要求定義のプロセスにおいて、多くの関係者から要求を引き出して、それを整理して要件としてまとめることが大切です。それには多くの方法や考え方がありますが、ここでは情報処理技術者試験で出題されたものを中心に列挙するだけにします。また、要求分析とはやや離れるかもしれませんが、問題解決技法もここに入れておきます。
専門家の意見聴取
- インタービュー
- ヒアリングともいいます。ユーザから要求を引き出すのに最も広く用いられます。
実施にあたっては、次の事項に留意することが必要です。
- 適切な回答者の選出:単に現在の担当や職制で選ぶのではなく、業務をよく知っており問題意識の高い人を選ぶことが必要です。
- 的確な質問の事前準備:回答者の一方的な話を聞くのでは、回答者が気づかなかった(話すのを忘れた)事項が欠けてしまいます。事前に質問リストを作成しておくこと、場合によっては、それを事前に回答者に渡して準備してもらうと円滑になります。しかし、そのリスト以外にも重要な事項があるのは当然であり、むしろ、その発見が重要なのですから、リストに拘泥するのは不適切です。
- 誤解を防ぐために、回答者の話を、自分が解釈した文章にして確認をとることが必要です。
- 回答が,事実であるか推測であるかを区別することが必要です。事実の場合は、それを裏付ける資料も入手すること、推測ならばその根拠を聞き出しておくことが望まれます。
- 要求事項については、その理由、効果、優先度合などを聞きます。できれば代案も求めます。
- 一回のヒアリングですますのではなく、それを整理したものを確認してもらい、さらに疑問に感じた事項について質問します。
- 同一の事項について、複数の人にインタビューすることが大切です。同じ回答でも異なる観点からの指摘もあるし、逆の回答があることも多いのです。
- シナリオライティング法
- ある事象の時間の流れや同時に関連する一連の事象を列挙します。そして、列挙された事象群と対象事象との関係をタイミングと相互関連の観点から論理的に整理して、その変化状況を物語(シナリオ)風に描きます。これにより未来を予測します。関連事象の専門家の協力で行います。
- デルファイ法
- デルファイとはギリシャ神話での「神のお告げ」の意味です。
ほかの技法では答えが得られにくい,未来予測のような問題に多く用いられるアンケート調査の方法です。
・予測対象に従って,複数の専門家を回答者として選定する。
・質問に対する回答結果をフィードバックし,再度質問を行う。
・回答結果を統計的に処理し,確率分布とともに回答結果を示す
というように、アンケートの結果をフィードバックすることにより、ある値に収束させます。
「グループウェアの普及により、紙の消費量はどれだけ削減できるか」「紙1枚の節減を何円と評価すべきか」などの合意を得るときにも効果があります。
集団による問題発見
- ブレーンストーミング
- バスディスカッションともいいます。数人の人に集まってもらい、あるテーマについて自由闊達な意見をだしてもらい、それをまとめる方法です。このときの司会者の留意点を列挙します。
- メンバはすべて対等。担当部門や職制を意識しないことを伝えておく。また、ここでの発言を後日批判することも禁止することを伝えておく。
- 他人の発言を否定する発言を認めない。逆に、他人の発言からヒントを得て、さらに発展させる発言を歓迎する。
- 発言が一部の人に偏らないように、発言しない人がいないように考慮する。
- 話題が一部の事項だけに絞られすぎているときは、他の話題にも移るように誘導する。逆に、話題が発散しすぎて収拾がつかなくなるときは、適当なタイミングで元の話題に戻す。
- 発言が出尽くした頃を見計らって、それまでの発言を整理する作業に入る。
- ゴードン法
- ブレーンストーミングと似た方法ですが、リーダは本当のテーマを知っていますが、メンバにはモノではなく、「〇〇ができるとよいのだが」というような機能を示します。
メンバが多角的な発想をした段階で、本当のテーマを示し、発想アイデアを具体的なモノに適用するにはどうするかのテーマで検討を進めます。
- KJ法(親和図法)
- ブレーンストーミングの一種で、ブレーンストーミングを行い,収集した情報を相互の関連によってグループ化し,解決すべき問題点を明確にする方法です。カードを用いることに特徴があります。
情報収集→カード作成→グルーピング→見出し作り→図解(親和図)→文書化の順序で行います。
カードを用いることにより、口頭では発言したがらない人の発言が得やすくなります。
グルーピングでは、カードの文面を重視して似たもの集めをすることにより、既成の体系ではなく、新しい切り口が発見でき、それから新しい発想が生まれます。
