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地方自治体におけるWEBアクセシビリティ対応の重要性

本稿は、2007年8月21日に京都市殿の情報化推進支援員研修で行った講演の一部を、京都市殿のご了承を得て掲載したものです。

目次と概要

1 Webアクセシビリティとは/なぜ必要なのか
狭義には障害者・高年齢者の障壁を除くことですが、これは「思いやり」ではなく「義務」として認識すべきです。広義には、健常者にも「利用しやすい」サイトにすることです。自治体サイトでは、電子自治体の発展により、住民生活への影響が大きいことから、狭義はもちろん、広義のWebアクセシビリティ向上が必要です。
2 地方自治体でのWebアクセシビリティ対応状況
総務省「公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会報告書」での調査結果を紹介します。10万人以上の地方自治体では、Webアクセシビリティの認識は高く、取り組みも進んでいますが、それでも未だ継続的改善の体制は万全ではなく、特に職員の教育が重要だとされています。
3 地方自治体Webサイトのランキング
ここでは2例紹介します。順位にこだわるのではなく、「外部からの評価」として、どのような項目をどう評価しているのかを知り、Web向上のヒントとすることが望まれます。
4 「京都市情報館」への期待
本サイトは、全般的に優れたサイトですが、いくつか気づいた改善事項と、取り組まれているCMSの説明をします。また、本サイトは市外者(観光客)のアクセスが多いので、観光施設・銘品などの民間サイトとの連携強化が考えられます。Webサイトを地域活性化のツールとして活用することが、これからの自治体でのWeb戦略ではないでしょうか。

1 Webアクセシビリティとは/なぜ必要なのか

アクセシビリティとは

アクセスとは「接近する」こと「利用する」ことですから、アクセシビリティとは「利用ができること」「利用のしやすさ」だといえます。同じような概念に、ユーザビリティ、バリアフリー、ユニバーサルデザインなどがあります。 →用語解説
 Webアクセシビリティとは、特にWebページの閲覧などで、高齢者や障害者が不自由をしないようにすることです。しかし本稿では、Webアクセシビリティ対策をもっと広くとらえることにします。

ユーザビリティ
元来は人間工学の用語です。JIS Z 8521(視覚表示装置を用いるオフィス作業−使用性の手引き)では「特定の利用状況において,特定のユーザーによって,ある製品が,指定された目標を達成するために用いられる際の,有効さ,効率,ユーザーの満足度の度合い」と定義しています。
アクセシビリティ
JIS X 8341(高齢者・障害者等配慮設計指針−情報機器における機器,ソフトウェア及びサービス−)では「高齢者・障害者が,情報通信機器,ソフトウェア及びサービスを支障なく操作又は利用できる機能」としています。
バリアフリー
高齢者・障害者が社会に参加したり日常生活をおくるための障壁(バリア)を排除することです。例えば、音楽付きの交差点信号機設置、道路の段差をなくすなど社会生活に参加する上で生活の支障となる物理的な障害(障碍)や精神的な障壁を取り除くための施策、若しくは具体的に障害を取り除いた状態をいいます。
ユニバーサルデザイン
元来は建築用語でバリアフリーを考慮した設計のことを指します。Webアクセシビリティとは,Webページ作成でのユニバーサルデザインだともいえます。
狭義のWebアクセシビリティ対策
JIS X 8341-3で規定しているような、高齢者・障害者を考慮した対策です。
広義のWebアクセシビリティ対策
高齢者・障害者だけでなく、一般の利用者にとって使いやすいことを目的とした対策です。ユーザビリティといってもよいでしょう。
超広義のWebアクセシビリティ対策
アクセシビリティの範囲を超えていますが、「役に立つWeb」を目的とした対策です。

狭義のWebアクセシビリティ対策

高齢者・障害者を考慮したWebページにすることは「思いやり」ではなく「義務」なのです。特に地方公共団体のWebでは必須の対策事項です。

IT基本法( http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/hourei/index.html)の第8条(利用の機会等の格差の是正)では、「高度情報通信ネットワーク社会の形成に当たっては、地理的な制約、年齢、身体的な条件その他の要因に基づく情報通信技術の利用の機会又は活用のための能力における格差が、高度情報通信ネットワーク社会の円滑かつ一体的な形成を著しく阻害するおそれがあることにかんがみ、その是正が積極的に図られなければならない。」としています。
 障害者基本法( http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/kaisei.html)では、第6条の2(国民の責務)で「国民は、社会連帯の理念に基づき、障害者の人権が尊重され、障害者が差別されることなく、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加することができる社会の実現に寄与するよう努めなければならない。」、第19条(情報の利用におけるバリアフリー化)では「国及び地方公共団体は(中略)障害者に対して情報を提供する施設の整備等が図られるよう必要な施策を講じなければならない。」としています。

