企業を維持成長させるためには,経営環境の変化に合わせて経営戦略を変化することが必要です。しかも最近の経営環境は,消費経済の成熟化,経済のグローバル化,IT革命など,経営に与える影響が大きい要因が激しく変化しています。それで,経営戦略を考えるにも,従来とは異なる発想が必要になります。IT革命といわれるように,その多くは情報技術を活用することが重視されており,多くの経営情報技法が注目されています。
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消費経済が成熟化し,しかも不況が長期的になっています。このような状況では,単に「品質のよいものを安い」だけではなく,顧客ニーズに合致したものでなければ売れません。しかも,その顧客ニーズは多様化してきましたし頻繁に変化するのです。企業がそれに対応するには,顧客の購買動向を素早くキャッチして分析し,新製品開発や商品の品揃えに活かすことが重要になってきました。顧客満足を重視した顧客志向マーケティングが求められます。
パソコンを例にすれば,国産メーカーのパソコンが海外で生産されたり,海外メーカーのものが日本で売られたりしています。しかもその部品は,日本企業の液晶ディスプレイ,米国企業のCPU,台湾企業のメモリというように,多くの国の企業が複雑に関係しています。商品が国際化しただけでなく,外国の企業が日本に法人を作るとか,日本の企業が外国に工場を建てるなど,企業そのものが多国籍化しています。また,海外の銀行に預金したり,外国の証券会社が日本に進出するなど,資本や金融も国際化されてきました。
文字通り世界全体が市場であり競争相手であるといえますが,これをメガ・コンペティション(大競争)といいます。このような環境になると,世界中が同じ基準(グローバル・スタンダード)で行動することが求められ,日本だけが独自の方式で行動するわけにはいきません。このような環境変化は,情報システムにも大きな影響を与えています。 (運動会とオリンピック)
グローバルとは世界的という意味ですから,グローバル化と国際化とは同じことなのですが,従来からの国際化にくらべて,最近の大きな動きとしての国際化をグローバル化といって区別することがあります
このような環境の変化を,従来の競争が狭い世界でみんなで仲良く競争する小学校の運動会だったのに対して,最近の競争は世界中の高度な能力を持つ選手が国際的に統一されたルール(グローバル・スタンダード)で競争するオリンピックであるともいわれています。
顧客ニーズを収集して分析するにも,世界中の企業と取引をするにも,その基本となるのが情報であり,情報を迅速に伝えるネットワーク技術を利用することが必要です。企業にとって,経営戦略やマーケティング戦略を立てることが頭脳,製品を生産するとか販売することが手足や筋肉だとするなら,情報技術は企業の神経系統にあたります。
特に重要なのがインターネットの普及です。インターネットは,文字通り世界を1つにしてしまいました。企業行動のあらゆる分野に大きな影響を与えています。企業間のデータ交換を急激に発展させ,企業間連携を推進しました。企業と消費者の間を緊密にしました。企業内の情報システムを一変させました。インターネットは情報分野だけでなく社会全般での変革をもたらしたともいえます。
このような経営環境の変化への対応をするために,経営戦略に情報技術を活用する考え方が多くでてきました。これらは,情報活用技術でもあるし経営技法だともいえます。これらの詳細は他シリーズで取扱っていますので,ここでは典型的なものを簡単に説明します。 (常識を働かせることが効果的)
ここでは,多くの英略語の概念がでてきます。このような概念を理解するには,常識を働かせることが効果的です。たとえば「インターネットが普及」すれば,世界中を対象にした取引が行なわれるので,「企業競争が世界的に激しくなる」でしょう。その競争に勝つには「顧客の満足を得る」ことが大切だし,それには「顧客の動向を迅速にキャッチ」して提供する「経営の迅速化」が求められます。それに,顧客と製造業の間には小売業や流通業があるのですから,顧客ニーズをあったものを,より迅速により安く提供するには,自社だけで対処するようりも「自社より進んでいる他社の力を利用」するほうが効果的だし,それを実現するには「インターネットなどの情報技術を用いる」・・・ということは,経営戦略だの情報技術だのいわなくても,みなさんが自分で考えられることですね。すなわち,難しそうなことをいっていても,その中身は「あたりまえ」な常識に過ぎないのです。
現在の社会は,工業化社会から情報化社会へと変化してきました。工業化社会では,モノを大量に生産して大量に販売することが競争に勝つ手段でした。ところが,消費経済が成熟化した現在では顧客満足の実現が重要です。顧客満足を実現するには,顧客との関係をよくすること,すなわち顧客のニーズを把握して,そのニーズに合致した戦略を立てることが大切です。それをCRM(Customer Relation Management)といいます。
