本章は、通信に関する学習をする以前に、その前提となる基本事項を理解することを目的としています。そのため、わかりやすく記述することを重視し、厳密性や正確性に欠けることがあります。
また、通信の対象分野は広く利用環境も多様ですが、本章では代表的な話題と環境に絞っています。例えば、通信セキュリティ対策は重要な分野ですが、基本事項として取り扱うには内容が高度なので割愛しました。また、インターネット接続には多様な形態がありますが、ここでは主として、個人が自宅でブロードバンドの常時接続の回線を用い、ISPと契約する形態に限定しています。
ケーブルで接続した通信を有線通信といいます。テレビ放送や携帯電話などのように電波による通信を無線通信といいます。
有線では、従来から利用されている銅線以外に、特にデータ通信で光ファイバを用いた光ケーブルが使われるようになりました。
光ケーブルの利点として、高速かつ長距離の伝送が可能、電磁誘導ノイズの影響を受けない、一つのケーブルが細く多数のケーブルをまとめて敷設できるなどがあります。
しかし、銅線に比べて高価、折り曲げに弱い、ケーブルの切断や接続が面倒、電力は送れないなどの欠点があります。そのため、個人自宅内LANではほとんど使われていません。
無線通信は、送信機と受信機の間を同一周波数の電波を用いて通信します。身近なものに、テレビ放送、スマートフォン、無線LANなどがあります。
スマートフォンは無線通信だとはいえ、無線なのはスマートフォンと無線基地局の間だけで、その向こうは有線通信が使われます。無線を用いたLANを無線LANといいますが、無線なのはパソコンとアクセスポイントあるいは無線LANルータの間だけで、大規模LANでの幹線やインターネットなどとの接続には有線通信が使われます。
アナログ回線とは、電話のように情報(音声)を電流の波形に変換して通信する方式です。デジタル回線とは通信する情報を0/1のビットとして通信する方式です。
これらは回線を流れる情報の区分で、ケーブルの種類による区分ではありません。それなのに回線というのは、回線を流れる情報がケーブルを流れる間に減衰するのを復元したり、他の回線に渡したりする方式や設備が異なるからです。
そのため、デジタル情報をアナログ回線に流したり、デジタル情報をアナログ回線に流すことはできません。
パソコンの内部はデジタル情報です。アナログ回線(通常の電話回線)を用いてインターネットに接続する場合は、デジタル情報をアナログ情報に変換する機器(モデム)が必要になります。
現在主流になっている光回線などのブロードバンド回線はデジタル回線ですので変換は必要ありません。
通常の電話では、電話番号をかけて相手にかかってから受話器を置くまでの間は回線を占有します。このような方式を回線交換方式といいます。ところが、データ通信では、Webページ閲覧でもわかるように、利用している時間にくらべて、実際にデータが流れている時間は極度に短いため、この方式は不適切です。
データ通信では、一般にパケット交換方式を用います。パケット方式では、電文をいくつかの一定の大きさに切断して、それぞれに各種ヘッダをつけたパケット(小包の意味)にします。そして、複数の回線からきた電文を1本の通信回線に混載して送ります。
プロトコル(protocol)とは取決めや規約のことです。
インターネットのように、多様な機器やサービスがある環境では、標準化が重要になります。その代表的なプロトコルにOSI基本参照モデルとTCP/IPがあります。
OSI基本参照モデルは、国際標準化機構であるISO(International Organization for Standardization)が策定した国際規格です。論理的には美しい体系になっていますが、特に上位層では実装するのに適切な規約にするのに難航していました。その間に、インターネットの普及に合わせて、TCP/IPが業界標準になり普及しました。
TCP/IPは、狭義には
IP(Internet Protocol)
TCP(Transmission Control Protocol)
の二つのプロトコルのことです。
IPはOSI基本参照モデルの、TCPはトランスポート層とセッション層の一部に対応しますが、必ずしも一致していません。強いて言えばOSI基本参照モデルは体系化を重視した論理的「モデル」を示すことを重視するのにたいして、TCP/IPは、各種機能を実装することを重視しており、IPやTCPに関連したプロトコルも含むようです。
また、広義には、物理層やデータリンク層で広く使われているイーサーネットや、電子メールやWeb閲覧など多様なアプリケーションの個別プロトコルまでも含んでTCP/IPということもあります。
LANとは、家庭内や事業所内など、同一構内に限定されたネットワークです。
ほとんどのLANは、OSI基本参照モデルのデータリンク層に相当し、TCP/IP系でのイーサネットに準拠して実装されています。
イーサネットとは、狭義には物理層でのケーブル規格のことですが、通常はデータリンク層も含めたインサーネットLAN全体のプロトコルを指します。