それには、JIS X8341-3に準拠するのが適切です。序文では、次のように示されています。
「この規格は、
  主に高齢者、障害のある人及び一時的な障害がある人が、
  これらの情報通信における機器、ソフトウェア及びサービスを利用するときの
  情報アクセシビリティを確保し、向上させるために、
  ウェブコンテンツを企画、設計、開発、制作、保守及び運用するときに
  配慮すべき事項として明示したものである。(後略)」
原本は http://www.jisc.go.jp/app/pagerで閲覧できます。 →概要

JIS X8341-3の構成

  序文
  1 適用範囲
  2 引用規格
  3 定義
  4 一般的原則
  5 開発及び制作に関する個別要件
  6 情報アクセシビリティの確保・向上に関する全般的要件
  附属書1(参考)ウェブコンテンツに関する例示
  附属書2(参考)関連規格

4 一般的原則

4.1 基本方針
 a 企画・制作するときに,可能な限り高齢者・障害者が操作又は利用できるように配慮する。 
 b ウェブコンテンツは,できるだけ多くの情報通信機器,表示装置の画面解像度及びサイズ,
  ウェブブラウザ及びバージョンで,操作又は利用できるように配慮する。 
 c ウェブコンテンツの企画から運用に至るプロセスで情報アクセシビリティを常に確保し,
  更に向上するように配慮する。 
4.2 基本的要件(〜しなければならない事項)
 a 視覚による情報入手が不自由な状態でも利用できる 
 b 聴覚による情報入手が不自由な状態でも利用できる 
 c 特定の身体部位だけでの入力方法に限定しない 
 d 身体の安全を害することなく利用できる 
4.3 推奨要件(〜することが望ましい事項)
 a 認知及び記憶への過度な負担をかけずに,ウェブコンテンツを操作又は利用できる。 
 b 利用する情報通信機器及び利用環境を限定せずに,多様な環境でも,ウエブコンテンツを
   操作又は利用できる。 
 c 情報通信機器及びウェブブラウザの操作及び利用に不慣れな利用者でもウェブコンテンツ
   を操作又は利用できる。

5 開発及び制作における個別要件

5.1 規格及び仕様
5.2 構造及び表示スタイル
5.3 操作及び入力
5.4 非テキスト情報
 5.4.a 画像には、利用者が画像の内容を的確に理解できるようにテキストなどの代替情報を
    提供しなければならない。
 5.4.b ハイパリンク画像には、ハイパリンク先の内容が予測できるテキストなどの代替情報
    を提供しなければならない。
 5.4.c ウェブコンテンツの内容を理解・操作するのに必要な音声情報には、聴覚を用いなく
    ても理解できるテキストなどの代替情報を提供しなければならない。
 5.4.d 動画など時間によって変化する非テキスト情報には、字幕又は状況説明などの手段に
    よって、同期した代替情報を提供することが望ましい。同期して代替情報が提供できな
    い場合には、内容についての説明を何らかの形で提供しなければならない。
 5.4.e アクセス可能ではないオブジェクト、プログラムなどには、利用者がその内容を的確
    に理解し操作できるようにテキストなどの代替情報を提供しなければならない。また、
    アクセス可能なオブジェクト又はプログラムに対しても、内容を説明するテキストなど
    を提供することが望ましい。 
5・5 色及び形
5.6 文字
5.7 音
5.8 速度
5.9 言語

広義のWebアクセシビリティ対策

高齢者・障害者だけでなく、利用者のなかにはWeb利用の初心者もいますが、そのような人にも利用してもらうには、使いやすいことが必要です。また、熟達している人にとっても、使いやすいことが求められます。
 JIS X8341-3での規定に従うことにより、一般利用者にも使いやすいWebページにすることができますし、使いやすいWebページにするための工夫に関する図書やサイトは多くあります。その一つとして、情報通信研究機構「みんなが使えるホームページの作り方」( http://www2.nict.go.jp/v/v413/103/accessibility/minna/)を紹介しておきます。
 さらに、広義のアクセシビリティ対策としてはセキュリティ対策も重要な要素になりますが、ここでは省略します。