顧客動向をマーケティングに活用するには,POSなどで集めたデータを整理してデータベースに蓄え,それを分析して重要な情報を発見して販売政策に生かすことが必要になります。それをデータベース・マーケティングといいます。さらに,個々の顧客を個客といいますが,個客の消費行動に合わせたマーケティングをワン・ツー・ワン・マーケティングといいます。また,大量のデータをデータベースとして保管して,多様な分析ができるようにした情報利用をデータウェアハウスといい,データマイニングなどの手法が活用されます。
顧客は消費者だけではありません。得意先企業との良好な関係を維持発展させることが重要です。企業の中で,顧客に最も近い位置にあるのが営業部門です。営業活動を情報技術により支援することをSFA(Sales Force Automation)といいます。
訪問先の情報の入手,訪問するための道路地図や電車の時刻表の入手,訪問先でのデモンストレーション,出張報告の作成,出張旅費の精算など多様な支援システムから成り立っています。特に,営業部員が外出先にいてもオフィスにいるのと同様な環境を提供するモバイル・コンピューティングが重要な手段になっています。
また,電話による受注やクレーム対応をするコールセンター,適切な顧客情報を提供するデータウェアハウスなどを総合するとCRMの概念になります。
経営戦略とは,企業目的を達成するために,いかに経営資源を増大させるか,限界のある経営資源をいかに有効に使うかであるといえます。
工業化社会に適合した従来の組織や仕事の仕方を,顧客満足に適したものに,抜本的に作り直す必要があります。それをBPR(Business Process Reengineering:リエンジニアリング)といいます。BPRの提唱者の一人であるハマーは「コスト,品質,サービス,スピードのような,重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために,ビジネス・プロセスを根本的に考え直し,抜本的にデザインし直すこと」と定義しています。
BPRであげたコスト・品質・サービスが重要なのは当然ですが,最近の経営戦略では,特にスピードが重視され,アジャイル経営が注目されています。アジャイル(アジル)とは俊敏や機敏などの意味です。
環境変化が激しい今日では,経営での意思決定や行動をスピーディにすることが企業の浮沈を決定します。市場の動向をキャッチし,新しい製品やサービスを市場に提供するためには,市場動向の確認,新製品開発の意思決定,開発,市場への投入などのプロセスが必要ですが,それを競争相手が3ヶ月で実現するのに,自社が6ヶ月や1年もかかったのでは,競争に負けてしまいます。
アジャイル経営を実現するには,環境変化をすばやくキャッチして意思決定をすること,新製品開発で企画段階から製品提供までの期間を短縮すること,継続受注での注文を受けてから納入するまでの期間を短縮することなどが求められます。
企業を生き残らせ成長させるには,常に新製品の開発,新事業の開拓を行うことが必要です。この傾向はますます顕著になり,21世紀に成長する企業は知識活性化に成功した企業だといわれています。 ナレッジ・マネジメント(KM:Knowledge Management)とは,企業のあちこちに散在している個人の知識を統合して,有効に活用できるように共有化を図ることです。各人の知識や経験を集めて,組織としての創造性向上を図ることだともいえます。 (グループウェアとの比較)
データ・情報・知識・知恵とは,必ずしも厳密に区分はできませんが,一般に下図のように解釈されています。
ナレッジ・マネジメント(KM)はグループウェアの電子掲示板の発展形態だともいえます。かなり混同して使われていますが,あえて区分すれば次のような違いがあります。
掲示板 KM 対象 情報 知識も 運営 利用者の自主的 組織的・体制的 管理 かなりルーズ 体系的に整理 手段 プル(求める) プッシュ(与える)も ツール 電子掲示板 多様なツール
顧客ニーズの把握,新製品開発,迅速な配送などは,一企業だけの努力では限界があります。製造業,流通業,小売業など多くの企業が相互に協力することが効果的です。インターネットなど情報通信技術の発展により,企業間連携(コラボレーション、アライアンス)も発展してきました。
1社の持つ経営資源には限界がありますから,それだけを対象にしてBPRを行なっても,革新できる範囲は狭いものです。そこで,他社の経営資源も含めた,企業間BPRとでもいうべき戦略が注目されます。
顧客満足を得るには,顧客が求めるものを,迅速に低価格で供給することが求められます。それには,部品メーカー,組立メーカー,流通業者が一体となってスケジュールを組み,供給プロセスの全体を最適化することにより,納期を短縮化すると同時に在庫を極力少なくしてコストを引き下げることが求められます。それをSCM(Supply Chain Management)といいます。
