主張・講演ERPパッケージ

ERPパッケージの概要と利点

企業での「ERPパッケージ」の認識度は急速に高まっています。2002年のERP研究推進フォーラムの調査によれば,「ERPパッケージを知らない」が6.2%,「ERPパッケージという名前は聞いたことがある」が25.4%ですので,70%近くがそれなりの理解をしているという結果になっています
 ですから,いまさら「ERPパッケージとは何か」などを述べる必要もないのですが,議論の都合のために再認識しておきます。
 そして,一般的にいわれているERPパッケージの利点について示します。いうなれば教科書的ERPパッケージ論です。


個別業務パッケージ

パッケージの説明図

ERPパッケージに入る前に,それまでにも存在した個別業務パッケージについて説明します。

MakeからBuyへ

会計処理や給与計算などは,どの企業でもほぼ同じような内容ですから,各企業が独自で同じようなシステムを作成するよりも,ベンダが汎用化したシステム−そのような市販ソフトウェアのことをアプリケーション・パッケージ(単にパッケージということが多い)といいます−を作り,多くの企業に販売すれば,ベンダも利益を得られるし,利用企業も安価で短期間にシステムを構築することができます。
 このような個別業務を対象としたパッケージの利用は,汎用コンピュータやオフコンの時代からも行われており,「MakeからBuyへ(開発から購入へ)」というキャッチフレーズにより普及していました。

カスタマイズ

システム開発を洋服を作ることにたとえるならば,”Make”でのシステム開発が自分で仕立てたり注文仕立てで作るのに対して,パッケージによるシステム開発は,既製服あるいはイージーオーダで購入することになります。当然ながらパッケージそのままでは自社業務に適用できない部分もあり,自社業務に合わせるための調整が必要になります。それをカスタマイズといいます。
 厳密には,その調整方法には
(A)たとえば商品コードの桁数を指定するとか,償却方法を定額償却にするか定率償却にするかなど,汎用的になっている指定項目のパラメタを指定する
(B)パッケージでは用意していない自社特有の処理について,その部分のプログラムを自作して組み込む
がありますが,ここではこれらを総称してカスタマイズといいます(Bのニュアンスが強い)。

代表的なERPパッケージベンダであるSAP社では,Aをカスタマイズ,Bをアドオンといっていますが,一般的にはBをカスタマイズといい,Aはインプリメントとかパラメタ設定といいます。

個別業務パッケージ開発の利点

パッケージによるシステム開発は,自社で独自に開発することと比較すると,次のような利点があります。「安い・早い・うまい」の吉野家型の利点だといえましょう。


ERPパッケージの出現

ERPパッケージの定義

「ERPパッケージ」という用語は,1992年米ガートナー・グループが,企業の基幹業務系システムの全体の統合を目指したパッケージ群に対して名づけたのが最初だそうです。ERP(Enterprise Resource Planning)とは,企業の経営資源の最適化のような意味になります。同様な用語にBPR(Business Process Reengineering)があります。顧客満足を実現するために,業務の仕方や組織を根本的に見直して革新しようという概念で,日本では1993頃に爆発的に広まりました。ERPとBPRとは,ほぼ同じような概念であるといってもよいでしょう。
 そして,ERPパッケージはERPの実現を支援する情報システム構築用パッケージですが,「統合業務パッケージ」と訳されています。従来の個別業務パッケージが会計業務や人事業務など個別業務を対象にしていたのに対して,ERPパッケージは,企業全体の業務を対象にして,しかも,それを統一した思想で統合しています。

〇APICS(アメリカ生産管理協会)の定義
最新のITを活用した,受注から出荷までの一連のサプライチェーンと、管理会計、財務会計、人事管理を含めた、企業の基幹業務を支援する統合情報システム
〇ERP研究推進フォーラムによる定義
ERPとは,「企業の利益最大化を追求するために調達・生産・販売・物流・会計・人事など企業の基幹業務を組織横断的に把握し、全社的に経営資源の活用を最適化する計画・管理のためのマネジメント概念」であり,ERPパッケージとは「ERPシステムを構築、運用するための標準的なアプリケーション」である。

ERPパッケージのルーツ

ERPパッケージは,個別パッケージから発展したものと,製造業におけるMRPから発展したもののがあります。また一部には生産計画スケジュールなどの分野から発展したものもあります。

個別業務パッケージからの発展

個別から統合へ

以前は会計パッケージとか給与計算パッケージなどのように,個別業務を対象とした個別パッケージでしたが,互いに異なる設計思想のパッケージをバラバラに導入したのでは,パッケージ間でのデータの交換が円滑にできません。また,ベンダとしては多様な個別パッケージを販売するには,それらをセットにして販売することが効果的ですが,それには個々のパッケージの連携が容易であることをアッピールする必要があります。

個別パッケージでは,大規模企業を対象にしたものもありましたが,その多くは中小企業での中小規模のオフコンを対象にしたものでした。そのような企業の対象業務が拡大してきたことと,オフコンからオープンシステムへの移行が進んできたことから,CSS環境で稼動する統合パッケージを提供する必要が出てきたのです。

MRPからの発展

MRPからERPへ

製造業では,1960年代から,製品生産に必要な資材調達を計算するソフトウェアとしてMRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)が利用されていました。それが,生産設備計画や人員配置計画も含んだCRP(Capacity Requirements Planning),財務計画も取り込んだBRP(Business Requirements Planning),物流業務へも適用したDRP(Distribution Requirements Planning)へと機能を拡大してきて,それがERPへと発展したのです。