特に地方自治体のWebページでは、電子自治体の発展により、住民と行政の間のコミュニケーションツールとしてWebページが重要な役割を持っています。行政からの広報機能では住民の知る権利を保証する必要がありますし、意見募集では主張する権利を保証する必要があります。さらに、Webページによる申請・手続システムでは機会均等が求められますし、災害情報・医療情報の通知など人命や財産に関係することもあります。このようにWebページの機能が充実するのに伴い、成果享受の機会均等が求められ、格差是正措置が必要になります。すなわち、アクセシビリティがますます重要になるのです。

もし、誰もが容易にアクセスできる環境になったとすれば、従来は紙で配布していた情報をWeb掲示ですませることも可能ですし、住民の意見募集や申請手続きをすべてオンラインで行うことができます。そうなれば、行政の業務合理化ができ、行政コストの抜本的な軽減が実現します。
 住民全員にそのような利用を強制することは困難でしょうが、利用率が90%以上にすることは不可能ではないでしょう。そのような状況になれば、残りの10%の人に特別の支援方法を工夫することができるでしょう。これは空想論かもしれません。しかし、10年後・20年後には、これが現実に可能になると思われます。地方財政の観点からも、Webアクセシビリティ向上は重要な施策だといえます。

超広義のWebアクセシビリティ対策

地方財政の観点から考えるならば、このWebページを地域経済発展の戦略的なツールであると位置づけることができます。住民だけを対象にするのではなく、全国あるいは世界に対して、地域産業との取り引きの増大、地域観光への招致などの戦略的なツールとして活用することが考えられます。すなわち「役に立つ」Webページにすることが求められるのです。
 これに関しては、本稿の最後で再考します。


2 地方自治体でのWebアクセシビリティ対応状況

地方自治体でのWebアクセシビリティへの取り組み状況に関して、総務省「公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会報告書―誰でも使える地方公共団体ホームページの実現に向けて―」(2005年)の調査を紹介します。
 ここでは、同報告から、10万人以上の市だけ(135市)を対象にします。
 結論を先にすると、次のことが指摘されます(これは私の意見です)。

Webアクセシビリティの認識度

Webアクセシビリティの認識度は高いのですが、その必要性の認識は一部の職員にとどまっており、全職員が認識しているとはいえない状態です。

(拡大図)

運用での課題が多い

主管部署は明確になっており、作成指針や作成・更新の手続きも明確になっています。ところが、いくつかの課題があります。
 基本方針をWebページに示しているのは未だ少ない状況です。これは、セキュリティポリシーやプライバシーポリシーのように、外部へも示すことにより、その実現をマニュフェストとして宣言することからも重要です。
 さらに、具体的な目標や実施計画を策定している自治体はかなり少ない状況です。継続的な改善運動として向上させるためには、これらの策定が必要です。  ほとんどの自治体が外部意見を取り入れていない状況です。Webサイトは利用者のために構築・運用するのですから、狭義・広義のWebアクセシビリティを確保するには、利用者である住民などの外部者の参画が重要です。
 すなわち、形式は整備されているのですが、未だ実質が伴っていない状況のようです。

(拡大図) (拡大図)

継続性では、「慣れ」が生じていないかという懸念です。Webページ構築より遅れてWebシステム導入が行われたと考えられますが、Webシステム導入時のほうが発注先の選定や評価などすべての面で甘くなっています。付き合いのできた発注先に丸投げの傾向が出てきたのではないかと懸念されます。

職員教育での課題

「担当職員の理解や知識が十分ではない」ことが指摘されています。また「異動によりノウハウが引き継がれない」のは知識経験が一部の人に限定されているともいえます。それで、職員教育が重要なのですが、過半数の自治体が「どのようにすべきかわからない」状態でとまどっており、適切な教育体制が未整備の段階なようです。

(拡大図)