いかに大企業であっても,原料の供給から生産,流通,販売などすべての分野で最高のレベルを維持することは困難です。国内ではトップであったにしても,グローバル化により世界中で競争するならば,それよりも優れた企業はいくらでも存在します。
自社よりも優れた経営資源が他社にあるならば,あえて自社でその業務を行うよりも,社外に依頼したほうが効果的です。このような外部経営資源の戦略的活用のことをアウトソーシングといいます。
コア・コンピタンスとは,企業が他社との競争で優位に立てる中核となる能力のことです。アウトソーシングを積極的に行う理由は,自社が最も得意とする業務(コア・コンピタンス)に自社の経営資源を集中させることでもあります。
SFAでのモバイル・コンピューティングやSCMでの企業間のデータ交換などが,インターネットの発展により実現し普及したのは当然です。それ以外に,インターネットは,企業の事業や仕事の仕方に大きな影響を与えています。インターネット環境に適応したビジネスの仕方をeビジネス と呼んでいますが,インターネットの発展は,従来の経営戦略を根底から覆す可能性を持っています。
eビジネスのうち,特に商取引に関する分野をEC(Electronic Commerce)といいます。企業間でのECをBtoB,消費者を対象にしたものをBtoCといいます。BtoBでは,部品調達をインターネットで公開し,従来の取引実績に関係なく,全世界から入札させるようにしたり,企業での購入業務をインターネットで容易にできるようにして,取引額を急速に伸ばしています。BtoCの分野では,アマゾン・ドット・コム社はこれにより世界最大の書店になりましたし,オート・バイ・テル社はインターネットを用いて自動車販売代理店として最大の業者になりました。
銀行や証券会社もインターネットで各種サービスをするようになりました。従来は多くの店舗を持ち販売網を整備することが市場獲得での最大の武器でした。ところが,店舗や販売チャネルを持っているために,かえって,このような変化に即応できない状況も起こっています。すなわち,過去の成功が将来の負債になることもあるのです。
インターネットの普及により,Yahooなどの検索サービスの価値が認められ,最近ではブラウザを起動したときに最初に表示されるポータルサイトが重視されてます。このように,インターネットは新しい業種業態のビジネスを発生させているのです。新規ビジネスでの話題として,インターネットを利用した業務そのものを特許にする「ビジネスモデル特許」が注目されています。例えば,プライスライン社では,消費者が購入条件を指定する逆オークションを行うシステムを特許を取得したのです。そうなると,他社が同じようなことを行なうには,同社に特許料を払うことになります。
このように,インターネットは従来の体制を破壊するものです。それをデ・コンストラクションといいます。逆にいえば,従来の経営資源は持たないが,新しい環境を活かすアイデアを持った企業(個人でも)が容易に参入できるし,成功する機会もあるのです。インターネットの普及は,またとないビジネスチャンスでもあるのです。インターネットによるビジネスチャンスのことをデジタル・オポチュニティといいます。
インターネットの普及により,世界中が一つの市場になりました。国際的アウトソーシングともいうべき国際分業が行われます。そうなると,国内の産業体制も大きな変化を受けますし,企業経営のルールも国際標準に合致させる必要があります。
日本の人件費や土地価格は世界で最も高いといわれています。労働集約型の産業では,人件費が直接にコストに影響しますし,そうでなくても敷地面積が広い工場を建設するのには日本は適していません。それで,そのような産業は人件費や土地価格の安価な国に移行することは,かなり以前から行われていました。
それが現在では,大きく変化しています。移行先の中国やインドが,人材育成を行い高度な技術や経営能力を習得した結果,従来は日本が誇っていた電子産業や自動車産業すら,それらの諸国が世界の工場になってきたのです。
このような変化により,国内での製造業に大きな打撃を与えました。それに対抗するには,さらに高度な技術によるコア・コンピタンスを確立する必要があるのですが,技術の空洞化が進んできており,将来が心配されています。
グローバル化は,製品の輸出入や製造業の移転だけではありません。資本のグローバル化も進みます。日本から海外への投資も増大しますし,銀行や通信などこれまで規制の強かった分野も規制緩和により外国資本が急速に参入してきました。
そうなると,日本だけに通用していた制度も国際的なものに変更する必要があります。たとえば,日本の会計制度による財務諸表では,海外の投資家が適切に企業成績を評価することが困難だとの指摘により,会計制度が大幅に改訂されました。