ベストプラクティス,経営品質,ベンチマーキング,経営の成熟度
優れたビジネスモデルであり,他社でも応用できる方法をベストプラクティスといいます。「あの会社は,流通の低コスト化や納期の短縮に成功したが,その秘訣は何なのだろうか?」とか,「いつもあの企業は情報化の成功例として紹介されているが,情報化への取り組みや組織はどうなっているのだろう?」などといわれる企業のノウハウだともいえます。それを参考にしたり,あるいは模倣することにより,優れた経営戦略を策定することができます。ベストプラクティスを探したり検討するには,業界雑誌での紹介や講演会での発表などによったり,実際に先行企業を訪問することが一般的です。 (雑談:守破離)
まあ単純にいえば,ベストプラクティスとは「うまくやってる人のマネをする」ということですね。ところで剣の修行に「守破離」という言葉があります。
学問でいうならば,高校頃までのように先生や教科書を覚える段階が「守」の段階なので,「勉強」とか「学習」というのでしょう。ところが実務では現実に合致した応用の世界ですから「破」や「離」の段階であることが求められます。大学では「勉強」とはいわず「研究」といいますが,それは「破」の段階だともいえましょう。私はよく「私のいうことを信じるな。自分で考えて,意見が違うようなら質問しろ」といっていますが,「自分で考える」ことが「離」なのです。
経営の仕方や成果を経営品質といいます。優れた経営品質のビジネスモデルを実現した企業を表彰して広く公開することにより多くの企業の参考にするために,経営品質賞の制度があります。米国のマルコム・ボルドリッジ国家品質賞や欧州のヨーロッパ品質賞が有名です。日本では経営品質協議会が日本経営品質賞を設けています。日本経営品質賞の評価基準は毎年若干変更されますが,例えば2002年の基準は次の通りになっています。活動成果に重点がおかれ,情報化自体には配点が比較的少ないことがわかります。
日本経営品質賞の評価基準(配点)
1.経営幹部のリーダーシップ(120)
2.経営における社会的責任 ( 50)
3.顧客・市場の理解と対応 (110)
4.戦略の策定と展開 ( 60)
5.個人と組織の能力向上 (100)
6.価値創造のプロセス (100)
7.情報マネジメント ( 60)
8.活動結果 (400)
経営戦略は経営者が自ら検討するべきことですが,これらの事例をベストプラクティスとして参考にすることにより,多くのヒントを得ることができます。成功事例は経営誌でも多く取り上げられていますが,経営品質賞は総合的な観点での審査を受けたものなので,参考にするのに適した事例だといえます。
私たちの関心は,とかく同業者の動向に限定されがちですが,案外他業種・他業界にベストプラクティスが多いのです。例えばスーパー業界では,異物混入や病原菌のトラブルを回避するために,生鮮食品の生産過程から流通過程での履歴を把握することが話題になっていますが,その成功例をスーパー業界で探してもまだ業界全体としての経験が少ないので多くの事例を知ることはできません。それに対して医薬品業界では,履歴把握の情報システムには長い経験があり,既に当然のこととして利用されています。
ベストプラクティスはコア・コンピタンスと似ています。どちらも優れたビジネスモデルであり経営戦略です。しかし,コア・コンピタンスは他社に追従を許さないものであり,それを自社に適用するのは難しい面があります。それに対してベストプラクティスは,他社にも応用ができることを重視したものです。その比較をすると次表のようになります。
コア・コンピタンス ベストプラクティス
対象 技術,ノウハウ,販売力など, 業務の仕方のようにHow
What(何)が対象にする (どのように)を対象にする
レベル 他社の追従を許さない世界中 優れてはいるが,最高級で
で1番・2番の最高レベル ある必要はない
参考 レベルが違いすぎて一般企業 規範的な方法として他社が
が模倣するのには不適切 参考にできる。応用性も高い
ベストプラクティスと自社の状況を比較することをベンチマーキングといいます。
優れた企業と比較して,製品,サービス,オペレーションなどを定性的・定量的に把握し、比較分析をして,自社の経営革新を行うことです。