電子カルテ、電子レセプト、日本版EHR
少子高齢化社会の進展に伴い、医療機関の経営効率と医療サービスの向上や国民健康保険の維持発展のために、医療にかかる間接費用の削減が求められます。また、地域における医療格差の解消のために、医療機関間連携や遠隔医療の推進がが大きな課題になっています。
国は、国民生活の充実から国家経済の発展まで広い分野にわたりITの利用促進が重要であるとして、e-Japan戦略(2001年~2005年)、IT新改革戦略(2006年~2010年)、i-Japan戦略2015(2011年~2015年)を推進してきました(参照:「国のIT政策」)。いずれの戦略でも、医療分野でのIT活用を重点の一つにしています(医療分野に関する各戦略の概要)。
2003年のe-Japan戦略Ⅱでは、IT利活用の先導7分野として、医療、食、生活、中小企業金融、知、就労・労働、行政サービスをあげ、医療に関しては、次のように示しています。
1 患者基点の総合的医療サービス、継続的治療等
・認証基盤整備、電子カルテのネットワーク転送・外部保存の容認〔2005年まで〕
2 医療機関の経営効率と医療サービスの向上
・医療機関情報の国民への開示(第3者機関による審査)
3 診療報酬請求業務の効率化
・診療報酬請求業務のオンライン化開始〔2004年度から〕医療機関100%対応可能〔2010年まで〕
・電子レセプトを担保にした金融機関からの融資
「喫緊の課題である少子高齢化を支える医療、環境問題等の21世紀に克服すべき社会的課題に対応するとともに、安全・安心な社会の実現、21世紀型社会経済活動を支えるIT経営や世界一の電子行政の実現に取り組む」ことを基本理念として、21世紀に克服すべき社会的課題への対応には、ITによる医療の構造改革が必要であると指摘しています。
1 電子レセプト(2010年度まで)
・完全オンライン化- 医療保険事務のコストの削減
・データベース化-予防医療等推進。国民医療費適正化
2 電子カルテ(2010年度まで)
・個人健康情報を「生涯を通じて」活用できる基盤
・医療安全の確保や医療機関間の連携等
3 医療・健康・介護・福祉分野全般にわたる情報化推進
「デジタル技術・情報により経済社会全体を改革して新しい活力を生み出し(Digital Innovation)、個人・社会経済が活力を持って、
新たな価値の創造・革新に自発的に取り組める社会等を実現」することを目標として、電子政府・電子自治体、医療・健康、教育・人材を3大重点分野としています。医療・健康では、次の2つを掲げています。
1 地域の医師不足等の問題への対応
・遠隔医療技術の活用
・医師等の技術の維持・向上
・地域医療連携の実現等
2 日本版EHR(Electronic Health Record)の実現
・医療過誤の減少、個人の生涯を通じた継続的な医療の実現
・処方せん・調剤情報の電子化
・匿名化された健康情報の疫学的活用等
レセプトとは、診療報酬明細書といわれ、医療費を計算するための. 薬、処置、検査などの医療行為の内容とそれを点数化した医療請求の書類です。健康保険と自己負担金の差額を請求するために、審査支払機関に送付して審査を受け、さらに保険者へ送られて差額金を受け取ります。医療機関での売上請求明細書にあたるものですから、このレセプトを作成したり点検するレセプト業務は、医療事務の大きな作業になっています。
これをシステム化、オンライン化することにより、次の効果があります。
・レセプト業務のシステム化による経費節減
・不正請求や記入ミスの防止
・保険医療機関、保険薬局などへのオンライン化による迅速化
レセプトの電子化は、医療制度改革の大きな柱として、義務付けられています。大規模病院では20年度から、23年4月に完全実施する予定でしたが、機械購入などの費用もかかるため医療機関の反発もあり、先送りになるようです。
→参照:厚生労働省「医療制度改革に関する情報」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/info02g.html)
カルテとは、医師が診察をしたときに、診察の内容を記述する文書のことです。カルテの作成は、医師法で義務として定められており、5年間の保存義務があります。
医師にとって、カルテ作成作業は時間がかかり、本来の診察時間を圧迫します。短時間で記述するために、必要事項を記述しなかったり、文字が乱雑で読めなかったりします。システム化は、これらの解決に役立ちます。
カルテをデジタル化することにより、患者が他の医療機関に移ったときや医師が専門医療機関の協力を求める場合など、他の医療機関との連携が容易になります。そのためには、用語や記述方法の統一が必要であり、その作業が進められています。電子カルテは大病院では進んでいますが、全体的には普及率は未だ低く、その利用も病院内に限られ、他の医療機関とのオンライン化はあまり行われていない状況です。
EHR(Electronic Health Record、生涯健康医療電子カルテ)とは、電子カルテなど医療情報を医療機関間でネットワーク化することです。具体的には、個々の医療機関が地域の中核医療機関とネットワーク接続し、中核医療機関にある要約情報レジストリを介して、相互参照できる仕組みになります。
国民の立場では、どの病院にいっても、以前に他の病院で受けた診断や治療の情報が得られるので、安心して他の病院にかかることができますし、同じような検査を受ける必要もなくなります。EHRが発展すれば、個人が自分の医療履歴を入手して、生涯を通して健康管理ができるようになりましょう。医療の立場では、診療情報を集積することにより、国レベルの疾病予防・医療の質の向上と効率化・医療費適正化を実現することが期待できます。
このような観点から、英国の Connecgting for Health、カナダの Infoway など、多くの国でEHRを国家医療IT政策として推進しつつあります。i-Japan2005では「日本版EHR(仮称)」として推進する計画になっています(i-Japanでの説明)。
国の政策によるだけでなく、多くの医療情報が電子化、オンライン化してきました。それにより、個人情報漏洩の脅威は格段に大きくなっています。
このような脅威に関して、レセプト完全オンライン化や日本版EHRの実現のために、独自の医療情報ネットワーク基盤をが整備されてきました。また、厚生労働省は「レセプトのオンライン請求に係るセキュリティに関するガイドライン」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info02_62.pdf)を策定しています(その目的)。
しかし、それらの対策は万全ではありません。個々の運用面での工夫、関係者の意識向上が求められます。
厚生労働省「レセプトのオンライン請求に係るセキュリティに関するガイドライン」平成18年
(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info02_62.pdf)
1 目的
情報システムの導入は、事務処理の効率化、利便性の向上等のメリットをもたらすことを目指している。しかし、そのメリットの反面、適切な対策が欠如したまま導入した場合には、データの漏洩、消失及び破壊や、情報システムの停止など、事務処理に多大な影響を与える可能性がある。診療報酬明細書等(以下単に「レセプト」という。)に係る電子情報処理組織の使用による費用の請求に関わるシステム(以下「オンライン請求システム1」という。)についても決して例外ではなく、特に患者の氏名や傷病名等の慎重な取扱いを要する個人情報2を伝送するシステムであるため、適切な対策を講じる必要がある。
このような観点から、本ガイドラインは、レセプトのオンラインによる提出及び受取(以下「オンライン請求」という。)に際し、レセプトに含まれる個人情報を適切に保護するとともに、オンライン請求業務の円滑な遂行に資することを目的として、オンライン請求業務及びオンライン請求システムに携わる者が遵守すべき事項を示すものである。