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ノートパソコンの歴史


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ノートパソコンの歴史

1989年に東芝が発売したDynabook J-3100SSが世界で最初のノートパソコンである。すぐにNECが続き、1990年代になると、IBMとアップルが参入、東芝、アップル、IBMが次々に新機能を加え、1995年頃には、現在のノートパソコンの標準的な機能の原型が完成した。
 1990年代中頃から、国産各社が参入、先行各社は新機種シリーズを展開した。また、インターネットが普及し、モバイルコンピューティングが盛んになった。それにより、ノートパソコンが急速に使われるようになり、2000年にはノートパソコンの出荷台数はデスクトップパソコンを追い越した。
 2000年代を通して、小型化、軽量化、高機能化、省電力化が進んだ。2000年代末には、iPadで代表される新しい形態の携帯機器が出現し、ノートパソコンと競合するようになってきた。

とかくパソコンの分野では日本企業の低迷が指摘されるが、ノートパソコンの分野では、東芝に代表される日本企業が業界を先導したきたのである。少なくとも1990年代まではそうであった。ところが、2000年代になると、ノートパソコンがパソコンの主流になったのに、日本企業の優位性は低下してきた。それを挽回する手段を講じるべきなのか、あるいは陳腐化したこの分野は中国等に任せて、日本は新分野を開拓すべきなのだろうか。

1980年代中頃:ラップトップパソコン

ラップトップとは「膝の上」の意味であるが、デスクトップパソコンより小さく、ノートパソコンよりも大きいサイズのパソコンを指す。携帯可能であるから、これを含めてノートパソコンということもあり、その境界は厳密なものではない。
・1984年 NEC PC-8401A
・1985年 東芝  T-1100 海外のみで発売
・1986年 東芝  T-3100 日本ではJ-3100
・1986年 NEC PC-98LT

(PC-8401Aのほうが早いのだが、電池やフロッピーなどが外付けなため、一般にはT-1100が世界初で、PC-98LTがNEC初だとされている)。

T-1100の仕様を示す(情報処理学会「コンピュータ博物館 パーソナルコンピュータ 東芝T-1100」より(写真も))
・CPU:80C86(16Bits)、5MHz
・メモリ:最大512KB
・ディスプレイ:80文字×25行(640×240ドット)
・外部記憶:3.5インチFDD内蔵(720KB) 。ラップトップでは世界初のHDD内蔵
・キーボード:83キーフルストローク
・電池:ニッカド電池、8時間の動作可能
・IBM-PC互換機
・サイズ:310(W)×300(D)×67(H),4kg

ラップトップが出現した頃「軽い、持ち運べる」ことが喧伝されました。重くて到底「膝の上」には置けず、「膝を痛めるラップトップ」などと揶揄されました。机の上においても(デスクトップ)場所をとらないことが評価されただけでした。
 なお、私が所属していた会社でも、営業部員がパソコンをもって客先を訪問しようとしたのですが、自動車でなければ持ち運べず、その積み下ろしも大変だとのことで、すぐにやめてしまいました。そのとき開発したシステムが使われるようにようになったのは、ノートパソコンが軽くなった1990年代中頃であり、当然ながら、営業環境が変わり、すべてのシステムは作り直しになりました。

1980年代末:最初のノートパソコン

最初のノートパソコンは1989年に、世界に先駆けて日本で出現した。
・1989年 東芝 Dynabook J-3100SS
・1989年 セイコーエプソン PC-286NOTE
・1989年 NEC PC-9801N

発表はPC-286NOTEのほうが先だったが、出荷はJ-3100のほうが早く、しかもヒットしたので、一般的にJ-3100を最初のノートパソコンだとしている。なお、PC-9801Nはやや遅れて出荷されたが、これにより「ノートパソコン」という用語が広まったといわれている。

J-3100SSの仕様を示す(情報処理学会「コンピュータ博物館 パーソナルコンピュータ 東芝DynaBook J-3100SS」より(写真も)
・CPU:80C86(16Bits)、5MHz
・メモリ:最大3.5MB(標準1.5MB)
・ディスプレイ:ELバックライト液晶
・外部記憶:3.5インチFDD内蔵(720KB/1.2MB)
・電池:2.5時間使用可能なバッテリパック
・電源リジューム機能の提供 ・ジャストシステムATOK7のROM搭載 ・AT互換機
・サイズ:310(W)×254(D)×44(H),2.7kg)

