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似た商品があり、Aは100円、Bは200円です。Bのほうが何かしら優れているのでしょうが、購入者は確かなことを知らないとします。このとき、AとBの販売比率はどうなると予測できるでしょうか?(→A=61.8%、B=38.2%)
販売実績によると、AとBの販売比率は60%と40%でした。Bのほうが予測を上回っています。顧客はBにどれだけのプラスアルファの価値を感じていると思われます。60%、40%になるには、Bの価格をいくらにするのが妥当でしょうか?(→221円)
(61.8%,38.2%)と(60%,40%)の違いは、単に価格と消費者の価値認識だけでなく、常にAやBを購入する固定客と、どちらも購入する流動客が存在するからだとも考えられます。それらの割合はどの程度といえるでしょうか?(→Aの固定客=29%、Bの固定客=21%、流動客=50%)
このようなことが、エントロピーという概念を導入すると、数学的に計算できるのです。
この理論は実務的にも合致する例が多いといわれています。
情報の最小単位は,0/1,真/偽,yes/noのように「2つの状態のうちどちらか」のことだといえます。その情報量を1(ビット)とします。
カード当てのゲームで,「カードの1枚が赤札だ(確率=1/2)」という情報量も1です。では,「ハート,ダイヤ,スペード,クラブのうち,ハートである」という情報量は,「赤/黒の2つの状態のうち赤である」(情報量=1)ことを知り,「ハートとダイヤのうちハートだ」(情報量=1)を知ったと考えれば,2ビットであることは常識と合致します。それで,「4(=22)通りの状態のうち,どれであるか(ハート)を知ることの情報量は2である」としてもよいですね。同様にして,「8(=23)の状態のうち,どれであるかを知ることの情報量は3」であり,もっと一般化すれば,「2n個の状態のうち,どれであるかを知ることの情報量はnである」となります。それは,
log2n=n (注)
の計算をしたことになります。
ここで,2n個のうち,特定の事象が起こる確率をpとすれば,
p=1/2n → n=log(1/p)=-logp
ですから,pが起こったという情報量Sは,
S=-logp
となります。上の例でいえば,赤である確率はp=1/2ですから,その情報量は-log(1/2)=1となり,ハートである確率はp=1/4ですから,その情報量は-log(1/4)=2となって,上の結果と一致します。
ある事象が起こる確率をpとするとき,それが起こったという情報が持つ情報量Sは,
S=-logp [ビット]
である。
情報量をこのように定義すれば,場合の数が2のべき数でないときの情報量も与えられます。たとえば,サイコロを投げたときに出た目が5であるという情報量は,その確率は1/6なので,
-log(1/6)=2.58
となります。
同様に,カードでAであることの情報量は-log(1/13)=3.70です。
情報量は状況により価値が変ります。
明日の天気は晴・雨同程度だと思っているときに,天気予報(絶対にあたるとして)が「晴」だといったときは(「雨」といっても),私にとって,-log0.5=1.0の情報量を得たことになります。
ところが,夕焼けなので明日の天気は0.8の確率で晴,0.2の確率で雨だと思っていたときに,天気予報が「晴」とのことでしたら,その情報量は私にとって-log0.8=0.32の価値に過ぎません。「そうだろうな」程度の情報です。ところが「雨」とのことでしたら,-log0.2=2.32の価値がある(驚く)ことになります。
ある事象Aが起こる確率をpとすれば,起こらない確率はq=1-pです。このとき,Aが起こったとすれば,その情報量は-logp,起こらなかったとすれば,その情報量は-logqです。それで,全体の情報量の期待値は,
H=-plogp-qlogq
となります。このようなHのことをエントロピーといいます。もっと一般的には,エントロピーは次のように定義されます。
ある系の確率分布(p1,p2,・・・,pn)が与えられたとき,この系のエントロピーHは,
H=-p1logp1-p2logp2・・・-pnlogpn
である。
このエントロピーは,「あいまいさ」を表しています。カード1枚のスーツ(ハートやクラブなど)が持つエントロピーは,ハートについては
-(1/4)log(1/4)=-(1/4)×(-2)=1/2になります。他のスーツについても同様ですので,全体として,4×(1/2)=2ビットとなります。
これと,,先に「ハートであるという情報量は2ビット」というのは偶然ではありません。「ハートだ」という2の情報量を得たことにより2-2=0,すなわち,あいまいさが完全になくなった」ことになります。もし,このとき「赤だ(情報量1)」を得ただけならば,依然として2-1=1ビット(ハートかダイヤか)のあいまいさが残っていることになります。
消費者が全然知識のない商品AとBがあり,その商品の販売比率をp,q(=1-p)とします。価格やデザインなどに特別の違いがなければ,p=q=0.5になるでしょう。その理由を,エントロピーの観点から考えます。
この分散確率のエントロピーは,
H=-plogp-(1-p)log(1-p)
となりますが,このグラフは次のようになり,p=0.5(q=0.5)のときに最大になります。
これは,熱力学の第2法則「エントロピーは常に時間とともに増大する」ので,特に制約を加えない限り,結果としてHが最大になるp=q=0.5の状態になることとも一致します。
消費者が全然知識のない商品AとBがあり,Aの価格は100円,Bの価格は200円とします。商品AとBの販売比率p,q(=1-p)を求めなさい。
もし,価格の条件がなければ,エントロピー最大の法則により,p=q=0.5になります。また,エントロピーを考えないならば,Aだけが売れるでしょうから,p=1,q=0になります。でも,現実の経験ではこのようにならず,p=0.6,q=0.4程度になると思われます。
次の条件を設定します。このように,エントロピー最大化を制限する条件が1つのとき,1因子情報路といいます。
C→最小,H→最大とするpとq(=1-p)を求めるのは,H/C→最大となるpを求めればよいことになります。
ここからのプロセスは高度な数学的素養を必要とするので省略し,その結論だけを示しますと,
Xa+Xb=1
の根Xを求め,それから
p=Xa
q=Xb
を求めればよいのです。
これに,a=1,b=2をあてはめると,
X+X2=1
∴ X=0.618 (X>0だけを採用)
p=X1=0.618 ・・・ 61.8%
q=X2=0.382 ・・・ 38.2%
が得られます。この値は,経験と合致する値になっています。
なお,参考までに,このときのエントロピーは,
H=-plogp-qlogq
=-0.618×log(0.618)-0.382×log(0.382)
=-0.618×(-0.694)-0.382×(-1.388)
=0.959
になります。
これを一般化すると,次の手順が得られます。
n個の銘柄があり,その特性(価格)がc1,c2,・・・,cnであるとき,
Xc1+Xc2+・・・+Xcn=1
の根をX(0<X<1)とすれば,
n個の銘柄の分散確率(販売比率),p1,p2,・・・,pnは,
p1=Xc1, p2=Xc2, ・・・, pn=Xcn
で求められる。
このように手順は簡単ですが,困難なのは,
Xc1+Xc2+・・・+Xcn=1
を求めることですね。それで,計算ツールを作成しておきました。
単純に,
Aの固定客を想定しない理論販売比率(61.8%)-Aの実績販売比率(60%)=1.8%が流動客
だとしてはいけません。
その理由は,Aの顧客の全部が固定客ではないし,Bにも固定客がいるからです。