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医療・介護分野での個人情報の特徴


医療・介護分野での個人情報の特殊性

個人情報には、氏名や住所など、社会生活で日常的に伝えている公知情報、学歴や勤め先など、秘密にしているのではないが、広くは知られたくない非公知情報、思想・宗教、犯罪歴、病歴など、他人に秘密にしたい機微情報(センシティブ情報)に区分できます。公知情報ですら、プライバシーの侵害やスパムメールなどの被害にあうことがあるので、個人情報として個人情報保護法の保護対象になっていますが、医療・介護分野では、次のような特徴があるため、個人情報の取り扱いには注意が必要です。

職業倫理としての個人情報保護義務

医療・介護の分野では、患者の秘密を守ることが職業倫理とされてきました。昔から「ヒポクラテスの誓い」や「ナイチンゲールの誓詞」などがありましたし、現代になっては、医師や看護師の国際機関などが宣言を発表し、時代に合わせて改訂しています(いくつかの宣言例)。近年では、個人情報保護が単に倫理ではなく、患者の権利として認識されるようになったのが特徴です。
 また、刑法でも「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産婦、弁護士、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのにその業務上取扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6ヶ月以下の懲役または10万円以下の罰金に処する。」(第134条)としています。

主な倫理規定

(石井トク・野口恭子編著『看護の倫理資料集 看護関連倫理規定/綱領/宣言の解説』丸善 より)
 I. 看護師の職業倫理
   1.ナイチンゲール誓詞(1893年)
   2.看護婦の規律(1950年,ANA)
   3.看護婦の規律(1976年,ANA)
   4.看護婦の倫理国際規律(1953年,ICN)
   5.国際看護婦倫理綱領(1973年,ICN)
   6.ICN看護師の倫理綱領(2000年,ICN)
   7.看護婦の倫理規定(1988年,日本看護協会)
   8.助産師の誓い(1567年,Eleanor Pead)
   9.ICM助産師の国際倫理綱領(1999年,ICM)
 II. 医療における人権に関する倫理
   10.ニュールンベルグの倫理綱領(1947年)
   11.ジュネーブ宣言(1994年,WMA)
   12.人権に関する世界宣言(1948年,国際連合)
   13.国際医療倫理綱領(1949年,WMA)
   14.ヘルシンキ宣言(1964年,WMA)
   15.ヘルシンキ宣言(1975年,WMA)
   16.ヘルシンキ宣言(2000年,WMA)
   17.ベルモント・レポート(1979年,生物医学・行動研究における被験者保護のための国家委員会)
   18.患者の権利に関するリスボン宣言(1995年,WMA)
   19.ヒトゲノムと人権に関する世界宣言(1997年,UNESCO)
 III. 患者の権利に関する倫理
   20.患者としての貴方の権利(1972年,ベス・イスラエル病院)
   21.患者の権利章典(1973年,アメリカ病院協会)
   22.患者の権利宣言(案)(1984年)
   23.患者の権利章典(1991年,日本生協連医療部会)
   24.患者の権利の確立に関する宣言(1992年,日本弁護士連合会)
   25.ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言(1994年,WHO患者の権利に関するヨーロッパ会議)
   26.患者の諸権利を定める法律要綱案(2001年,患者の権利法をつくる会)
 IV. 医師の職業倫理
   27.ヒポクラテスの誓い(B.C.400年)
   28.医師の倫理(1951年,日本医師会)
   29.医の倫理綱領(2000年,日本医師会)
   30.医師のための職業規則(原型)(1997年,ドイツ医師会)
   31.医学倫理法規(1957年,ブラジル国中央医学審議会)
   32.産業医の倫理規定(1998年,健康開発科学研究会)
 V. コメディカル等の職業倫理
   33.職業保健専門家のための国際倫理規定(1992年,職業保健国際委員会)
   34.薬剤師倫理規定(1997年,日本薬剤師会)
   35.ソーシャルワーカーの倫理綱領(1995年,(社)日本社会福祉士会)
   36.国際ソーシャルワーカー連盟 ソーシャルワークの倫理―原則と基準(1994年,IFSW)
   37.日本介護福祉士会倫理綱領(1995年,日本介護福祉士会)
   38.情報処理学会倫理綱領(1996年,社団法人 情報処理学会)
 VI. 倫理に関連するその他の書
   39.児童の権利に関する条約(1994年,国際連合)
   40.女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(1979年,国際連合)
   41.精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則(1991年,国際連合)
   42.老人福祉施設倫理綱領(1993年,全国老人福祉施設協議会)
   43.診療情報の提供に関する指針(2000年,日本医師会)
   44.高度医療技術と医の倫理に関する東京決議(2000年,WMA)
   45.機関内倫理審査委員会の在り方について(2003年,文部科学省)