3 地方自治体Webサイトのランキング

地方自治体Webサイトを調査してランキング付けした結果が多数公表されています。ここでは、日経BPコンサルティング「自治体サイトユーザビリティ調査2005/2006」( http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/govtech/20051208/225928/)と、 ユニバーサルワークス「自治体サイトWebアクセシビリティ調査 2006」( http://www.u-works.co.jp/jichitai/index.html)の結果を紹介します。
 どちらの調査でも、京都市のWebサイト「京都市情報館」は優れた順位になっています。

(拡大図)

このような調査では、調査により評価項目、評価方法が異なるので、それらの結果順位にはかなりの相違があります。また、各自治体が改善に努力していますので、いつ調査をしたかで順位が大きく異なります。それで、これらの順位に一喜一憂するのは不適切です。
 しかし、これらにより、外部がどのような項目に着眼し、どう評価しているのかを知ることができます。その評価項目の多くは利用者の視点で設定されていますので参考になります。また、順位の高い他自治体のサイトを調べることにより、改善のヒントを得ることができます。

日経BPコンサルティングでは、トップページ・ユーザビリティ、サイト・ユーザビリティ、アクセシビリティ、インタラクティブ、プライバシーとセキュリティの5つの視点で評価しています。 →評価項目の説明

トップページ・ユーザビリティ
サイトで具体的に何ができるのかを示したリンク(アクションリンク)を配置しているか、トップページにサイトマップへのリンクがあるかなどのチェック
●アクションリンク、サイトの目的の明示、自治体概要へのリンク、サイトマップ・検索、サイトロゴ、トップページの基礎など
サイト・ユーザビリティ
主要ページのナビゲーションの内容・形・位置が一定であるか、現在位置が提示されているか、トップページへのリンクを張っているかなどをチェック
●ナビゲーションバー、トップページへのアクセス、自治体概要へのリンク、SEO対策など
アクセシビリティ
目の不自由でも主要ページを見ることができるか、ブラウザでフォントの大きさを変えられるか、フォントカラーは背景に対して見やすいかなどをチェック
●音声ブラウザ対応、読み上げ順の配慮、フレーム、フォントカラーとフォーマットなど
インタラクティブ
問い合わせ先を明記しているか、電子メール・Webフォームでサイトに対する意見・感想を受け付けているか、フィードバックを用意しているかなどをチェック
●問い合わせ情報、外国語への対応、携帯電話への対応、連絡先、アクセス情報の明記、部署、部門別の問い合わせ先の有無、フィードバックの有無など
プライバシーとセキュリティ
プライバシーポリシーの有無や、集めている個人情報の内容を明らかにしているかなどをチェック
●プライバシーポリシーへのアクセス、セキュリティ、プライバシ−ポリシーの適用範囲、情報収集の内容、情報の暗号化の明記など

ユニバーサルワークスでは、音声化対応、操作性、可読性、レイアウト、汎用性の5つの視点ですが、何がそれに該当するかの説明はなく、代わりに具体的な約50個の評価項目が示されています。 →評価項目の説明

市町村名が明記されているか
適切なページタイトルが設定されているか
問い合わせ先が提示(メールアドレス or フォーム)されているか
サイトマップが提供されているか
サイト内の基本的なナビゲーションが統一されているか
現在表示されているページのサイト内での位置が明示されているか
ページ幅800pixel以内で構成されているか
ページ長1500pixel以内(or ページ内リンク)で構成されているか
ページファイルサイズは100KB以内におさまっているか
異なるOS・ブラウザでの表示が考慮されているか
更新された情報が明示されているか
日付表記に「.」「/」等が使用されていないか
長音や送りがな、「ホームページ」などの用語が統一されているか
全角・半角の使い方が統一されているか
半角カナや環境(機種)依存文字等が使用されていないか
フォントサイズが固定されていないか
単語内に不必要なスペースや改行が使用されていないか
取り消し等の文字修飾の単独使用がされていないか
リンク設定部分に十分な面積が与えられているか
リンク設定部分の相互の間隔に配慮されているか
リンク先の内容がわかるリンクテキストとなっているか
リンク先を新しいウィンドウで表示していないか
リンクテキストの下線が消去されていないか
適切なファイル名が使用(長すぎない、半角英数等)されているか
ステータスバー(リンク先表示部)にメッセージ表示がされていないか
画像ファイルは適切な大きさで表示されているか
画像のwidth、height属性は設定されているか
画像に適切な(注釈等を含む)ALT属性が設定されているか
ボタンかどうか容易に判別可能か
意味を持たない画像に適切なALT属性が設定されているか
イメージマップに適切なALT属性が設定されているか
色彩のみによる内容の識別を行っていないか
背景色と文字色のコントラストは適切か
画像内の文字は読みやすいものか
画像ではなく、HTMLファイルに対してリンク設定がされているか
キーボードのみで操作可能か
操作手段がJavascript等を用いたものに限定されていないか
メニューの言葉やアイコンはわかりやすいものが使用されているか
定義や解説なしに専門用語・略語・俗語等が使用されていないか
テーブル(表組)の読み上げ順序や行と列の関係に配慮されているか
テーブルに表題が記述されているか
フレームは必要最小限の使用にとどまっているか
フレーム未対応ブラウザへの対応はなされているか
ページが自動的に更新されたり他ページへ移動したりしないか
特定の技術やプラグインが必要な場合、それが明示されているか
特定の技術やプラグインの代替手段が用意されているか
特定の技術やプラグインの「スキップ」が用意されているか
ファイルダウンロード時のファイルサイズが明示されているか
点滅する文字(画像内も含む)が使用されていないか
スクロール文字(レイヤー等含む)が使用されていないか