1990年代前半:IBM・アップルの参入

1990年代に入ると、IBMとアップルがノートパソコンに参入した。1990年代前半の特徴のある機種を列挙する。1995年頃には、現在のノートパソコンの標準的な機能の原型が完成したといえよう。
・1990年 東芝   DynaBook J-3100 SS02E 世界初のHDD搭載
・1991年 NEC  PC-9801NC    世界初のTFT液晶16色、TVチューナー付
・1991年 アップル PowerBook 170  世界初のパームレストとトラックボール
・1991年 IBM  PS/55note 5523-S IBM初のノート。VGA解像度640x480(他社は640x400だった)
・1992年 東芝   DynaBook 486-XS 世界初のTFT液晶フルカラーVGA
・1992年 東芝   DynaBook EZ   ワープロ、表計算などアプリケーションをROM内蔵
・1992年 IBM  ThinkPad 700C  当時最大級の10.4インチTFTカラー液晶。世界初のトラックポイント装備
・1992年 IBM  ThinkPad 220   世界初のサブノート。重さ 1kg、単三乾電池で駆動
・1994年 東芝   DynaBook SS433  世界初のFDD内蔵B5版サブノート
・1994年 IBM  ThinkPad 755   内蔵型CD-ROMドライブ搭載
・1994年 アップル PowerBook 520  世界初のトラックパッド採用

1990年代後半:国産各社のノートパソコン参入と普及

1990年後半には、国産各社がノートパソコン分野に参入、先行各社も新シリーズを展開して、現在でもポピュラーな機種名が出揃った。ノート型は、デスクトップ型に比べて割高であったが、モバイル環境での利用が盛んになったこと、オフィスや家庭での占有面積が小さいことから人気が高まり、2000年にはノートパソコンがデスクトップパソコンの出荷台数を上回る状況になった。
・1995年 富士通    FMV-BIBLO    リチウム電池採用。プレインストールソフト多数
・1995年 シャープ   Mebius      CD-ROM内蔵
・1996年 IBM    ThinkPad 560   2kg以下の軽量
・1996年 東芝     Libretto 20   世界最小・最軽量(840g)のミニノート
・1997年 ソニー    VAIO NOTE 505  B5サイズモバイルノート
・1997年 パナソニック LetsNote AL-N2  光学式トラックボール搭載
・1997年 三菱電気   Pedion      A4で当時画期的最軽量(1.45kg)最薄(18mm)

2000年代前半:小型化、軽量化、長動作時間化の競争

2000年代になると、パソコンの主流はノートパソコンになり、パソコンでの関心はノートパソコンが主になる。ノートパソコンは、本質的にモバイル環境での利用である。そのための軽量化や小型化競争は1990年代後半から活発であったが、2000年代になると、長時間充電せずに利用できること、立ち上がりの時間が短いこと、堅牢性や耐久性に優れていること、さらにはデザインへの要求など、多様な品質での競争になってきた。

  • 筺体の軽量化
    軽量な素材を用いながら堅牢性を高めるため、ハニカム構造など設計上の工夫が進んだ。
  • スリープ機能の高度化
    パソコンを使用しない状態での省電力技術であるスリープ/スタンバイ機能は従来からあったが、インテルによるディープ・パワー・ダウン・テクノロジやASUSTeK ComputerによるExpress Gateなど、新方式が開発された。
  • SSD(Flash Solid State Drive)
    SSDは、フラッシュメモリを発展させた記憶媒体で、HDD(磁気ディスク)と比較して、機械部分がないため、小型化、省電力化、高性能化が重要なノートパソコンに適している。しかし高価格である。2004年頃から注目されるようになり、2000年代後半には高級機に採用されるようになった。

ノートパソコンの製造には、小型化や低電力化などの高度なな技術が求められので、日本企業に適した分野であった。ところが、低価格化競争が進むのに伴い、台湾や中国などで生産するようになった。それが、2000年前後から、現地企業の技術向上により、現地企業に生産だけでなく設計も委託するようになり、独自のパソコン事業から撤退するようにもなってきた。そのため、日本国内で生産している製品は、特に高度技術が要求される小型の高機能のパソコンに絞られるようになってきた。

2000年代後半:ノートパソコンの多様化

2000年後半には、ノートパソコンが多様化した。ディスプレイサイズで区分すると、次のようになる。

     ディスプレイサイズ(インチ)     解像度  特徴
 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17
 ───┬───   ─┬─── ──┬──
    │  ──┬──│──┬── │
    │    │  │  │  ハイエンド 1920x1200 モバイルを意図せず高機能機
    │    │  │ A4ノート     1680x1050 最も広く利用
    │    │ B5ノート(コンパクト) 1280x 800 モバイル用の標準
    │  サブノート            1280x 800 軽量を重視したモバイル
  ミニノート            パソコン全般機能ではなく、Web利用などに特化
   ├ウルトラモバイル(タブレットパソコン) 1024x 600 操作性を重視
   └ネットブック              1024x 600 初期は安価を目的

