SCMの実例では,パソコンメーカーのデルの例が有名です。デルコンピュータは,1983に創業し、10年もたたないうちにトップメーカーの一つになりました。しかも利益面で低迷している業界のなかで高い利益をあげています。その原動力が「デル・モデル」といわれるSCMに立脚した経営にあるといわれてます。
一般的にパソコンは見込生産でした。そのため、次のような問題がありました。
- パソコンは新製品が頻繁に発表されるし,しかもどれだけ売れるかわかりません。現行製品は短期間で陳腐化して安価でも売れません。パソコン業界は競争が激しく利益幅が少ないため、不良在庫はすぐに経営を圧迫します。また、あまり特殊性がないので、品切れを起こすと他社の製品を買われてしまいます。
- 利用目的が多様になり利用者のレベルも多様化したので、それに合わせるには多様な仕様のパソコンを生産する必要があるが、それではなおさら予測ができません。
- 販社、卸売業、小売業など多段階な流通経路を通していたのでは、流通コストが増大してしまいます。
これを解決するために、受注生産にしようとすると、次のような問題が発生します。
- 新製品が頻繁に出るので、注文を受けてから納品までの時間がかかると、その間に新製品が出てしまいます。そして、顧客の満足が得られませんし、あるいは注文を取り消されることも生じます。納期を極度に短縮することが必要です。
- 在庫を持たずに納期を短縮するには、部品調達期間を短くすることが必要だが、それで部品メーカーの在庫が増大したのでは、部品コストが高くなってしまいます。
- また、製品ができてから納入するまでの時間を短縮するには流通業者の協力が必要だが、それも一方的な押し付けではコストに跳ね返ります。
それに対してデルは、次のようなビジネスモデルを構築しました
(図示)。
- 販売はインターネットで行ないます。Webページに標準仕様のものをいくつか示し、メモリの増設、周辺機器の有無、搭載ソフトなどのオプションも示して、顧客がそれらを指定すると、その画面に金額が表示されされます。
顧客は,時間をかけて、いろいろな組合わせを検討して,好みの仕様を得ることができます。
- 購入での相談や購入後の問い合わせは、すべて電話あるいは電子メールで受け付けることにして、完全な無店舗販売にしました。コストが少なくなるので、電器店などで買うのと比較してかなり安くできます。
- 代金支払いは、先払いか納品時支払いかを選択させ、先払いを安価にすることにより、代金回収時期を早めることができました。
- 受注したデータは、自社の生産部門だけでなく、部品メーカーや流通業者へ即時に伝達します。部品メーカーや流通業者は、その情報によりスケジュールをたてることができます。
- 単に受注データだけでなく、自社および部品メーカーの進捗状況が互いにわかるようにしておき、計画の変更があれば、すぐに追従できるようにしておきます。
- 生産中であるとか、輸送中であるなどの顧客に必要な情報は、顧客がインターネットで自由に検索できるようにして、顧客の信頼を得ました。
このような方式は、
・購入者のパソコン知識が向上したことにより、店頭説明が不要になったこと
・インターネット料金が固定制になり、購入者は時間をかけて検討できるようになったこと
により、購入者に受け入れられ、急速にシェアを伸ばしました。
また、コスト低減により利益幅が大きくなるため、パソコン業界では驚異的な利益を上げることができました。
これを実現させるためには,取引先との情報共有が重要です。顧客情報や販売の動向、生産計画、需要予測、部品在庫といった情報をリアルタイムで部品メーカーに提供し,完成予定も宅送会社に通知されます。これにより、部品メーカーからの納入が即日可能になり在庫日数も平均して7~8日になりました。取引先は,生産計画や部品在庫などの正確な情報に基づき、計画的な部品の生産が可能になります。宅送会社はデルの配送を一手に引き受けるとともに,効果的なスケジュールを作成して提供します。