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遠隔操作脅迫メール 誤認逮捕事件

インターネットの世界では「被害者になるな、加害者にされるな」の心構えが重要である。その例として、2012年に発生した「遠隔操作脅迫メール 誤認逮捕事件」を掲げる。


事件の概要

2012年の初夏から秋にかけて、Webサイトに犯罪予告が掲示される事件が続出した。警察はアクセス記録から発信パソコン(IPアドレス)を特定し、パソコンに脅迫文などのログが残っていたことから、その所有者(下表のA~D)を容疑者と断定、逮捕した。
 しかし、パソコンには第三者がなりすましをするウイルスの形跡があり、容疑者を犯人と断定できないとして釈放した。

真犯人と称するXから、「自分がA~Dのパソコンにウイルスを侵入させて遠隔操作した。警察への挑発(ゲーム)だ」との公表があった。パソコンを分析すると、それが事実である形跡があり、警察はA~Dに陳謝し告訴を取り下げたした。

この誤認逮捕は、警察のサイバー犯罪捜査能力が幼稚なこと、取り調べに問題があるとして、社会問題に発展した。また、パソコンやWebサイトのセキュリティ対策が甘いことの警鐘だとも指摘された。

その後、Xから数回にわたる情報(ゲーム)が仕掛けられた。「猫の首輪に証拠情報をつけた」との挑戦状を手がかりに、2013年2月にXだとされるを容疑者として逮捕した。容疑者は容疑を否認している。

脅迫事件の発生

発覚日 掲載サイト 犯罪予告内容 パソコン所持者 所轄警察署
6月29日 横浜市サイト 横浜の小学校で無差別殺人 東京都少年 神奈川県警
7月29日
~8月1日
大阪市サイト
日本航空サイト
大阪電気街で無差別殺人
日本航空定期便に爆弾など数件
大阪府男性 大阪府警
8月27日 御茶ノ水、学習院幼稚園 始業式で皇族や園児らの殺害 福岡県男性 警視庁
9月10日 2ちゃんねる 伊勢神宮、任天堂本社の爆破 三重県男性 三重県警

逮捕したのだが、押収したパソコンから、なりすましの踏み台にされたと思われるウイルスが発見され、真犯人は別にいる疑いがでたので、容疑者は釈放された。

真犯人からのメール

10月9日にネット上のトラブルに詳しい落合弁護士、10日にTBSに真犯人と名乗るXから犯行声明メールが届いた。手口の詳細を示しており、信ぴょう性があるとして、TBSは15日に公表した。この文面には、「警察・検察をはめてやりたかった、醜態をさらさせたかった」「捕まった人たちを助けるつもり」と記されていた。


真犯人?からの犯行声明メール
出典: サンスポ「TBSに「私が真犯人」メール、同一犯の可能性」2012.10.16

容疑者A~DのパソコンにはXのメールを裏付ける痕跡があった。誤認逮捕が確実になり、警察は陳謝し起訴を取り下げた。

真犯人Xは何者か

パソコンの痕跡や犯罪予告メールのルート、Xからの犯行声明などから、真犯人Xのプロフィールが大きな話題になった。

真犯人X(?)の逮捕

2013年1月5日にXから「犯行手口を記録した記憶媒体を江の島で猫の首輪に取り付けた」とのメールが届いた。その猫を発見、記録媒体を押収。防犯カメラから猫に近づいた男を特定して逮捕した。容疑者のパソコンから、犯行に関係する痕跡が発見された。警察は容疑者がXだとみているが、容疑者は自分もなりすましされた被害者だとして犯行を否認している。


首輪をつけられた猫
出典: (2013年2月15日 読売新聞)「遠隔操作ウイルス事件、警察とメディアの課題」

警察のサイバー犯罪対応への批判

なりすましの手口が常識となっているのに、IPアドレスだけで容疑者を特定したのは、遠隔操作ウイルスに対する認識が欠けていたのは、警察の現場がサイバー犯罪の知識がないことを浮き彫りにした。警察庁は、全国の警察に「IPアドレスの悪用を視野に、より慎重に捜査すべきだ」などとした再発防止策を通達した。

犯罪の手口

未だ犯行の真相は公表されていないし、個々の犯行により異なるようだが、次のような手口だったといわれている。

  1. 真犯人は、あらかじめ無料ソフトに偽装した遠隔操作ウイルス(このときはiesys.exeを組み込んでいた)をダウンロードサイト(このときは米国のサーバ)に登録。この際、自分からの発信経路を追跡されないように、匿名ネットワークである「Tor」を利用
  2. 真犯人は、別のレンタルサイト(このときは「したらば掲示板」)に、ウイルス感染パソコンに指令を与えるためのメッセージを登録。この内容は真犯人が随時変更できる。
  3. 1のウイルスソフトの紹介(当然、興味のあるアプリだと紹介)を掲示板サイト(このときは2ちゃんねる)に投稿。このときも「書込み代行サービス」を利用して、自分の存在を隠す。
  4. 被害者(誤認逮捕された人)は、2ちゃんねるにアクセスして、ダウンロードサイトから無料ソフトをダウンロード。
  5. 被害者パソコンはウイルスiesys.exeに感染
  6. このウイルスは、定期的に2の「したらば掲示板」の真犯人ページにアクセスするようになっている。当初は無害なため、被害者はその存在に気づかない。「まっとうな」無料ソフトだと信じている。
  7. 真犯人が2の内容を脅迫メール送信指令に変更する。被害者のパソコンはその指令を受け取る。
  8. 被害者のパソコンは指令に従い、被害者が知らないうちに、標的サイトに脅迫メールを送信する。
  9. 真犯人は、5で定期的なアクセスがくるのを確認すると1のウイルスを消去、6で指令が送られたことが確認すると指令メッセージを消去して、犯行が起こる以前に痕跡を消す。

かなり手の込んだ攻撃のようだが、これらの環境は一般に普及している手口を組み合わせただけだといわれている。