- NM法
- 代表的な類比発想法です。次のステップでアイデアを集め整理します。
1 課題を決める
2 キーワード(KW)を決める
3 類比を発想する(QA)
4 アナロジーの背景を探る(QB)
5 アイデアをQBとテーマを結びつけて発想する(QC)
6 QCを使って解決案にまとめる
- ワークデザイン
- 問題解決に当たって,理想的なシステムを現実にとらわれることなく想定し,さらに,理想との比較から現状の問題点を洗い出し,具体的な改善案を策定する手法です。
- マインドマップ
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- マインドマップとは、自由な思考、アイデアや情報の流れを、中心となる概念から分岐させる形で描写した図です。図化には定まった制約はなく、自由な書き方ができます。
ブレインストーミングなどで、発言の関係を図化する手段に用いたり、説得力のある説明資料として作成したりします。
図表化を支援するツールもあります。
問題発見・解決能力の育成手法
- ケーススタディ
- 事例研究ともいいます。多様な方法や理論を具体的事例により実習するとか、具体的な問題を設定し検討して理論化するなどを通して、問題解決能力育成をします。
- ロールプレイ
- 役割演技法ともいいます。交替で営業部員になったり顧客になったりして、実際の仕事上の役割を演じることで、問題の発見をしたり、プレゼンテーションの方法を体得する訓練法です。
- インバスケット
- 問題解決能力の育成方法で、日常起こるマネジメント上の問題を多数提示して、一定時間内に判断し処理させる手法です。
関連用語
- ファシリテータ
- 「ブレーンストーミング」での「司会者の留意点」として掲げた事項は、すべての会議に当てはまります。このような集団での会議では「進行役」としてのファシリテータが重要で、その任務は「留意点」を実現することにあります。
ファシリテータとは「進行役」のことで、会議の議長や司会というより、会議進行のアドバイザで、メンバの発言機会を公平にする、議題からの逸脱を防ぐ、会議の進行に応じて発言内容のまとめをするなどが任務です。その任務を果たすには、議題やメンバに関して中立であることが必要です。議論の内容について自分の意見を発言するべきではありません。
- ダイバーシティ
- 「多様性」です。企業でいえば、性別、人種、国籍、宗教、年齢、学歴、職歴など多様さを活かすことが、企業の競争力に繋げる経営上の取組のことです。
ブレーンストーミングなどでは、いろいろなアイデアを歓迎するのですから、ダイバーシティを考慮したメンバ構成が望まれます。
- ロジカルシンキング
- ブレーンストーミングでは、自由な発想が求められますが、関係者に説明したり実施にあたっては、客観的な論理、数値的な証拠が求められます。
ロジカルシンキング(logical thinking)とは、物事を体系立てて整理し、矛盾や飛躍なく筋が通るように論理を組み立てる論理的思考法です。
- 演繹法:3段論法のように、論理を積み重ねていく方法です。
- 背理法:演繹法の一つで、証明すべき命題が偽だと仮定すると矛盾が生じることを示す方法
- 帰納法:事例を多く掲げて、統計的に信頼できることを示す方法です。
- 弁証法:ある命題(テーゼ)と矛盾・否定する命題(アンチテーゼ)があるとき、それを統合する命題(ジンテーゼ)を求める方法です。
「数字で話せ」といわれるように、客観的な根拠を示すには、定量的なデータが必要になります。そのためには、データの収集・蓄積・検索・加工なとの情報技術の活用が必要になります。
グローバル化の進展や世代交代など、関係者の価値観や思考方法が多様な環境になり、ロジカルシンキングの重要性が指摘されています。
- フィージビリティスタディ
- Feasibility Study(FS、実行可能性研究)。多様なアイデアの検討が進み、実現を検討する段階になった時点で、その可能性を検討することです。
通常は、新規事業など大規模なプロジェクトを対象にした用語です。
政治経済動向、社会・環境動向、技術動向、市場動向、業界動向などのマクロ環境
自社の戦略との合致性、資金調達能力、技術能力などの内部環境
費用対効果
などを多角的に検討します。
- POC(Proof of Concept、概念実証)
- フィージビリティスタディにより、実現を目指す段階で、試作品を作成したり、小規模な環境で実際に市場に試行してみたりすることです。この結果を調査して、本格的な実施、計画の変更、断念などを決定します。