ERPパッケージの普及

ERPパッケージは,日本では1990年代中頃から普及してきました。ERPパッケージはほとんどがダウンサイジング環境を前提として設計されていますが,この頃はダウンサイジングの動向が普及していましたので,それと組み合わせて導入を図る企業もありました。特に1990年代末には西暦2000年問題があり,既存の情報システムを総点検して修正する必要に迫られましたので,それを機会にERPパッケージ導入しようというケースも多くありました。このような理由により,ERPパッケージは急速に普及したのです。

ERPパッケージの普及状況

また,今後の伸びはERPパッケージのライセンス総市場規模(ユーザ渡し価格ベース)は2000年では613億円であったのが,2005年には,1千億円を超えると予測されています。

ERPパッケージの伸び予測

ERPパッケージの発展

当初は,ERPパッケージといえばSAP社のR/3(現my.SAP.com)やオラクル社のOracle Applications(現EBS)のような大規模なパッケージだけを指していました。また,従来のERPパッケージは,全社業務統合とはいえ企業内システムが中心でした。それが次第に次のような発展をしてきました。

企業間連携システムへの発展
インターネットを用いた企業間取引やSCM(サプライチェーン・マネジメント)などの企業間連携にも対処するために,対象業務の範囲が拡大してきました。
国産ERPパッケージ
日本には日本独特の業務方法があります。当初の海外パッケージはいかにERPパッケージが国際標準をベースにしているとはいえ,現実の業務とのギャップがあれば使いにくいものです。生産方式などではむしろ日本のほうが優れたものもあります。国産ベンダはそれらの方式を早期に取り入れてERPパッケージ市場に参入してきました。
中堅・中小企業への普及
初期のERPパッケージは高価であり,大企業でなければ導入できませんでした。市場を拡大するには,中堅・中小企業への普及が必要であり,それにはもっと安価で導入しやすいものにする必要があります。国産ERPパッケージはそこに注目して普及しましたが,その後海外ERPパッケージも参入してきました。さらには「ERPパッケージブーム」により,中小企業を対象に普及してきたいわゆるパソコンパッケージまでもERPパッケージを名乗るようになりました。そのために,ERPパッケージの定義も実態とそぐわない面も出てきましたし,ERPパッケージ導入企業数などの統計もあいまいになっています。

ERPパッケージ利用の利点

ERPパッケージは,前述の個別パッケージの利点を持っていますが,それらに加えて次のような利点があります。これに対する反論は別章にまわし,ここではERPパッケージ礼賛の観点から述べます。

ERPパッケージへの期待

全社業務を統合している

自社での開発や個別業務パッケージによる開発では,とかく個々の業務による縦割りの情報システムになりがちです。そのために,組織や業務の仕方が変更になると,情報システムも変更しなければならないことも発生します。また,情報システム間の連携が不十分なために,たとえば購買システムの仕入先コードと販売システムの得意先コードの体系が異なっていると,「当社が購買している仕入先に当社製品をどれだけ販売しているか」というような情報を得るのに複雑な処理が必要になってしまいます。
 ところがERPパッケージでは,汎用化するために物理的な組織よりも機能として取扱いますので,組織改訂にも柔軟に対応できます。また,全体を統一した思想で設計されており,共通のデータベースを用いていますので,個々の業務システム間の連携が円滑になります。

BPR実現のインフラである

ERPパッケージ導入の究極的な目的はBPRの実現にあります。基幹業務系システムは業務の仕方を規制するものですから,その基幹業務系システムがBPRの成果を取り入れたものになっていれば,それに合わせて業務を行えば,BPRが実現できることになります。
 ある業務の仕方についての最も優れた方法をベストプラクティスといいます。優れたパッケージでは,その作成にあたり,BPRを実現した先進的な企業の成果を取り入れ専門家の知識も取り込んでいます。従来の自社開発でも,それなりにBPRを志向してはいるでしょうが,しょせんは社内で考えたレベルにしか過ぎません。それよりもベストプラクティスを網羅したERPパッケージに合わせて業務を変更するほうがより高いレベルでのBPRを早期に実現できます。

リアルタイム経営ができる

従来の情報システムは,汎用コンピュータによるバッチ処理の名残りが残っていました。それで,決算業務も月次処理で行うのが一般的でした。ところが競争が激しい現在では,各部門の状況や収支状況を早期に把握して迅速な意思決定をすることが重要です。月次決算ではなく日次決算,さらにはリアルタイムでの把握が望まれます。
 ERPパッケージでは,クライアント・サーバシステム環境においてオンラインでデータベースを更新するシステムになっています。データを入力した瞬間に関係するデータベースが更新されるので,いつでも最新の情報を入手することができます。

国際標準・多国籍システム

会計基準の改訂や人事評価の動向など,従来の日本的慣行が国際的な慣行へと移行するようになってきました。とくに海外のパッケージでは,むしろそれらを基準としているので,それらへの移行がしやすくなります。また,経済のグローバル化により,海外に事業所を置く企業も多くなり海外の取引先も増加してきましたので,多国籍の言語,通貨,法律などに対応できるシステムを構築する必要も出てきました。それを個々に手作りしたのでは大変です。多くのパッケージでは,それを考慮した機能になっているので,それを目的としてERPパッケージの導入をする企業も多いのです。