Webページに関する私の意見

上の2つの調査での評価項目でも示されていますが、特にWeb作成者に認識していただきたいことを列挙します。

画面に凝るのはムダどころかマイナス効果
少なくとも自治体のWebサイトに芸術性を求めて閲覧する人はいません。きれいな写真やイラストなどは価値がありません。Web技術力を求めて閲覧する人もいません。AjaxなどのWeb2.0技術をどう使っているかなどを調べようとして自治体サイトを研究する人はいないのです。
 以前は8秒ルールといわれましたが最近は2秒ルールといわれています。画面表示に2秒以上かかったら、閲覧者はそのページを放棄してしまうというのです。画面に凝って重いページにすることはマイナスなのです。
 検索サイトあるいはWeb2.0の先駆者として有名なGoogleのスタートページを見てください。ロゴ以外に一切のかざりがありません。
ナビゲーションのわかりやすさが重要
自治体サイトを閲覧する人は、以前に何を調べるか目的があって閲覧するのです。スタートページは看板ではなく案内所なのですから、目的とするページへすぐに到達できることが最大の機能なのです。スタートページで閲覧者をまごつかせてはなりません。
ニーズに合致したページ構成が重要
自治体サイト利用者のニーズは、市のサービス、市政の動向、観光目的など多様です。これらをクロスしてみようという人はいません。ですから、利用目的によりスタートページのレイアウトを決定すべきなのです。例えば、ページを目的別に縦に3つに区切ったのだが、ある列が長くなりすぎたので、他の列に移したようなページがありますが不適切です。
スラング(愛称)は部外者にはわからない
作成者の独りよがりの例として、以前は部局別にわけたページがありましたが、現在ではさすがになくなりました。ところが、「彩の国だより」とか「みんなの広場」というような愛称が多くなりました。当事者はそれが何であるかを知っているし、そのほうが親しみやすいと思っているのでしょうが、部外者には理解できません。

4 「京都市情報館」への期待

京都市殿のWebサイトは、「京都市情報館」(http://www.city.kyoto.jp/koho/ind_h.htm)です。

狭義・広義のアクセシビリティ

上記の調査でも上位にランクされているように、このサイトは優れたサイトです。本サイトでは、アクセシビリティポリシーを掲げています( http://www.city.kyoto.jp/koho/site/index.html)。そこで、
 ・使いやすいホームページを目指します。
    ユーザビリティへの配慮(本稿での広義のアクセシビリティ)
 ・だれもが同じように利用できるホームページを目指します。
    アクセシビリティへの配慮(本稿での広義のアクセシビリティ)
と宣言しているように、アクセシビリティ全般に優れています。それでも、探せばいくつかの改善すべき事項が見つかります。

