主張・講演ERPパッケージ

ERPパッケージ批判

先にERPパッケージの利点を掲げました。それらはもっともなのですが,現実にはそれとは逆な状況にもなります。ここでは,ベンダの主張を批判的に検討します。


売り込みの歴史的変化

ベンダはERPパッケージの売り込みのために,いろいろと利点を主張しました。その利点自体は適切なのですが,どうもその言動に節操がなく,「ああいえばこういうERP」などと揶揄されました。ベンダ自体がERPパッケージを十分に理解していなかったようです。

安い・早い・うまい?
当初は眼に見えるものとの比較が効果的です。既に個別業務パッケージは普及していました。それで「吉野家説」あるいは「イージーオーダー説」から始まりました。
 ところが,ERPパッケージの価格は数億円もするし,実際に構築するには高い費用を要求するコンサルタントやベンダのERP技術者が必要で,パッケージ価格の数倍の費用がかかるのですね。しかも,彼らに自社のビジネスを教える(それにすら費用を払う!)プロセスが非常に長く,これまでの訳知りメンバで開発するよりも多くの期間がかかってしまいます。しかも,ソースプログラムにバグはなくても,パラメタ設定ミスなどによりトラブルが多く発生しました。
全社業務を統合している?
適用業務 個別開発との競争力がないとわかると,吉野家説が崩れます。それで,ERPパッケージは業務統合パッケージなので,これまでの縦割り的なシステムを打破できることが宣伝文句になりました。
 ところが現実にはベンダの体制が不十分でした。ERPパッケージは,販売,生産,会計など多くの業務分野をカバーしているのに,ベンダには,誰でも理解しやすく共通性の高い会計の分野(しかも財務会計に限定)しか要員がいなかったのです。その結果「まず全体業務の集約である一般会計からはじめましょう。それで経験を積んで対象業務を広げればよいのです。小さく生んで大きく育てるのが成功の秘訣です」ということになります。実際に,会計(財務も含む)が他の業務と比べて圧倒的に多い状況です。これが永久に続かなければよいのですが・・・。
BPR実現のインフラ?
「業務統合」パッケージがうまくいかないとなると,次第に効果が抽象的なものになります。「ERPパッケージは単なる業務統合パッケージではない。先進成功企業のベストプラクティスを取り入れているのだ。だから,ERPパッケージを導入して,業務にそれを合わせることが,早期にBPRが実現できるのだ」という主張です。
 しかし,BPRの実現はそう簡単には実現できません。それに,企業の環境は多様ですので先進成功企業での情報システムが自社にとって「ベスト」だとはいえないこともあります。それで最近では,「ベスト」が消えてしまい,「業務標準」というような表現になっています。
リアルタイム経営?
これまでの情報システムでは,月次決算がやっとでそれも出るのが遅くて対策が後手になることが多く,その解決のためにERPパッケージが有効であるのはたしかです。
 しかし,それが効果を発揮するのは,すべてのデータがむらなく入力されている必要があります。ある担当者は発生ごとに入力するが,ある担当者は自分の業務効率をあげるためにまとめて入力しているかもしれません。まして,データにミスがあると,そのミスが即座にすべてのデータベースに波及してしまいます。
 それに,これが最大のネックなのですが,意思決定を即座に行う体制になっているでしょうか? 役員会などの会合が月に1回しか開催されないとか,開催されても決定ができないというようでは,せっかくリアルタイムに情報が得られてもムダになってしまいます。
国際標準対応?
肝心のBPRが実現しないとなると,「グローバル化の時代です。会計基準も国際基準に合わせるようになりました。このパッケージは欧米で広く利用されているので,国際標準に合致しています。」「貴社も海外事業所がありますね。それを個別に開発するのは大変でしょう。ERPパッケージなら世界中の法規に合わせられるし多国通貨の扱いも簡単です」のようなことを強調するようになりました。実際に,最初に海外事業所に導入した企業は多いのです。
 さらには「企業連携の時代です。合併も考えられます。そのとき情報システムの統合が必要になりますが,互いに”業界標準”であるこのERPパッケージを導入していれば便利です」などにもなります。これらも重要な視点には間違いありませんが,なんとなくトーンダウンしたともいえます。

さらには,当初はERPパッケージを売り込みながら,その結果が芳しくないとなると,「ERPとERPパッケージが違う。ERPを実施することが重要なのだ。そして,それにはERPパッケージの導入が不可欠なのだ」と言い逃れをします。前半は確かにそうですが,どうしても後半が目的になるので,さらに複雑怪奇になってしまいます。

ERPパッケージの評価

これだけ毀誉褒貶の分かれるツールは珍しいといえます。比較的初期の頃ですが,ERPパッケージを導入・利用する理由と導入・利用しない理由のアンケート調査があります。ここで奇妙なのは,一方では「安価で開発できる」が2位で他方では「コストが安くならない」が2位というように,両者の理由が非常に似ていることです。

似ている理由は不明ですが,企業の特性や対象とするパッケージの違いから「どちらともいえる」といえるのでしょう。さらには回答者の立場もあります。昼間の公式的な場所ではERPパッケージを礼賛していた人が夜の飲み会では「二度とごめんだ」ということもよくあり,「ERPパッケージは昼と夜で評価が逆転する」ともいわれたものです。
 昼間に礼賛する理由は,大きく二つあります。その一つは,自己防衛的理由です。大規模な投資をしたのですから,それの効果が低かったとはいえません。自分に言い聞かせるためにも礼賛することになります。
 もう一つは営業的理由です。初期のERPパッケージ導入企業は,ERPパッケージのコンサルティングやシステム構築がおいしい分野であることに注目しました。単に自社への導入だけでなく,そこで得たノウハウを武器に他社への売り込みを図ったのです。むしろ,後者が主な目的であり実験用に自社システムを構築したことすらあります。このようなときは,自社での対象業務の拡大には注力しないので,ERPパッケージの技術者が一般会計だけに偏る原因にもなりました。

ERPパッケージの期待と成果

最近はERPパッケージそのものの評価はよい方向に安定してきました。しかし,ERPパッケージでのシステム構築はしたが,本来の目的であったBPRの実現ができていないという現象が顕在化してきました。「日経コンピュータ」(2002年7月1日号)や「日経情報ストラテジー」(2002年7月1日号)でそれを特集しています。このような特集が組まれること自体が,ERPパッケージに期待した目的が達成されていないこと,アプローチに問題があったことを示しています。
 よく米国での成功例がいわれますが,右のグラフを見ると「スピード」に関する分野では成功していますが,期待が高かった「コスト」に関する分野では,期待以下であることがわかります。