論理学、数理論理学、記号論理学、命題論理、論理計算、述語論理、∀、∃、様相論理、意味論、証明論、同値、含意、推論、論理的推論、演繹的推論、帰納的推論、仮説推論、アブダクション、数学的帰納法、背理法、仮説検定、弁証法、テーゼ、アンチテーゼ、アウフヘーベン、ジンテーゼ
論理学(logic)
論理学とは、「ソクラテスは人間である」「すべての人間は死ぬ」という命題から「ソクラテスは死ぬ」という推論を導くような、論理的な思考過程により真の認識に達するために、思考の法則・形式を明らかにする学問分野です。
ビジネス分野でロジカルシンキング(論理的思考)が重視されています。ある問題の解決手段を見つけるには、論理的に考えることが必要であり、その手段が適切であることを関係者に納得させるには、理路整然とした説明が必要だということです。その基本になるのが論理学です。
記号論理学(Symbolic Logic)
数学は論理に基づく学問分野です。数学論理を用いた論理学を数理論理学といいます。論理を記号を用いて論理学を研究することを記号論理学といいます。数理論理学のほうが広い概念ですが、両者を同義語として使われることもあります。
記号論理学は、取り扱う範囲の観点から命題論理、述語論理、様相論理に区分できます。
- 命題論理(Propositional logic)
- 「1時間以上勉強する」という命題をA、「眠くなる」という命題をBというように、命題を記号で表現します。
このとき、「1時間以上勉強する」ことと、「眠くなる」ことが共に成立する(真である)ことを A∧B(論理積)、「1時間以上勉強すると、眠くなる」ことを A⇒B(含意)と表わします。これを論理式といい、論理式の真・偽を計算したり、複雑な論理式を単純な論理式にすることを論理計算といいます。
¬A 否定 (Aでない)
A∧B 論理積 (AかつB)
A∨B 論理和 (AまたはB)
A→B(A⇒B、A IMP ) 含意・内包 (AならばB)
A⇔B(A EQV B)同値 (AとBは同値)
- 述語論理(Propositional logic)
- 述語論理は、命題論理の拡張と考えられます。
- 例えば、x={1、2、…、n}という値を表す項と、それを2倍するという述語記号fを導入して f(X) とすれば、「Xが自然数である」が真であるとき、「f(x) は偶数である」は真であるというような論理を扱います。
- そして、「yが偶数である」ことを真とする述語記号をpとして、「p(f(x)) が真である」と表現します。
- さらに、「すべての自然数xについて、p(f(x)) が真である」という命題を、全体を表す論理記号∀を用いて「∀x,p(f(x)) (xは自然数)」と表記します。
- 存在を表すには論理記号∃があります。「すべての自然数xのなかには、少なくとも1個以上の偶数が存在する」という命題は「∃x,p(x) (xは自然数)」と表記します。
- 様相論理(Modal logic)
- 様相論理では、論理式から論理式を導き出す推論規則を展開したものです。含意(→)や同値(⇔)が主要な記号になります。
- 「ソクラテス」をP、「人間である」をQ、「死ぬ」をRとすれば、「ソクラテスは人間である」はP→Q、「すべての人間は死ぬ」は、Q→Rと表記します。
- 「ソクラテスは死ぬ」という三段論法の結論を導くのは、P→Q、Q→RからP→Rを計算することだといえます。
- 一般化して厳密に表記するならば、「どんなxを取っても、P→Q、かつ、Q→Rが成り立つとき、P→Rが成立する」ことは、
∀x {(P(x) → Q(x)) ∧ (Q(x) → R(x))} ⇒ P(x) → R(x)
となります。
様相論理では、記号化した命題を、このような推論規則の公式を用いて論理を進めます。
また、記号論理学は研究する分野から意味論と証明論に区分されます。
- 意味論(Semantics)
- 論理式で記述される命題の「意味」を、何らかの数学的対象に変換することを重視した研究する分野です。
- 証明論(Proof theory)
- 記号化された命題をいかに解くかを重視した研究分野です。
補足
- 同値(equivalence)
- 二つの命題が同値であるとは、例えば「P:数学ができる」⇔「Q:頭が良い」は、「数学ができる人は頭が良い」という命題と同じだという意味です(実社会でこれが真か偽か不明ですが真としておきます)。