LANは、パソコンやサーバなどとルータやスイッチングハブなどの接続機器をケーブルで接続したネットワークです。
LANの用語ではパソコンやサーバなどをホスト、それに接続機器を加えたものをノードといいます。
また、LANではデータをパケット交換方式によるパケットとして伝送しますが、LANの主流であるイーサーネットでは、このパケットのことをフレームと呼んでいます。
しかし本章では、理解を容易にするため、パソコン、接続機器、パケットを使います。
LAN(データリンク層)で他のパソコンと接続するときの電話番号に相当するのがMACアドレス(Media Access Control Address)です。これは、パソコンに内蔵あるいは外付けしたLANカードに入っています。
MACアドレスは、世界中で一意(重複しない)になっています。LANカード製造者に前半部分が割り振られ、後半部分はLANカード製造者が付けた製品番号になっています。
LANでは、パケットの先頭にあるヘッダに宛先MACアドレスが入っており、それによって相手を探します。
LANの論理的な接続形態をLANのトポロジーといいます。
現在のLANは、ほとんどがイーサーネットの規約で構築されています。イーサーネットは、当初はバス型を対象としていたのですが、その後、スター型も対象になりました。現在では、スター型が主流ですが、バス型と混在していることもあります。
バスと呼ばれる幹線にパソコンを枝状に接続した形態です。
幹線には同軸ケーブル、枝線にはツイストペアケーブルが使われます。
複数の幹線をリピータやブリッジで接続し大規模LANを構築することができます。
バス型では、スター型のスイッチングハブのような管理機器はありません。各パソコンは同等の立場になっています。
発信元パソコンは幹線にパケットを送出します。パソコンは常にパケットを見ており、宛先MACアドレスが自分であれば取り込みます。他人であれば無視します。
送出時に他のパケットが流れていると衝突してしまうので、しばらく待ってから再送出を試みます。このような方式をCSMA/CD方式(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection:搬送波感知多重アクセス/衝突検出方式)といいます。
スイッチングハブを中心にして放射状にパソコンなどの機器をツイストペアケーブル(大規模LANでのルータ間は光ケーブル)でつないだ形態です。スイッチングハブを多階層につないで大規模LANを構成できます。スイッチングハブをルータにすればインターネットとの接続もできます。
スイッチングハブには、直接配線しているパソコンのMACアドレスが記憶されています。発信元からきたパケットの受信先のMACアドレスを見て、リストにあればそのパソコンにパケットを転送し、そうでなければ他のスイッチングハブへ転送するという方式で発信元と受信先を接続します。
スター型は、
・他に影響なくパソコンをLANから外したり付けたりができる。
・ツイストペアケーブルは取扱が容易である。
・Gbpsクラスの高速ツイストペアケーブルが使えるようになった。
などにより、LANの主流になっています。
インターネットで相手と接続して、電子メールを送ったりWebページを閲覧するプロトコルを呼び出すまでの仕組みを対象にします。
TCP/IP(OSI基本参照モデルのネットワーク層とトランスポート層)が主になります。ここでは、プロトコルの説明ではなく、代表的な機能の説明をします。
MACアドレスは、LANカードメーカーに割り当てたメーカー番号とメーカーが付与した製品番号からなっています。
LANのレベルならば台数が少ないのでMACアドレスで管理できますが、インターネットでは、無限に近いMACアドレスがあり、しかも、連続した番号のカードが各国に散在するなど、MACアドレスでをベースにしたのでは経路制御が複雑になります。
IPアドレスは、ネットワーク層におけるMACアドレスのようなものです。
これも世界中で一意の番号ですが、地域レベル、国レベルで割り振り、さらに、ISP(プロバイダ)に割り振ります。そして、ISPが企業や個人加入者に割り当てます。
この配分は連続番号でまとめた単位で行われますので、配分の流れを逆に追うことにより、IPアドレスが存在するネットワークにたどりつけます。
これまでのIPアドレスはIPv4という4バイト2進数の体系でしたが、インターネットの爆発的普及により、新しいIPアドレスを付与できなくなりました。枯渇解消のため、6バイトのIPv6体系になりましたが、現在では二つの体系が混在しています。
パケット交換方式でのパケットにはヘッダがついており、宛先などが入っています。このヘッダは、各層を通るたびに、新しいヘッダ部分が追加されます。
パケットのヘッダの仕組みを、電子メールを例に説明します。送信側Aから受信側Bに電文を送るとき、利用者はメールソフトを操作するだけですが、内部では、おおよそ図のような順序で処理されています(ここではイメージを理解するために簡略したものであり、個々のプロトコルの記述も厳格なものではありません)。
