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業務用語定義の重要性


業務レベル

用語の混乱

「私の常識は、あなたの非常識」といわれます。「得意先」や「出荷」など多くの業務用語がありますが、これらの用語は担当者間、組織間で、異なる用語を用いていたり、異なる意味で使われたりしていることがあります。
 例えば、販売部門では「得意先」、流通部門では「納入先」、経理部門では「請求先」などまちまちな用語を使っているとき、それらが同じ意味だと認識できるでしょうか?
 「出荷」とは何を指すのでしょうか? 販売部門は得意先に納入することと思っていたら、流通部門では自社内の他地域への転送も含めているかもしれません。

ホモニムとシノニム

「得意先」と「納入先」のように、同じ意味なのに異なる名称を用いることをシノニム(異名同義語)といい、「出荷」のように同じ名称なのに異なる意味を持つものをホモニム(同名異義語)といいます。
 また、上位用語と下位用語があいまいなことも誤解を生む原因です。「得意先」には複数の工場や店舗など「納入先」があり、支店などの「請求先」があるので、得意先の下位概念だとするとか、「出荷」は「納入」や「転送」の上位概念だとするように、用語間の階層化が適切なことがあります。

業務でのトラブル

このような業務用語は、あまりにも日常用語になっているため、担当者間や組織間で違いがあることが認識されていない、そのため、あえて確認をしないで、自分が勝手に解釈していることが多いのです。
 例えば、販売部門が受注して即納できるかどうかを確認するため、流通部門に現在の在庫量を聞き、自部門の納入予定量から、在庫があると判断して、得意先に報告した後で、大量の転送予定が入っていたなどのトラブルが発生するかもしれません。
 流通部門の出荷データでは返品を差し引いていないのに、経理部門の売上では返品を帳消しにしているので、両部門での出荷数量と経理部門の売上数量には差異が生じます。報告を受ける経営者や管理者がその違いを認識していないと、当惑してしまいます。

このようなことは、一元化されずに従来の各部門業務を単純にシステム化したときに顕著になります。これらの情報は一元管理されていると誤解されているコンピュータから、担当部門の説明なしに直接に報告されます。報告を受けた人はシステム化の信頼性すら疑うことになりかねません。

システム開発を外注するときは、さらに深刻な事態が発生します。発注者が常識としている「得意先」や「出荷」の概念は、開発者が常識としている概念ではないのに、両者のどちらも自分の常識でこれまで通用していたので、違いがあるとは思わず確認もしません。
 誤解のまま開発に入ってしまい、後になって誤解に気づいたときには大きな手戻りが発生し、コストや納期に大きな影響を与えることが多いのです。しかも、その責任の所属を明確にするのが困難なため、トラブルになりやすいのです。

全社的な標準化が必要

「得意先」や「出荷」などの用語と概念は、多くの部門が関係しています。その統一には全社的な取組みが必要になります。
 逆に、業務用語はあまりにも多いので、すべてを全社的な取組みにするのは非効率です。他に影響を与えることが少ないものについては、直接関係する部門に任せることも必要です。
 また、全てを一気に完成させることは困難ですし、後になって修正すべきことが多く発生しまます。
 このような観点から、経営者をリーダとしてPDCAサイクルで継続的改善を進めるマネジメントシステムとして運営する必要があるのです。

この標準化において重要なのは、用語と定義などをデータベースにすることです。これは標準化プロジェクト進行中での共同作業でも重要ですし、関係者が参照するにも必要です。
 さらにこのデータベースは、システム化での変数定義などの基盤になります。


システム開発レベル

派生用語

システム段階では、上述の業務用語から、多くの用語が派生します。これらに関しても用語の統一と定義を行い、データベースを拡張することが必要です。

「得意先」が標準用語に指定されたとして、次の派生用語が必要になります。

これらの派生用語を定義したら、実際にコーディングするときの変数名を決定する必要があります。

下位用語

「得意先」と「納入先」は1:Nの関連があるとき、下位用語である納入先のコードの付け方には、
  A:全ての得意先で一意のコードにする(通常は先頭の数桁が得意先コードになる)
  B:得意先内で一意であれば、他の得意先とは重複してもよい
の二つがあります。
 Aでは、納入先が主であり、得意先は「納入先の先頭〇桁」の表現になりますし、得意先を独立させるとデータの重複が発生します。
 Bでは、if (得意先==〇 && 納入先==△) のような記述が多くなります。
 この違いは「納入先名」にも影響します。

動詞用語

「出荷」や「納入」などの動詞の用語では、命名基準だけでなく、コード体系が重要になります。
納入ファイル、転送ファイルにように最下位レベルで個別のファイルを扱うときは、特に問題はありませんが、それらをまとめて一つの出荷ファイルとするほうが便利なことが多いので、そのファイルの属性に「出荷コード」をつけて区分します。
 この出荷ファイルから納入データを取り出す場合、コード体系が適切かどうかにより if文の記述が簡潔になったり複雑になったりします。


用語データベースの活用

上述のように、業務レベルで基本的、システム開発レベルで派生的な検討作業のプロセスで作成した用語データベースを、多様な観点で参照できるようにすれば、いろいろな活用ができます。