狭義対策

全般に画像リンクが多い
美的考慮からか、リンク箇所をわざわざ画像にしているのが気になります。
例えば、区役所サイトへのリンクは地図でのクリッカマブルリンクだけになっていますが、あえて区の配置を認識してもらう必要はないと思いますし、文字列でのリンクもつけるべきでしょう。
「ハートフルマーク」
本サイトでは、各ページに「ハートフルマーク」として、音声読上げや文字拡大などのサービスをしています。これは非常に結構なことなのですが、残念なことに、ツールメーカーの都合からか対象ブラウザ・OSが限定されています。

広義対策

サイトマップの位置
本サイトのように掲示内容が多様なサイトでは、スタートページでのナビゲーションだけでは不十分なので、サイトマップを併用します。本サイトもサイトマップはあるのですが、探しにくい場所にあります。通常のWebサイトの慣習に合わせて、上段に置くのがよいでしょう。
サイト内検索
これも便利な機能です。スタートページ(A)は適切なのですが、他のページでは(B)のようになっていり、[検索]をクリックすると入力画面に移動するような余計な操作が必要になります。
全体レイアウト
スタートページが3列区分になっているが、列の区分が不明確なので、目的の項目を探すのが難しいものがあります。
ページにより体裁が異なるとか、他ページへの移動の方法が異なるなど、統一性に欠けているページもあります。

CMSの導入について

Webサイトの管理、特にアクセシビリティ対策のツールとして、CMS(Content Management System)の導入が話題になっています。京都市殿でも近いうちに導入する予定だと伺っております。それで、CMSの概要について簡単に紹介します。

CMSとは

CMSとは、Webサイトの素材データとデザインやルールなどを一元管理するシステムです。それにより、Webページ作成の知識がない職員でも容易に作成できます。特にJIS X8341-3準拠などアクセシビリティで考慮すべき機能が内蔵されていますので、意識しなくてもアクセシビリティを考慮したWebページになります。
 CMSは、これ以外にも多様な機能を持っており(→CMS機能概要)、自治体のように、多くの部署でWebページを作成する環境では、非常に役立つツールです。

CMSの機能

CMSの持つ機能は、製品により、あるいは設定によりまちまちですが、一般的に次のような機能を持っています。

デザイン等の統合
各ページが統一されたレイアウトのWebページになります。ページ間のリンクが自動作成され、しかも統一した操作になります。それで、閲覧者が使いやすいサイトになります。
アクセシビリティ対策
例えば画像には自動的に代替テキストが付けられるなど、JIS規格等のルールが強制的に確保されます。さらには、使用禁止用語や個人情報などを検出して注意を促す機能もあります。
Webページ制作の知識不要
このように、誰でも一定のルールに従ったWebページが作成できますので、各部署で分担してWebページの作成・更新が容易になります。それにより、Webマスター(Webサイト構築管理者)の負荷が削減できますし、作成を通して職員のアクセシビリティやWebサイトへの意識向上にも役立ちます。
セキュリティ/責任の明確化
CMSでは、Webページの作成→承認→公開の作業の流れを制御します。決められた項目を決められた担当者が作成すると、承認者にその原稿が送付され、承認を得たら公開担当者に送付されて公開するという手続きがルール化されるのです。しかも、それらの状況がすべて記録されますので、セキュリティ/責任が明確になります。
素材管理
バックナンバー管理により、過去の記事を取り出すことができます。また、記事・写真などを部品化しておき、必要に応じて再利用することができます。
他システムとの連携
例えば毎月同じような統計データをグラフにしてWebページに掲げるとき、Excelデータを変更するだけで自動的にグラフが置き換わるような機能を持つCMSもあります。
 Webサイトの見出しや要約などを構造化して記述し、更新があったときに配信するサービスをRSSといいます。自治体でのRSSサービスが求められていますが、これらを自動化する機能を持つCMSもあります。

しかし、CMSを導入すれば、すべて解決するわけではありません。上記のWebアクセシビリティに関するランキング調査でも、CMS導入サイトによる差異は認められないとのことです。CMSでカバーできるのは最低保証であり、最適保証ではないことに留意してください。