図のように、送信側ではOSI参照モデル(TCP/IPでも)の上位から下位のレイヤーの順で処理が行われ、TCPではTCPヘッダ、IPではIPヘッダ、データリンク層ではイーサーネットヘッダが付けられます(FCSはパケットの最後を示す符号)。
受信側は、下位から上位のプロトコルへ、そのヘッダを解析することにより、ヘッダを外しながらデータを渡します。
TCPヘッダにはポート番号が入っています。ポート番号は、メール送信(SMTPというプロトコル)なら25、メール受信(POP3)なら110、Webページ閲覧(HTTP)なら80のようになっており、受信側のサーバやパソコンは、ポート番号により該当アプリケーションを起動します。
IPヘッダの宛先IPアドレスで宛先のLANサーバと接続する仕組みは次のようになります。
インターネットでは、多数のルータを経由して相手に接続します。しかし、その相手先は世界中の膨大な数になるので、発信側のルータが、どのルータを経由すればよいのかの経路表を持つのは不可能です。
ルータは、よく使われるIPアドレスと最初に接続すべきルータ、それ以外のIPアドレスの場合に最初の接続ルータだけの対応表だけをもっています。これにより、最初のルータにパケットを送ります。受け取ったルータも同様にして他のルータに渡します。
このようにバケツリレーで渡している間に、「友達の友達は友達」ですので、いつかは相手に送ることができます。最終的には、上述のIPアドレスの配分の仕組みをたどることにより、相手に送ることができます。
バケツリレーに参加するはずのルータのなかには故障しているものもあります。対応表に複数のルータを指定しておけば、代わりのルータに接続することにより、新しいバケツリレーが継続できます。
このようにIPアドレスにより動的に経路を決定し通信するしくみを経路制御といい、ネットワーク層の重要な機能です。
バケツリレーでは心もとないように思われますが、ネットワークの一部に不通個所があっても、なんとかつながるという利点があります。そもそもインターネットは米軍の他国からの攻撃に耐える軍用通信網の研究が起源になったのです。
また、インターネットに新しいパソコンやサーバを追加接続するには、IPアドレスを与え、最初に接続するISPのルータの対応表を変えればよいだけです。このような便利さがインターネット普及に役立ちました。
インターネットの通信網は、主にNTTやKDDIなどのキャリア(電気通信事業者)と、SONETやOCNなどの(Internet Service Provider:インターネット接続事業者)が支えています。
インターネットの通信回線は、通常はキャリアが敷設したパケット交換方式に対応した一般のデジタル回線を利用しています。その回線には、キャリアやISPがTCP/IPに準拠したルータやサーバが接続されています。
それで、TCP/IPに準拠したデータを送ると、電子メールやWeb閲覧などのアプリケーションができる仕組みになっています。
個人がインターネットを利用するには、ISPと契約して、メールアドレスなどのIDを取得します。
利用者がインターネットに接続するとき、キャリア回線を介してIPSが設置したアクセスポイントを呼び出します。
ISPは利用者のIDとパスワードを確認し、正規の利用者であれば利用者のパソコン等とISPの所有するルータ(アクセスポイント)の間で一時的なLANを構成します。そのルータを介してインターネットと接続します。
例えば電話を含めてNTTと回線契約をし、インターネット利用はSONETと契約するというように、両者は別途の契約です(両方の契約を一つの事業者と行うこともあります。スマートフォンでインターネットにアクセスできるのは、ドコモやソフトバンクなどの携帯電話会社がキャリアであり、系列のISPをもっているからです)。
インターネットは多くのネットワークを接続したものです。次のような構成で世界中とつながっています。
NOCやIXなどの設備は、キャリアや大ISPが設置・運用しており、小ISPはそれらを使わせてもらっています。
個人がインターネットを使うために必要な費用は、ISPとの契約費用とISPアクセスポイントまでの通信費用だけです。インターネットの回線を使う料金は、明示的に支払うことはありません。
当然ですが、誰かが慈善行為で提供しているのではありません。利用者が分担しているのです。
インターネットの利用では、多様なアプリケーションがありますが、ここでは電子メールとWeb閲覧、その前提であるDNSだけに絞りました。
インターネットはIPアドレスにより相手と接続するといいましたが、IPアドレスは4バイトあるいは6バイトの2進数です。通常の利用者はIPアドレスなどを使ったことはないでしょう。
メールを送るには、hitoshi@kogures.com
Webサーバを閲覧するには、http://www.kogures.com/hitoshi/webtext/index.html
(これをURLといいます)
のように指定しています。
この「kogures.com」の部分をドメイン名といいます。ドメイン名は、所有者が自由に付けられますが、世界中で一意でなければならず、IPアドレスと1対1の対応がとられています(といよりドメイン名を申請するときに、IPアドレスが付与されるのです)。
