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個人情報保護と過剰反応問題


過剰反応の例

ITの発展に伴い、個人情報保護が重要な課題となりました。そして、2003年に行政機関個人情報保護法、2004年には個人情報保護法(2005年全面施行)が公布されました。それにより、個人情報への関心が高くなりました。それはよいことなのですが、反面、それへの「過剰反応」が問題になってきました。

国民生活センター「最近の個人情報相談事例にみる動向と問題点」2005年では、次のような相談事例をあげています。
○生命・身体に関するもの
 ・JR宝塚線(福知山線)の脱線事故。家族からの安否確認への回答で現場が混乱。
 ・「本人には病名を告知しないでほしい」と依頼していた。他の専門医療機関に見
  解を求めようとしたら、本人同意がないと病名を他院に知らせられないといわれた。
○学校・保育園に関するもの
 ・運動会や卒園アルバムなどの集合写真が制作できなくなった。
 ・40人クラスの中学校で、連絡網表に6人程度しか記載されていない。
○地域活動に関するもの
 ・自治会で防災マップを作ろうとしたが、地図に個人住宅を記入できない。

また、国勢調査は国民に申告義務があるのですが、国勢調査の実施に関する有識者懇談会報告(2006年)では、2000年調査の未回収率が1.7%だったのが、2005年では4.4%に急増しており、その原因の一つが個人情報保護の過剰反応だと指摘しています。

過剰反応に関する国の対策

個人情報保護法の成立に関連して、「個人情報の保護に関する基本方針」(2004年閣議決定)では、全面施行後3年を目途に再検討することとしています。それで、国民生活審議会個人情報保護部会は「個人情報保護に関する取りまとめ(意見)」(2007年)(http://www5.cao.go.jp/seikatsu/shingikai/kojin/20th/torimatome.pdf)を発表しました。法律そのものは変更する必要はないが、基本方針の見直し、各省のガイドラインのあり方、過剰反応問題への対処などについて言及しています。過剰反応に関しては、次のような主旨がいわれています。

この「取りまとめ」発表以降、検討が進められており、2008月3月には政令、基本方針等の改正が行われ、それを受けて、4月以降に各省ガイドラインの見直しの検討が開始される予定になっています。

過剰反応の原因

過剰反応の原因に、関係者自身が法律を理解していないことがあります。
 内閣府「個人情報保護に関する世論調査」2006年調査では、「名簿作成の中止で困るか」の問いに、「強く感じる」と「ある程度感じる」が過半数なのに、「学校や地域社会の緊急連絡網などの名簿は,本人から名簿の個人情報を削除してほしい旨の求めがあった場合には,その情報を削除することを明示した上で,作成・配布することもできることを知っているか」に対して、半数近い人が知らないと答えているのです。
 改善のためには、地方自治体からの周知活動が求められますが、総務省「地方自治情報管理概要」2007年によると、都道府県では過半数が周知活動を実施しているが、市区町村では10%にも満たない状況です。

防災会議は「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」2006年3月改訂「災害時要援護者対策の進め方について」2007年3月などにより、「災害時に要援護者の避難支援等を行うためには、要援護者の名簿を作成し、平常時から、支援を行う防災関係部局と福祉関係部局や、自主防災組織、民生委員等と要援護者名簿を共有し、災害時に活用できるようにする必要がある。」としているのですが、徹底していないようです。

上記の世論調査では、「防災・防犯のための個人情報の共有・活用」に、「積極的に共有・活用すべき」が29.3%、「必要最小限で共有活用してもよい」が59.5%と圧倒的な多数が容認しています。また、「個人情報保護問題への関心」については、全体では「関心がある」が32.9%、「まあ関心がある」が40.6%で高い割合になっているのですが、要援護者と想定される70歳以上では、それぞれ24.9%、27.5%と低い割合になっています。
 関心が低いから名簿を作ってもよいというのは暴論ですが、本人よりも関係者が過剰反応しているようにも思われます。

当事者のジレンマを防げ

そもそも個人情報保護法の主旨は情報主体(個人情報の本人)の権利保護にあります。「法律・内部規程遵守」は提供側の論理であり、「本人の利益になるか」は情報主体の視点です。そのバランスが必要です。過剰反応が問題になっていますが、「面倒に巻き込まれたくない」のは論外として、法律・内部規程に違反してまで提供するとなると、当事者に深刻なジレンマを強いることになります。基準の明確化が望まれます。


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