カスタマイズ(設定)が必要
自治体の環境に合わせて、CMSの持つ機能の選択、追加機能の取り込みが必要です。使いこなしていない状況で、過剰な機能を取り込むとかえって運営できなくなります。
体制の整備が必要
どのようなルールにしてどのように運営するかが問題です。それには、ツールベンダ、Webマスター、各部署担当者あるいは開発外注先も含めた検討が必要です。当初から万全の体制を作り運営することは困難です。目標を設定し、実行し、その結果をみてさらに向上するといったPDCAによる継続的改善が求められるのです。
ツールに満足するな
CMS導入で留意すべきことは、形式主義に陥らないようにすることです。新しいコーナーでは、既存のページとは異なる形式にすることも必要でしょう。また、特に重要なことを伝えるためには、形式にとらわれない記述も必要でしょう。
だからといってルールを無視してよいというのではありません。そのようなケースが起こったときに関係者が相談して、新ルールを作ることが適切です。それがPDCAでもあります。

「アクセシビリティを超えて」での期待

ビデオリサーチインタラクティブ(2006年1月〜12月実績)によると、他の政令都市のWebサイトと比較して「京都市情報館」へのアクセスには特徴があります。

(拡大図)

市外者アクセスが多い。訪問者数が京都市人口の130%です。政令都市平均が73%ですので、130−73=47、47/130=36%が市外からのアクセスだと推定できます。これは、京都が観光や経済の中心地であることからも自然でしょう。
 ところが、平均滞在時間:9.2分(平均:12.1分)で、平均接触回数:2.4回(平均:3.2回)なのは、訪問したが期待ずれですぐ出て行ってしまい、リピートされないのではないかと推測できます。このサイトは、市外者にとって魅力のないサイトだというのは言いすぎでしょうか?

京都市では「e−京都21」(2007版)として、ITの戦略的活用を政策としています。その目標3として「ITの活用による新しい京都づくり」を掲げ、「文化や芸術資源,個性豊かな大学の集積を,ITでネットワーク化し活用するとともに,民間活力を最大限活用して,京都の産業・経済の活性化と21世紀の基幹産業である観光の振興を目指す」としています。
 これを「京都市情報館」に適用するならば、本サイトを経済と観光の発展の武器とする戦略が考えられます。「魅力のないサイト」からの脱却が求められるのです。

以降は、京都の発展のために本サイトをどう運用するかについての単なるアイデアです。実状を理解していない部外者の私見で、既にご実施のことかもしれませんし、あるいは間違っているかもしれません。

民間サイトのランクアップ支援
産業や観光の分野でWebが重要な役割を持つようになりました。それに対処するには自社サイトが検索エンジンの上位に表示されることが不可欠です。上位にランクされるには、SEOなどの工夫もありますが、上位ランクのサイトからリンクされていることが最大の評価項目です。本サイトが民間サイトにリンクすることが、産業・観光に大きく寄与するのです。
「自治体が特定企業を支援するのは問題だ」という考えもあります。でも、最近はバナー広告で収入を得ている自治体サイトもあります。また、直接にリンクするのが問題であれば、商工会議所や観光協会とのタイアップも考えられます。
公的機関との連携
上記の支援でも本サイトのランクアップが重要です。本サイトは「京都」をキーワードにすれば上位にランクされますが、それ以外の「西陣織」「清水寺」ではヒットされません。すなわち、ポータルサイトとしての役割にはなっていないのです。これらのキーワードでは、民間の販売サイト以外に多数の研究機関などのページがあります。それらとの連携を深めることが、双方のメリットになりましょう。
部品提供
公的機関や民間のサイトと単に相互リンクをするだけでなく、文献や写真などの部品の提供、GIS情報などの提供も考えられます。それらを自由に活用できれば、民間がさらに魅力的なサイトを構築することができます。例えば銘菓店が自社製品のページだけでなく、京都のお菓子の歴史などのページを加えることにより、アクセス数を高めることができます。
 GIS情報を提供すれば、それにホテルや公衆トイレなどの情報を組み込んだ新サービスも出現するでしょう。
二次加工を想定したデータ提供
本サイトでは、既に多くの情報を提供していますが、それを二次加工するのに便利なまでにはなっていません。例えば多くの統計データが提供されていますが、多くは画像になっており、それを使うには再入力が必要です。Excelデータをダウンロードできるようにしてあると便利です。
 自治体の著作物には著作権が適用されないとはいっても、Webページの一部をそのままコピーして用いるのは気がひけます。特定のページだけでも、自由利用を明示してあると、さらに利用が増大すると思うのですが。

これらの試みを本サイトだけでなく、他の公的機関へも働きかけることにより、全京都の発展につながるのではないかと思います。


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