ドメイン名は人間には理解しやすいが、これで経路制御をするのは面倒です。それでドメイン名とIPアドレスを変換する仕組みが必要で、DNSといいます。
これもすべての対応表を作るのは不可能なので、バケツリレーにより行うようになっています。
電子メールの仕組みは、郵便での私書箱の仕組みと似ています。
上記の「http://www.kogures.com/hitoshi/webtext/index.html」とは、
「ドメイン名kogures.comの配下にあるサーバwww.kogures.comにあるディレクトリhitoshi/webtext/にあるファイルindex.htmlをhttpというプロトコルでアクセスせよ」という意味です。
利用者側のIPSルータからkogures.comがあるWebサイトまでの接続と通信は、バケツリレー方式で行われます。
httpとは、そのファイルをパソコンにインストールされているWebブラウザに渡す機能で、Webブラウザはファイル内容を解析した結果をパソコンに表示します。
なお、htmlとは、表示内容をWebブラウザで表示させるための文法htmlで記述していることを示す拡張子です。
家庭でも数台のパソコンが各室にあり、プリンタの共有もしています。パソコンとスマートフォンやタブレットの接続もしています。
これらをケーブルで接続するのは面倒ですし、美観を損ないますので、無線で接続するのが一般的になっています。
無線LANルータ(親機)をおき、それにパソコンなどを子機としてスター型に接続します。
通常の無線LANルータは、有線LANやインターネットへの接続機能をもっています。それで、複数の無線LANルータ間を有線接続して大規模LANを構築したり、無線LANルータからは有線でISPのアクセスポイントへ接続してインターネットを利用したりできます。
現在、家庭内での無線LANの方式は、ほとんどがWi-Fiという規格で構成されています。
空港、図書館、レストラン、喫茶店などでも無線LANルータやそれに接続しているアクセスポイントを設置しており、携帯している端末からインターネットが使えます。この設置場所をホットスポットといい、このような利用をモバイルWi-Fiといいます。
スマートフォンにより電話(音声通信)やインターネット利用(データ通信)をするには、ドコモ、ソフトバンク、auなどのキャリア(移動体通信事業者)と加入契約する必要があります。通常はキャリア関連のISPとの契約も同時にします。
キャリアは、無線基地局(高い塔から街角の電柱に設置したボックスまで多様です)を設置しています。無線基地局が親機、スマートフォンが子機の関係になります。
無線通信だとはいっても無線なのはスマートフォンと無線基地局の間だけで、無線基地局以降は電話回線やデジタル回線などの有線でつながっています。
これらの回線は、インターネットの構成で述べたようにキャリア独自(あるいはNTTやKDDIなどの関連会社)の回線であり、それが互いに相乗りしているので、加入キャリアが異なっても通話ができるのです。
データ通信に関しては、これまでのインターネットの説明とほぼ同様です。無線基地局およびそれにつながるNOCがISPになり、インターネットにつながります。
音声通信は、従来の3G対応の携帯電話では回線交換方式が使われていましたが、近年の4G(LTE)や最近の5Gでは、データ通信と同様にパケット交換方式が使われるようになりました(IP電話)。現在のスマートフォンならどちらも使えます。
IP電話は、インターネット内は世界中無料ですから、通信料金がかなり低減され、遠近による料金格差もなくなります。
無線通信は無線基地局(親機)とスマートフォン(子機)が同じ周波数で交信します。その周波数に近い周波数が近地域にあると混信が起こります。また、無線は直進性があり山や建物の裏側では十分な受信ができません。
無線塔のような大出力の無線基地局は、広範囲をカバーできるので局数を少なくできますが、同時に交信するスマートフォンが多く、多くのチャネルを使うので広い周波数帯が必要になります。また、広範囲だとはいえ、受信しにくい場所が生じます。
小出力ならば、到達距離が短いので、互いに離れた場所ならば同じ周波数を使っても混信しません。しかも、小出力基地局は安価です。それで建物が密集している場所では多数のボックス型の基地局が多いのです。
スマートフォンは電源が入っていれば、自動的に最も強い電波を出している無線基地局に信号を送っています。それによりNOCなどではスマートフォンの位置情報を把握してデータベースを更新しています。
その情報データベースにより、相手のスマートフォンがどこにいても交信できるのです。
また、スマートフォンが基地局のカバーしている地域から他の地域へ移動するとき、電波の高い周波数を出している基地局に切り替えます。それをハンドオフといいます。
ホットスポットのない場所で、無線機能をもたないパソコンにスマートフォンをつないでインターネットを利用することができます。それをテザリングといいます。