シンクライアント、セキュアクライアント

シンクライアント(Thin client)とは、処理機能をサーバに集中させ、パソコンには必要最小限の機能しかもたせないパソコンのことである。1996年当時は、モバイルパソコンの軽量化、低廉化を狙ったのであるが、あまり普及しなかった。

  • 1996年 オラクル、シンクライアントの概念を提唱。そのコンセプトモデルNC (Network Computer)を紹介。「500ドルパソコン」とも呼ばれた。
  • 1997年 サン・マイクロシステムズ、コンセプトモデルJava Stationを発表
  • 1997年 マイクロソフト、Windows CEをベースとした「Windows Based Terminal(WBT)」を発表

それが2005年頃から、外部記憶装置の接続ができないこと、パソコンに情報が残らないことが、セキュリティの観点から重視され、パソコンメーカーはシンクライアントを発表、多くの企業が採用を検討するようになった。

  • 2005年 日本経済新聞「日立製作所がパソコン利用を全廃する」の記事。これが広く一般の関心を呼ぶ。
    参照:日立「「日立、パソコン利用全廃」記事に関しまして」
  • 2005年 富士通 FMVシンクライアントTC8200等出荷
  • 2005年 NEC Mateシンクライアント、VersaProシンクライアント 出荷

ネットブック

ネットブックとは、インターネット利用に特化した小型軽量なノートパソコンである。2005年頃、発展途上国の教育分野にインターネットの活用が重視され、「100ドルパソコン」として生産、支援団体等を通して提供する計画が進んだ。
 ところが、安価で使いやすいことが注目され、先進国でもセカンドマシンとしての重要が高まり、2008年頃から、その用途を目的とした機種も出るようになった。

  • 2008年 ASUS(台湾) Eee PC:本来の目的用の例
    ・CPU,本体:Ultra-Mobile PC(タブレットPC)携帯端末用のPC、パソコン用と比較して安価
    ・記憶装置:HDDなどはなく、システム基板上にフラッシュメモリを直接搭載
    ・ハードウェア構成:通常のPC/AT互換アーキテクチャを採用して、パソコンとの互換性あり

iPadの出現

タブレットパソコンとは、タッチパネルディスプレイを搭載し、指や専用ペンで画面操作できる携帯用パソコンのこと。2002にマイクロソフトはタブレットPCを発表したが、あまり普及しなかった。2009年に発売されたWindows 7が「Windows タッチ」というタッチ操作系統を標準搭載したため、タッチパネルディスプレイを備えたパソコンが各社から発売されるようになった。
 2010年、アップルはiPadを発売した。電子書籍閲覧で代表される多様なアプリケーションが評判になり、爆発的な売れ行きを示した。ここでのマルチタッチ操作方法は、一般のパソコンにも大きな影響を与えている。

2010年頃の各種パソコンの仕様

ノートパソコンの分野では、東芝がリーダーシップをとってきた。2010年頃のノートパソコンの典型的な仕様として、同社の代表的機種を列挙する。


2010年頃の東芝ノートパソコン代表機種の諸元 (拡大図)
出典:後藤治「dynabook RX3に見る“東芝ノート四半世紀”の結論」およびその関連リンク先から編集
  • dynabook RX3
    標準的なB5ノートパソコン。T9Mは最上位機種、T6Mは最下位機種。
    ・最新のインテルCPUとマイクロソフトOSを搭載。Windows7の32/64ビット版
    ・発表時点では、A4ノートで最軽量
    ・T9Mでは、SSDの採用。小型化、軽量化、省電力化、性能向上を実現
  • dynabook Qosmio V
    映像処理を重視したA4ノートパソコン。地デジチューナーや独自の映像処理エンジン「SpursEngine」、Blu-ray Discドライブを搭載しながら実売20万円を切る。
  • dynabook UX
    ネットブックである。いくつかのモデルがあり、スノーホワイトは下位機種。
    約30万画素のWebカメラを内蔵
  • dynabook AZ
    画面サイズ等ではミニノートなのに、TegraはNVIDIA社のARM系省電力統合型CPU、Androidはスマートフォン用OSを用いており、記憶装置やソフトウェアなどは全体的に軽スペックで安価にしている。すなわち、ノートパソコンあるいはネットブックとスマートフォンの中間的であり、東芝では「クラウドブック」といっている。
  • libretto W100/11M
    タブレット型のミニノートパソコンで、デュアルディスプレイになっている。2つのディスプレイをタッチパネルで操作したり(下左写真)、一方の画面をソフトウェアキーボードにして、通常のパソコンのように操作したり(下右写真)することができる。そのキーボードは通常のJIS配列や親指入力を想定した左右分割のキーボードなど、5つのパターンがある。
    デュアルディスプレイのノートパソコンは、本機以前にASUSやMSIがコンセプトモデルを公開していたが、製品となったのは本機が最初である。