」「会社は儲かったのか」への関心は既に失われています。
営業支援システムが役に立っているという人もいるし,役に立っていないという人もいます。システムによって評価が異なるのは当然ですが,そもそもシステムが役に立つ/立たないとはいうけれど,その効果評価尺度は明確になっているのでしょうか?
やや教科書的ですが,情報化だけでなくプロジェクトを検討・実施・評価するには,KGI,CSF,KPIを明確にすることが重要だといわれています。これらの指標を設定するには,経営の立場・利用者の立場は反映されていることが不可欠です。
情報化計画では,これらの指標の実現やモニタリングに情報システムがどのような面で貢献するのかを明確にする必要があります。
それなのに,ややもすれば「はじめに情報化ありき」で「何が情報化できるか」「どう情報化すればよいか」に走ってしまうので,「キレイゴトを羅列した提案書」と「評価があいまいな情報システム」になってしまうのです。
営業支援システムとして,シーベル(一般)やデンドライト(製薬業界)など多くのベンダがそれぞれのパッケージを提供していますが,それを導入すればよいというようなものではありません。
「営業支援システム」は単一システムではなく,多様なシステムの総合的活用です。思いつくものを列挙しただけでも,右図のように多様なものがあります。これらをうまく組み合わせることが必要ですし,操作を容易にするために「営業部引用ポータル」として提供する必要があります。
情報システムだけではなく,業務の方法,組織,営業待遇などの一部として位置づける必要があります。直行直帰するとすれば勤務時間や残業の扱いが必要ですし,業務連絡をオンラインで行うのであれば,指揮命令の方法も変わりましょう。成績査定も目標管理による実績主義が必要になります。これら情報システム以外の体制が整わなければ,情報システムを構築しても効果は少ないでしょう。むしろ,このような体制への移行を円滑にするために情報システムを活用するのだという認識が重要です。
製薬業界を取り巻く経営環境は大きく変化しようとしています。それに伴い,従来の営業支援システムも見直す段階になりましたし,再構築の機運も高くなっています。
ベストプラクティスとは,ある業務分野で優れており他社にも応用できるような方法論のことです。経営戦略や情報化計画を策定するには,まずお手本となるベストプラクティスを調査して,それを自社に応用することが競争に負けないための近道です。ERPパッケージの導入もその一つであるといえます。
われわれ日本企業は,独自路線を開拓するよりも同業他社と歩調を合わせた経営をするのが好きですし,それで成功してきました。すなわち,ベストプラクティスを同業他社に求め,互いに切磋琢磨してきたといえます。
同業他社が優れているとはいえ,どうせ「ドングリの背比べ」です。切磋琢磨といえば立派ですが,単に「隣百姓」的に歩調を合わせてきただけだともいえます。このような関係でのベストプラクティスの活用は,差別化をするのが目的ではなく,逆差別化対策と考えるのが適切でしょう。
他社と差別化を図るには,ベストプラクティスを他業種のビジネスモデルに求める必要があります。製薬業界で通用するかどうか疑問ですが,在庫削減や物流の合理化ならばスーパー業界が参考になりましょうし,市販薬も含めた新薬の説明などは保険業界のeラーニングの手法が応用できるのではないでしょうか。
一般の業界では,スーパーやコンビニなどの小売業を中心としたQR(Quick Response)/ECR(Efficient Consumer Response),製造業を中心としたSCM(Supply Chain Management)など企業間連携が重視されています。
製薬業界や医薬品流通業界では,従来から業界内協調が円滑ですしネットワークの共同活用も進んでいます。しかし,それらは体制維持としての協調であり競争戦略としての目的はむしろ希薄だったのではないでしょうか。
製薬会社−医薬品卸−病院−患者(社会)のサプライチェーンの改善をどう考えるか,これらの間にどのような関係を築くのか,そのための情報システムをどうするかを考えるのに,QR/ECRやSCMを参考にできるのではないかと思います。
先に「営業支援システムは単独のシステムではない」といいましたが,製薬会社における他のシステムとの関係も重視する必要があります。市販薬のシステムと医局薬のシステムなどと営業支援システムとどう連携させるのか,MR情報と研究開発情報をどう結びつけるのか,インターネット活用がさらに進み,病院の情報システムも発展したときにどのように連携するのかといった検討が必要になります。