「同値」のときは、PとQを入れ替えても同じです。
P Q P⇔Q
1 真 真 真(数学ができる人は頭が良い、頭が良い人は数学ができる)
2 真 偽 偽(数学ができる人は頭が悪い、頭が悪い人は数学ができる)
3 偽 真 偽(数学ができない人は頭が良い、頭の良い人は数学ができる)
4 偽 偽 真(数学ができない人は頭が悪い、頭の悪い人は数学ができない-1の対偶)
- 含意(implications)
- 「PならばQである」を「P→Q」と表現します。そして、Pを前提、Qを結論といいます。
同値と異なるのは、前提→結論の順序であり、結論→前提にはならないという点にあります。
例えば、Pを「あの人は数学ができる(P)。だから、あの人は頭が良い(Q)」の命題が真であるとします。
P Q P→Q
1 真 真 真(あの人は数学ができる。だから、あの人は頭が良い)
2 真 偽 偽(あの人は数学ができる。だから、あの人は頭が悪い)
3 偽 真 真(あの人は数学ができない。だから、あの人は頭が良い)
4 偽 偽 真(あの人は数学ができない。だから、あの人は頭が悪い)
ここで3が気になります。しかし、含意の場合は、「数学ができれば頭が良い」といっているだけで、「頭が良いのは数学ができることだ」とはいっていない(結論→前提ではない)のです。数学ができなくても頭の良い人がいることもあります。「前提が崩れている場合は、どのような結論も正しいといえる」ので、3と4が真になるのです。
- 論理演算の演算記号
- 論理演算は確率論でも重要な分野で、論理積や論理和など数理論理学と同じような概念をもっています。集合論でも和集合や積集合の概念があります。学問の分野により、用いる記号が異なります。
数理論理学 確率論 集合論
否定 ¬A A Ac
論理和 A∨B A+B A∪B
論理積 A∧B A×B A∩B
しかし、ベン図や真理値表など、計算方法はどれも同じですので、あまり気にしなくてもよいでしょう。
確率論での記号に関しては「論理演算」(stat-ronri-enzan)、
集合論での記号については「集合の基礎」(hs-syugou)を参照してください。
推論(reasoning)
推論とは、既知の事柄を元にして未知の事柄について予想し、論じることです。そのとき、主観や直観ではなく、客観的な論理性に基づく推論を論理的推論(logical reasoning)といいます。
論理的推論は、
・前提条件(precondition):A「勉強をする」
・結論(conclusion):B「眠くなる」
・規則(rule):A→B(Aが成立すればBが成立するという合意)「勉強をすると、眠くなる」
(これが常に真であるかは問題ではありません。当事者間で真だと受け入れられているということです)
の3つの観点で構成されます。
- 演繹的推論(Deductive reasoning)
- 規則の合意がある場合、前提条件が正しければ結論は真であるという推論です。代表的な演繹的推論は三段論法です。
例:「前提条件:(A)勉強をする」と、「規則:勉強をすると、眠くなる」ので「結論:(B)眠くなる」を導くことができます。
例:「ソクラテスは人である」なら、「すべての人間は死ぬ」のだから、「ソクラテスは死ぬ」という推論です。
この推論では、結論が真になるには、規則が真でなければなりません。また、「眠いのは、勉強をしたからだ」というB→Aにはなりません。
- 帰納的推論(Inductive reasoning)
- 多くの前提条件と結論の事例から規則が正しいとして、結論を推論します。経験的・統計的方法だともいえます。
「規則:「勉強をすると、眠くなる」ことは多くの人が経験してきた」ので、「前提条件:勉強をした」ら「結論:眠くなる」と推論する。
例:「規則:この製品が便利だということは、多くのSNSの記事やアンケート結果がある」のだから「結論:この製品は便利だ」とする。
当事者の経験が不十分だと、特定の環境でのみ成立する規則を異なる環境に適用することがあります。統計のとりかたが不適切だと、規則の信頼性が失われます。-
- 仮説推論(Abduction)
- 結論についての説明として前提条件を推論します。
例:「規則:勉強をすると、眠くなる」ので「結論:眠くなった」のは「前提条件:勉強をした」からだと推論する。
事実は「前提条件:朝早く起きた」のかもしれません。
