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木暮 仁
『利用部門のための情報システム設計論』
日科技連出版社、1997年、A5版、181ページ、1957円
ISBN4-8171-6054-3
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 本書は、利用部門での情報化リーダ、あるいは、将来企業の利用部門に就職する情報専門学部以外の学生を対象に、情報システム設計の方法論を解説したものである。ここでのシステム設計とは、情報システムの構想ができてから、実際にコンピュータを使ってシステムを構築する直前までの範囲を指す。最近の経営環境や技術動向は、利用部門が積極的にシステム設計に参画したり独自設計をすることを要求しているが、利用部門として知っておくべき基本的な概念を示すことを目的にしている。

「はじめに」より

本書の目的と読者対象

 本書は、利用部門(非情報システム部門)の人を対象に、情報システム設計の方法論を解説したものである。ここでのシステム設計とは、情報システムの構想ができてから、実際にコンピュータを使ってシステムを構築する直前までの範囲を指す。対象分野は、基幹系システムを中心に、利用部門に密着した情報系システムの分野も対象にしている。
 企業においては、利用部門での情報化リーダ(システムアドミニストレータ)を対象にした情報関連教育の教材として、大学においては、一般学部(非情報学部)の情報科目での4単位科目の教科書として利用することを目的としている。なお、情報処理に関する知識は、当然あったほうがよいが、とくに必要とはしていない。それに必要とする事項は本書内で解説している。


情報システム設計論の必要性

 すでに情報システムは企業活動のすみずみにまで浸透しており、通常の事務処理の業務遂行は情報システムなしには考えることができない状態である。また、情報システムは企業競争戦略の武器、業務革新のインフラになっており、情報システムを効果的に開発運用することは、企業の浮沈にすら影響している。
 以前から利用部門が情報システムに積極的に参画すべきだといわれてきた。しかし、その参画とは情報システム部門への協力という意味であった。ところが現在では、EUC(エンドユーザコンピューティング)として、利用部門の人がデータベースから任意に情報を検索加工したり、CSS(クライアントサーバシステム)環境で自部門のローカルな業務を自主開発したり、電子メールや電子掲示板などのグループウェアを運営をするようになってきた。
 このような状況では、「あなた、作る人。私、使う人」ではすまされないのである。利用部門でもシステムを設計する技術が必要になっている。情報工学の専攻ではない学生も、ビジネスに従事するには情報システムについて基本的事項を理解しておくことが望まれる。本書では、そのための基本的な概念を示すことを目的にしている。


本書の特徴

 システム設計に関する優れた良書も多い。しかしその多くは、情報システムの専門家を対象としたもので、大規模基幹系システムの新規構築を対象としており、利用部門での利用の分野にはあまりふれていない。逆にその分野を対象にした図書は、あまりにも特定のパソコンソフト利用の実務に流れ過ぎて、業務分析とシステム設計といった上流分野がおろそかである。また、上流分野を取り扱った図書では、経営と情報というような経営論に走り、具体的なシステム設計にはあまりふれていない。
 本書は、このニッチな分野をカバーすることを目的としている。すなわち、非情報システム部門での情報化リーダが、

自部門に関連する大規模システムを情報システム部門と協力して開発運用するときに、利用部門として必要なシステム設計に関する知識を持つこと
自部門内での小規模システムや情報系システムを、みずから企画開発して運用する技術を持つこと。これには市販パッケージの活用も含む。
を目的としている。対象を情報技術知識の少ない利用部門の人あるいは学生を対象にしているが、決してレベルを下げたつもりはない。必要な知識についてはかなりの程度まで取り扱っている。
 また、システム設計の入門書では、古典的な方法論に重点を置いていることが多い。しかし、利用部門にとって歴史的な知識は必要ではない。本書では、最新の方法論を重視して、すでに時代遅れと思われる事項は大胆に削除した。
 利用部門を対象にしたので、一般のシステム設計論の範囲を越えて、データウェアハウジングやワークフローシステムなど、利用部門に必要な新しい分野への取組み方法を示した。全体を通して、利用部門が情報システムにいかに関与すべきか、利用部門の責任は何かを強調している。それを明確にしないとシステム設計技術を習得する意味がないと思うし、それを実践するために設計技術が必要なのだといいたいからである。