MR活動は知的活動でありMRは情報提供業であるといえます。顧客に喜ばれる情報をMRに伝えるのは本社営業スタッフの任務です。それを効果的に行うにはデータウェアハウスやデータマイニングなど情報システムの活用も必要ですし,人的な経験や調査も必要になります。製薬会社の技術部門では,伝統的に高い統計解析の技術や調査能力を持っています。それを営業支援の分野にも応用することは,比較的容易であると思います。
また,単にMRがデータベースにアクセスするのを支援するプル機能だけでなく,「あなたはこれを読みなさい」というようなプッシュ機能も効果的です。必要な人に必要な情報を必要なときに提供できる体制も合わせて整備することが肝要です。
ここまでは現状の営業支援システムの改善を考察しましたが,そろそろ抜本的に改革する段階にきているのではないでしょうか。その改革のための営業支援システムを考察します。
なお,最初におわびしたように,私はこの業界をよく知りませんので,以下の事項は外野から見た憶測にしかすぎません。でも,それなりにご参考になるかと存じます。
情報システムを検討するときには,それが必要な理由を明確にしなければなりません。その最初の疑問として,もしMRはいなければ,営業支援システムそのものが不要になります。
大量のMRの存在は,コストを増大させていると思います。もし,MRを削減あるいは廃止したら,薬品の価格はどれだけ下がるのでしょうか? この質問は,企業内部だけではなく,保険制度の根本に関わる問題ですので,システム設計者としても社会への説明責任が問われます。
本当に大量のMRによる人海戦術が効果があるのでしょうか。MRが病院に行かないと自社製品は売れないのでしょうか? さらには,5分や10分の説明で医師や薬剤師に自社製品を使うように説得できるのでしょうか?
逆にいえば,医師や薬剤師はなぜ自社製品を使おうとしたのでしょうか? それはMRが存在したから実現したのでしょうか?
このようなMR訪問は日本的商慣習なのでしょうか? 業界は異なりますが,マイクロソフトは自社製品利用教育にも金を取ることから類推すると,欧米では異なった慣習があるのでしょうね。日本独特のものだとすると,早晩,このルールが崩壊します。これからの営業支援システムでは,ルールが崩壊したときの対策も考慮しておく必要があります。
米国流の「グローバル・スタンダード」では,顧客差別化政策が基本になります。そうなると,あまりよい得意先ではない顧客にはオンライン・バンキングのようなプル型情報提供手段をとることになります。忙しい(高圧的?)医師・薬剤師に自ら情報アクセスさせる手段はどうすればよいでしょうか。逆に上得意に対しては,これまで以上のサービスをする必要がありますが,どのような手段を考えればよいでしょうか?
このような状況に対処するには,従来の画一的な営業支援システムではなく,顧客の貢献度に合わせて多様なサービスを行う複雑なシステムになることが考えられます。
パソコンが量販店を介した見込生産からデル・コンピュータのような受注生産へと変化しているように,流通チャネルの短縮化が一般的傾向になっています。それがコストダウンやマーケティング強化につながるとされています。
ところが,この業界では医薬品卸による流通が半制度化されています。これも外資系の進出により撤廃されるのではないでしょうか。また,病院がコストダウンの目的で海外製薬会社との直接取引をすることも考えられます。そのような状況になると,メーカーおしきせでない情報の入手源が必要になり,「暮らしの手帖」データベースのようなものの重要性が増大します。
このように「伝統的商習慣」制度が揺らいでくると競争が激化します。M.ポーターは,現代の経営戦略は競争戦略を基礎におくべきだとして,その競争相手に同業他社,売り手(供給者),買い手(顧客),新製品,新規参入者があることを示しました。
この競争相手のなかで,最も低い脅威は「同業他社」です。同業他社は日常的な競争相手ですが,互いに同じ土俵の中で同じルールにしたがって競争をしていますし,互いにある程度は相手の手の内も推測できます。しかも,大局的に見れば「ドングリの背比べ」なのです。
さらに伝統的商習慣が強固な環境にあっては,競争相手というよりは,共同戦線の戦友というほうが適切な存在ではないでしょうか。その間での競争とは,町内運動会のような他愛もないものです。
しかし,次第にそれではすまされない競争環境になってきました。真の脅威は業界外からくるのです。規制緩和により海外・異業種からの参入が活発になってきました。
なぜこれが脅威かというと,競争のルールが変わるからです。架空例ですがガソリンスタンドを考えます。ガソリンスタンド間では価格競争が深刻ですが,どうせ仕入価格や店舗維持費用は似たり寄ったりなのですから,1リットルあたりの違いは2円程度であり,5円も違ったら大騒ぎになります。そこにもし郊外の大規模安売り店が駐車場にセルフサービスのガソリンスタンドを設置して,割引券の替わりにトークンを渡したら,ガソリンの価格はタダになってしまいます。ガソリンは「商」品ではなくなるのです。