ヒポクラテスの誓い

医神アポロン、アスクレピオス、ヒギエイア、バナケイア及び全ての男神と女神に誓う、私の能力と判断に従ってこの誓いと約束を守ることを。
 この術を私に教えた人を我が親の如く敬い、我が財を分かって、その必要あるとき助ける。その子孫を私自身の兄弟の如くみて、彼らが学ぶことを欲すれば報酬なしにこの術を教える。そして書き物や講義その他あらゆる方法で、私のもつ医術の知識を我が息子、我が師の息子、また医の規則に基づき約束と誓いで結ばれている弟子どもに分かち与え、それ以外の誰にも与えない。私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。
 頼まれても、死に導くような薬を与えない。それを覚らせることもしない。同様に婦人を流産に導く道具を与えない。
 純粋と神聖をもって我が生涯を貫き、我が術を行う。結石を切り出すことは神かけてしない。それを業とする者に任せる。
 いかなる患家を訪れるときも、それはただ病者を利益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。女と男、自由人と奴隷の違いを考慮しない。医に関すると否とに関わらず、他人の生活についての秘密を守る。
 この誓いを守り続ける限り、私は、いつも医術の実践を楽しみつつ生きて、全ての人から尊敬されるであろう。もしもこの誓いを破るならば、その反対の運命を賜りたい。
(稲葉裕, 野崎貞彦編:新簡明公衆衛生第2版, 南山堂, 1996., p. 299.
 早稲田大学,Bioethics.lab 「ヒポクラテスの誓い」http://www.bioethics.jp/hipo-j.html より)

ナイチンゲールの誓詞

われはここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わむ
わが生涯を清く過ごし、わが任務を忠実に尽くさむことを。
われはすべて毒あるもの 害あるものを絶ち、悪しき薬を用いることなく、また知りつつこれをすすめざるべし。
われはわが力のかぎり わが任務の標準を高くせんことを努むべし。
わが任務にあたりて 取り扱える人々の私事のすべて、わが知り得たる一家の内事のすべて、われはひとに漏らさざるべし。
われは心より医師を助け、わが手に託されたる人々の幸のために身を捧げむ。
(石川 操「ナイチンゲール誓詞とヒポクラテスの誓い」
 山梨大学附属図書館医学分館「図書館だより」No. 24,May 1997
 http://www.yamanashi-med.ac.jp/~tosho/tayori/tayori.24/tayori24.pdf より)

ヘルシンキ宣言(2002年版)

世界医師会(World Medical Association、WMA)勧告:ヒトを対象とした生物医学研究に携わる医師への指針
21. 被験者の完全無欠性を守る権利は常に尊重されることを要する。被験者のプライバシー、患者情報の機密性に対する注意及び被験者の身体的、精神的完全無欠性及びその人格に関する研究の影響を最小限に留めるために、あらゆる予防手段が講じられなければならない。
日本医師会訳 http://www.med.or.jp/wma/helsinki02_j.html より

患者の権利章典 (アメリカ病院協会 1973年)

5.患者は、自分の医療のプログラムに関連して、プライバシーについてあらゆる配慮を求める権利がある。症例検討や専門医の意見を求める際、検査や治療に際しては秘密を守って慎重に行なわれなくてはならない。ケアに直接かかわる医者以外の者は、患者の許可なしにその場に居合わせてはならない。
(生存学研究センター「患者の権利章典 (アメリカ病院協会 1973年)」http://www.arsvi.com/1900/73.htm より)

医療・介護分野での個人情報漏洩の多様性

医療・介護分野では、個人情報が多様な状態で保管され、利用されています。そのため、漏洩する脅威も多様です。

個人情報漏洩の事例と対策

医療・介護分野では、個人情報保護への認識は高いのですが、それでも漏洩事件は多発しています。その原因や対策に関しては、一般の個人情報漏洩と同様ですので、「地方自治体関連の個人情報漏洩等事件」を参照してください。