最初の電卓は米国で開発されたが、すぐに日本メーカーが参入した。電卓は日本の「ものづくり」技術に合致した製品であり、世界市場を席巻した。
電卓の技術は、情報機器の発展に大きな貢献をしている。その多くは、日本が最初に実現したのである。
- マイクロプロセッサは、1971年にビジコンの嶋正利が電卓制御用としてインテルと共同開発した4004が最初である。
- 液晶ディスプレイは、
- ディスプレイやTVの主流になっている液晶パネルは、1973年にシャープが発売したEL-805により実用化が進んだ。
- 省エネ対策で普及している太陽電池(太陽光発電)は、米国で発明・実用化されたが、当初は非常に高価で人工衛星など限定されていた。安価な太陽電池が広まったのは、1976年にシャープが電卓に採用してからである。
国内需要は急速に増大したが、国内メーカーの生産はそれをはるかに上回り、1980年代までは生産の大部分は輸出向けであった。
1970年代初頭は多数の電卓メーカーが出現したが、価格競争、品質競争により次第に撤退し、1980年代にはシャープ・カシオ2社の独占状態になった。
1990年代になると状勢が一変した。国内市場は飽和状態になり新規需要は低下した。また、価格競争の激化により、生産を中国などに移転して逆輸入するようになった。量販店などでは日本メーカーのブランドが多いが、中国などで生産されたものである。
それに伴い、国内生産は多機能高級機へシフトした。安価な機種は数百円なのに、国内生産の平均単価が5千円程度で推移しているのはそのためである。
1990年代後半からは、パソコンが普及した。パソコンには電卓機能が標準装備されているだけでなく、表計算ソフトもある。そのためビジネス用や固定型の電卓の需要が低下した。
さらに、携帯電話やスマートフォンなどが電卓機能をもつようになり、個人用モバイル型の分野でも単体としての需要が低下した。
主要年表と代表的な機器
ここでは日本メーカーが世界をリードしていた1970年代までを対象にする。
1960年代前半:電卓の誕生
- 1963:Anita Mark8(Anita C/VIII)(英Bell Punch and Sumlock-Comptometer)
世界最初の量産電卓。真空管式
大きさ 376(W)×450(D)×255(H)mm、重量 13.9kg 現在のノートパソコンより大きく重い
価格 約 $1,000
写真出典:Rick Bensene「the Old Calculator Web Museum」(Anita C/VIII)
- 1964:CS-10A(シャープ 当時早川電機工業)
日本最初の電卓。世界で最初のオールトランジスタ型電卓(トランジスタ 530個、ダイオード 2300個)
大きさ 420(W)×440(D)×250(H)mm、重量 25kg、消費電力 90w
価格 535,000円(当時の1,300CCの乗用車日産ブルーバード(540,000円)とほぼ同価格)
写真出典:シャープ「液晶電卓進化の歴史(年表)」
これを皮切りに、1964年にはキャノンの「Canola 130」 、大井電気の「アレフゼロ 101」などが販売され、日本の電卓元年になった。
- 1965:Casio-001(カシオ)
最初のテンキ-電卓
現在の電卓シェアのトップメーカーであるカシオは、機械式(リレー式)計算機で成功していたので、電卓への参加は1965年の「001型」が最初である。カシオは以前からフルキーではなくテンキ-を採用していたが、これが最初のテンキ-電卓になる。
写真出典:カシオ「電卓の歴史 電卓草創期」
1960年代後半:IC/LSIの採用
- 1966:CS-31A(シャープ)
世界初のバイポーラ型ICを採用。
- 1966:Busicom 161(ビジコン 当時日本計算器販売)
最初の超小型コアメモリを採用
メモリーがついた高性能電卓
- 1967:ICC-500(SOBAX)(ソニー)
ソニーも1964年電卓の試作品を発表していたが、量産したのはこれが最初。
充電池を搭載できる最初の電卓。6.3kgで現在からみれば重いがポータブル電卓として注目された。
- 1967:CS-16A(シャープ)
世界で最初のMOS・ICを採用(小消費電力 10w、軽量化可能 4kg)価格 230,000円
写真出典:電卓博物館「CS-16A (Sharp)」
- 1969:QT-8D(シャープ)
世界初のLSI化電卓(LSI 4個、IC 2個)
10万円を切り、「電子ソロバン」と呼ばれて普及
135(W)×247(D)×72(H)mm、重量 1.4kgとかなり軽量化した。
写真出典:シャープ「液晶電卓進化の歴史(年表)」
- 1971:Busicom 141PF(ビジコン)
その後、ビジコン社は電卓用のチップの開発に取り組み、インテル社の最初のマイクロプロセッサ4004の共同開発を行い、それを電卓に搭載した。
写真出典:電卓博物館「ビジコン デスクトップ電卓」
1970年代前半:現在の電卓へ進化
ポケット電卓の誕生
- 1970:Pocketronic(カシオ)
世界で最初のポケット電卓
テキサス・インスツルメント「Cal Tec」の設計に基づきカシオが量産
蛍光管は搭載せずソリッドステートサーマルプリンタ方式を採用
101(W)×208(D)×49(H)mm。本体820g。「ポケット」というにはやや大きいが・・・
写真出典:電卓博物館「Pocketronic (Canon)」
- 1971:LE-120A(ビジコン)
実際の最初のポケット電卓
ワンチップLSIにより、64(W)×123(D)×22(H)mmを実現
写真出典:電卓博物館「ビジコン社の歴史」
価格競争
- 1971:Omron 800 (オムロン)
ワンチップLSIを採用したデスクトップ電卓で、49,800円(当時の電卓の価格相場の半額程度)で発売。これより低価格競争が激化。1970年での電卓市場は1000億円に達した。
- 1972:カシオミニ(カシオ)
カシオが、軽量化、低価格競争に勝った電卓。
サイズは、当時主流であった電卓の4分の1以下。価格は3分の1以下の1万2800円まで下げ、パーソナル電卓市場が創出された(発売後10ヶ月で 100万台、累計で1000万台を販売)。
写真出典:カシオ「電卓の歴史 カシオミニの誕生」
液晶電卓の登場
- 1973:EL-805(シャープ)
最初の液晶電卓(単3電池一本で100時間使用)
(これ以前にビジコン社が発表したが販売には至らず、米国ロイド社のAccumatic 100 は販売低調)
これにより、蛍光管タイプの電卓は市場から消えた。
78(W)×118(D)×20(H)mm。本体200g。価格 16,800円
写真出典:シャープ「液晶電卓進化の歴史(年表)」
1970年代後半以降:薄型化競争
- 1976:EL-8026(シャープ) 最初の太陽電池付電卓 65(W)×109(D)×9.5(H)mm。本体65g。価格 24,800円
- 1978:カシオミニカード(カシオ) 名刺サイズ電卓。厚さ3.9mm
- 1979:EL-8152(シャープ) 52(W)×96(D)×1.6(H)mm。本体36g。価格 7,900円
- 1983:SL-800(カシオ) クレジットカード電卓。厚さ0.8mm、重さ12g。
- 1985:EL-900(シャープ)
85.5(W)×54(D)×0.8(H)mm。本体11g。価格 7,800円
写真出典:シャープ「液晶電卓進化の歴史(年表)」