しかし、この対偶として、「結論:眠くない」のは「前提条件:勉強しなかった」からだとはいえます。
このように、前提条件を観察していなくても、結論から前提条件が起こったとすることを、後件肯定(Affirming the consequent)といい、記号論理学の記述では「もしPならば、Qである」「Qである」「したがってPである」となります。
推論証明の数学的方法
数学的帰納法(Mathematical Induction)
例を挙げて説明します。k=nで成立すると仮定して、n=k+1の場合もAが成立することを示すことにより、nが任意の自然数のときも成立することが証明されます。
問題
nが自然数のとき、1+2+3+…+n = n(n+1)/2 ・・・(式A)を証明せよ。
証明
- ア:n=1ときにAが成り立つことを証明する
1=1(1+1)/2 成立
- イ:n=kでAが成り立つと仮定する
1+2+3+…+k = k(k+1)/2 ・・・(式B)
- ウ:Bが成立したとき、n=k+1の場合もAが成立することを証明する
Aの左辺=(1+2+3+…+k)+(k+1)
=(k(k+1)/2)+(k+1)
= (k+1)(k+1)/2
= Aの左辺
次のように、全ての自然数でAが成立します。
n=1 アで成立 k=1 のとき成立
n=2 k=1 のとき成立すればウでn=2も成立
n=3 k=2 のとき成立すればウでn=3も成立
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背理法(Reductio ad Absurdum)
背理法とは、ある命題を証明するのに、その命題が正しくないと仮定して矛盾を導くことで行う証明方法のことです。
「√2が無理数である」ことを背理法で証明する例です。
解答
「√2が無理数ではない」→「√2が有理数である」→「√2=a/b(a,bは自然数で互いに素)で表現できる」と仮定します。
√2=a/b → 2b2=a2 ・・・①
2b2は偶数だからa2は偶数→aは偶数
a=2cとすれば①から b2=2c2 →bは偶数
a,b共に偶数→「a,bは互いに素」に矛盾
「√2が無理数ではない」との仮定は矛盾があり成立しない → √2は無理数である。
仮説検定(Hypothesis testing)
推測統計学では、硬貨を投げて表が出る確率がμ=0.6であったとき、表が出やすい細工があるかどうかを検定するというような問題が多くあります。それを仮説検定といいます。背理法の応用です。
仮説検定では、
帰無仮説 H0:μ=0.5
対立仮説 H1:μ>0.5
という2つの仮定を設定します。
そして、標本抽出したデータから検定統計量の値を計算します。そして、μ=0.5が正しいと仮定した場合の発生確率が小さいことを計算で示すことにより、帰無仮説を棄却、対立仮説 H1:μ>0.5(表が出やすい)という結果を得ます。
弁証法(Dialectic)
社会問題では、ある事柄に関していろいろな主張があるのが通常です。そのとき、ある主張とそれに矛盾する主張を合わせて、どちらの主張も切り捨てずに、より高いレベルの結論へと導く論理学の分野を弁証法といいます。
自動車政策を例にしましょう。
・A(定立、正、テーゼ):経済や生活の観点から、より高速で積載量の大きな自動車を大量に生産すべきだ。
・B(反立、反、アンチテーゼ):環境保全の観点から、自動車の台数を減らし、排気量の少ない車種に移行すべきだ。
AとBは互いに矛盾しています。上述の論理学では「矛盾は偽」なのですから、少なくとも一方は否定されべきだとなります。
弁証法は、どちらが正しいか、誤りかを決めつけるのではなく、また、妥協点を見つけるのではありません。対立や矛盾を通して、その統一により一層優れた解決案を求めることを目的とします。
・C(合、ジンテーゼ):電気自動車など新燃料車の開発、物流形態の合理化など
このとき、否定・矛盾を通してA,BからCに進む総合作用をアウフヘーベン(止揚。揚棄)といいます。
すなわち、「テーゼとアンチテーゼをアウフヘーベンしてジンテーゼにする」という表現になります。
弁証法を活用するには、アンチテーゼが存在すること、アウフヘーベンへの多様な手段が提案されることが前提になります。それには検討チームの中に、できるだけ性別や人種などの多様性(Diversity)を持つこと、自由な発言が許されること(民主主義)が前提になります。