この脅威に対処するには二つの対策があります。その一つは,ますます業界内の団結を強くして,ルールの強化を図ることです。それに最も効果的なのは政治による保護を求めることですが,これは多くの矛盾が発生するので長続きはしません。それに町内運動会のルールではオリンピックには通用しません。長期的には業界全体の競争力を弱めてしまい,いずれ致命的なカタストロフィになります。
もう一つの対策は,新しいルールを先取りすることです。安売り屋の無人スタンドに反対するのではなく,自社がそれのオーガーナイザになり推進するのです。全体がそれに従うときには,既に競争優位を確立できますし,さらにうまくいけば,このビジネスモデルの独占権を確保するなど,自社に都合のよいルールを設定することもできます。そうすれば他社に差別化できる競争力が得られます。ですから狙うべきはこちらの対策です。これから営業支援システムを再構築するのであれば,その新ルールの実現の可能性を高めることを目的にすることが適切でしょう。
独断的な話に流れすぎましたので元に戻します。営業支援システムの見直しをするのは「人」ですが,ここでは人や組織について考えます。
営業支援システムは現場の営業担当者の活動を支援するのが本来の目的なのに,ややもすると「あなた,データを入れる人」「私,それを使う人」となり,本社スタッフのための営業管理システムになりがちであるといいました。
その原因の一つが,本社スタッフと現場営業との認識に違いにあると思います。
現場営業は,情報システムへの関心が低いというよりも,情報システムが嫌いだ(関係したくない)という気持ちの人が多いのが特徴です。本来,情報システムは経営者と営業が最も利用するべきなのに,この両者の利用が歴史的に最も遅れていたのはそのためでしょう。
今でも営業のなかには,他部門ではとっくに消滅した化石的発想をする人がいます。
俺たちが給料を稼いでいるのだ(イヤな亭主)
情報なんか知らなくてもやってきた(重役まで!)
情報のことは情報システム部門の仕事だ
:
でもこれは「井の中の蛙」なのですね。
このような人を,客観的・合理的な世界である情報システムに参加させるのは至難の業です。解決の方法はプライドをくすぐる程度しか思いつきません。
本社スタッフに現場の事情をよく理解せよとか,現場の人に経営全般をよい考えよといっても,その経験がないのでは無理です。また,チームでやるといっても,サラリーマンは自分の所属の上司の評価が第一ですから,部門利益の代表になりがちです。
これを打破する手管はいろいろありますが,最も効果的なのは,本社スタッフと現場営業の間でローテーション(人事異動)をすることです。
営業支援システムを構築するには,情報システム部門,本社営業スタッフ,現場営業がチームを編成することになりますが,構想や要望の段階はともかく,現実にシステムを構築するのは情報システム部門でしょう。そうなると,3者の間でのローテーションが必要になります。
現場営業部門と情報システム部門とが直接にローテーションしたのでは,あまりにも文化が違いすぎますので,一時的にせよ戦力ダウンになります。本社の営業スタッフ部門をクッションにすることにより,互いの文化に慣れることができますし,本社スタッフ部門は経営的な考え方を習得するのに適した部門です。
以上,営業支援システムについてお話してきました。最後に,MRのかたと本社営業スタッフのかたにお願いがあります。
かなり独断と偏見があったことと思いますが,ご参考にしていただければ幸甚です。
★尾濱 浩(ユート・ブレーン)「最新用語辞典」
http://www.utobrain.co.jp/dictionary/
★MR-CAREERS.COM「MR認定試験について」
http://www.mr-careers.com/test.html
★根橋・毛利・大嶋『21世紀のMR像(2)〜 トップMRへの道 〜』
ユート・ブレーン,2002年
★「参天製薬に見る“継続的”営業革新」(CIO Magazine 2002年6月号)
http://www.idg.co.jp/CIO/contents/casefile/casefile47.html
★富士通「SFA先進導入事例−杏林製薬株式会社様」
http://segroup.fujitsu.com/sfa/case/index010.html
★原 仁史(インタビュー)「企業ポータルでMRの営業支援」(日経ビジネス 2000/10/30号、日経コンピュータ2000/11/6号より抜粋)
http://www.microsoft.com/japan/business/digitaldashboard/headline/headline_4.html