授業にあたって

 大学での1年通期の授業数に合わせて20章にした。やや少ないのは、実際の授業では、コンピュータを用いた実演や、企業での実情などの解説などに数回を要すると思ったからである。各章ごとに学生間の討論のために研究課題をおいた。また、学生の自主研究のために参考文献を簡単な解説を付けて掲げた。企業での勉強会でも、これに準じて実施すればよかろう。


目  次

システム設計の背景

 第1章は、全体の概要である。
 第2章では、情報システムのコンセプトの変遷や利用部門からみた利用形態の説明、第3章では、情報システムと利用部門との関係、第4章は基幹系システムのライフサイクルの説明とシステム設計の関係を示すことにより、以降の理解を容易にすることを目的とする。第5章は、システム設計の諸概念の説明である。多様な技法を網羅的に示すことにより、DOAやPOAの基礎概念を習得する。


DOAの事前知識

 6−12章はDOAの解説である。唐突にDOAの理論を示したのでは理解しにくいので、6−8章では「ほしい情報を得るために、既に存在しているファイル群のうち、どのファイルを使用すればよいか」をテーマにする。第6章では、ファイルやレコード、項目などの用語説明、第7章では、マスタファイルの必要性、第8章ではファイルとファイルの突き合わせなどの説明をして、その間でDOAの理解に必要な用語や概念を、経験的に把握させる。


DOAの解説

 第9章第10章では、DOAおよびERDの理論的説明を行う。また、RDBアクセスの基本的言語であるSQLの初歩を説明する。


DOAの応用分野

 データの正規化が理解できたところで、利用部門での利用度が大きい情報系システムについて、利用部門の活用方法を示す。第11章では、公開ファイルの考えかたを示し、第12章ではその発展形態であるデータウェアハウスについて説明する。


POAとDFDの解説

 第12章まではDOAの話であったが、第13章第14章ではもう一方の柱であるPOAについて、DFDの記述を中心に説明する。


POAの応用分野

 当然DFDは、通常のシステム設計に役立つのであるが、第15章では観点を変えて、DFDによる分析が仕事の改善や業務の改革に有効であることを、リエンジニアリングおよびその情報インフラであるワークフローシステムに関連づけて説明する。利用部門にあっては、システム設計を単に情報システムを構築するツールではなく、本来の目的である業務改革のツールだと認識したい。


オブジェクト指向アプローチ

 第16章は、OOAの紹介である。本書ではOOAをPOAとDOAの統合した概念だと解釈している。OOAは未だ発展途上の技術なので、これを用いた具体的なシステム設計には入らない。しかし、近い将来には主流になる方法論であり、しかも利用部門に関係の深いGUI環境やマルチメディア情報では広く利用されるので、その用語と概念については詳しく説明した。OOAの用語はわかりにくいので、POAやDOAとの関連で説明した。


プログラム不要のシステム

 第16章までは、自社で独自の情報システムを構築することを前提としてきたが、ここでは、プログラム作成が不要なシステムとして、市販アプリケーションパッケージの利用(第17章)とグループウェアやインターネットの利用(第18章)を取り上げた。
 利用部門にとっては、システム設計は自社開発だけを目的にするべきではない。むしろ適切な市販のものを活用することが効率的である。しかし、そうするときにもシステム設計知識は必要である。むしろその知識を活用して、プログラムなしのシステムの利用を推進すべきなのである。


上位の観点からの情報システムのありかた

 企業にとっては、情報システムも投資であり、利益を生まない投資はできない。利益は効果と費用の差であるが、情報システムは効果も費用も定量的な把握が難しい。
 第19章では、情報システムの費用と効果について、どのような考えかたをすればよいか、定量的把握をするにはどうするかを示した。第20章では、よい情報システムとは何かを示し、いままで説明した開発技法がそれにどう役立つのかを示した。これは費用の削減にも重要なことである。