他社の情報システムの開発や運用を受託してサービスを行う企業を情報サービス業といいます。IT技術者を志向する人の多くは、情報サービス業の企業に就職すると考えられます。それで、ここでは、情報サービス業について説明します。
受託開発ソフトウェア業、システムインテグレータ
情報サービス業は、情報化の進展に伴い発展してきました。日本標準産業分類は、時代の変化に伴い区分の改定が行われるので、時系列で比較するには厳密性を欠きますが、長期的には大きな成長を遂げてきました。
(図表)
現在では、全産業のうち情報サービス業が占める割合は、市場規模、GDP、雇用者数ともに2.5%近くに達しています
(図表)。
情報サービス業は、日本経済を支える大きな産業分野なのです。
国での統計調査の基本となる「日本標準産業分類」では、情報サービス業は、大区分「G 情報通信業」(2007年改定以前はH)、中分類「39 情報サービス業」として位置付けられ、さらに細分されています。(図表)
情報サービス業に関係する統計のうち、定期的に調査をして、その結果をWeb公開している主なものを掲げます。
指定統計とは、国勢調査のように、統計法に基づき、5年ごとに国が行う調査で、報告の義務に関する規定があります。全産業の全事業所を対象にしたものです。、事業所の名称、所在地、経営組織、開設時期、従業者数、事業の種類などを調査します。売上高などの経理項目は調査しません。
「経済センサス‐基礎調査」が平成21年度から実施されており、「事業所・企業統計調査」は平成18年度が最後になりそうです。
毎年、第1次産業や飲食店などを除いた多数の業種のうち、従業者50人以上かつ資本金又は出資金3,000万円以上の会社(すなわち中小企業を除く)から4万社程度を標本調査しています。80%以上の回答率があります。
事業所・企業統計調査と同じような項目以外に、売上高や情報化の状況なども調査しています。
情報サービス業やレンタル業、広告業など16の業種について、企業活動基本調査よりも詳しい調査を行っています。該当企業の全数についてアンケート調査をしています。回収率は約80%。
他の統計では大区分「G 情報通信業」のレベルで集計されているのに対して、「ソフトウェア業」「情報処理・提供サービス業」のレベルになっており(逆に「情報サービス業」として集計されていない)、情報サービス業に関する統計では、最も基本となる統計です。
JISA(社団法人 情報サービス産業協会)の会員は、約720社の情報サービス業が会員になっています。有力企業の加入率が高く、外資系の会員が少ない傾向があります。
同協会では、特定サービス産業実態調査に協力するだけでなく、独自に会員企業を対象にして、情報サービス産業基本統計調査などを公開しています。
調査対象は会員企業(大企業、優秀企業に偏る)に限定されていますが、多様な切り口での統計があり、情報サーブ業を理解するのに適切な統計です。
白書の全文がWebで公開されており、統計データはExcelファイルのダウンロードもできます。統計内容は毎年異なりますが、「資料」では、業種別GDP、売上高、従業員数などは固定になっています。分類が、「情報通信産業」のレベルが多く、情報サービス業だけを対象にするには留意する必要があります。
大区分「情報通信業」には、テレビ局や出版社なども含まれます。このうち情報サービス業が占める割合は3/4程度です
(図表)。
さらに総務省「情報通信白書」の「情報通信産業」では通信機器メーカーや電気工事まで含まれるので、情報サービス業の割合は、売上高では約20%、従業員では約30%程度です
(図表)。
これらは、IT技術者の職場として取り扱うには広すぎます。このような区分を理解していないと誤解を招くことがあります。
中区分「情報サービス業」は、「管理、補助的経済活動を行う事業所」「ソフトウェア業」「情報処理・提供サービス業」の総称ですが、ソフトウェア業と情報処理・提供サービス業には異なる特性があります(図表)。情報サービス業のうち、ソフトウェア業が約70%を占めています。なお、「管理、補助的経済活動を行う事業所」は、新設されたばかりなので、多くの統計では独立した業種になっていません。
顧客が独自の情報システムを構築するにあたって、顧客の委託により,コンピュータプログラムの作成をしたり、それに伴う調査,分析,助言などを行う事業所です。なお、一般の経営コンサルタント業[8093]は、情報サービス業には含まれません。
組み込みソフトウェアとは、携帯電話や自動車などの電子部品に組み込まれているソフトウェアのことです。組み込みソフトウェア業とは、それらの機器のメーカーから受託する事業所です。以前は受託開発ソフトウェア業に含まれていたのですが、その技術や環境が通常の販売システムや会計システムなどの開発と大きく異なるので、2007年の改定により分離されました。
パッケージソフトウェアとは、OS、オフィスソフトなど、多数の顧客の利用を意図して作成される市販ソフトのことです。パッケージソフトウェア業とは、パッケージプログラムの作成及びその作成に関して,調査,分析,助言などを行う事業所です。マイクロソフトは代表的なパッケージソフトウェア業です。
従来はパッケージソフトウェア業に含まれていたのですが、ゲームソフトは独自の発展をしていることから、2007年の改定により分離されました。
これには大きく2つあります。
・自社のコンピュータを用いて、顧客のコンピュータ処理を受託する事業所で、計算センター、ホスティングサービス、タイムシェアリングサービスなどともいいます。
・帳票などからコンピュータデータを作成することを受託する事業所です。データエントリー業、パンチサービス業などともいいます。中小の情報処理サービス業はほとんどこれです。
不動産情報,交通運輸情報,気象情報,科学技術情報など各種のデータを独自に収集,加工,蓄積し,情報として提供する事業所です。データベースサービス業ともいいます。
市場調査,世論調査など,他に分類されない情報処理・提供サービスを行う事業所です。なお、ニュース供給業[4151]、興信所[8091]、観光案内業(ガイド)[8399]などは情報サービス業以外の産業に分類されます。
情報サービス業の構成では、ソフトウェア業が約75%、情報処理・提供サービス業が約25%です。小分類では受託開発ソフトウェア業が全体の60%強を占めています。そのため、「情報サービス業」「ITベンダ」というとき、受託開発ソフトウェア業のことを指していることがあります。 (図表)
日本標準産業分類では分類しにくい業態があります。
情報サービス産業協会では、情報サービス業会員を対象にしています。基本的には日本標準産業分類に従っていますが、会員の構成を考慮して、システムインテグレータ(後述)などの業種に区分したり、小区分を適宜まとめたりしています
(図表)。
資本系列から、(コンピュータ)メーカー系、ユーザ系、独立系に区分できます。全体に占める割合は、売上高では3つともほぼ同じなのですが、会社数では独立系が60%程度なのに、メーカー系は10%程度です。独立系では小規模な会社が多く、メーカー系では大規模な会社が多いといえます。(図表)
コンピュータが企業で活用されるようになった当初では、コンピュータメーカーとユーザ企業のIT部門だけで情報システムを構築していました。メーカーはコンピュータのハードウェアを売るのは目的であり、ソフトウェアはその付属品に過ぎず、ユーザ企業のシステム開発への支援は、売るためのサービスに過ぎなかったのです。
それが現在では逆転しています。ほとんどのコンピュータメーカーは、最大の利益がサービス分野になりました。それに対応して、サービス専門の部門や関係子会社を積極的に展開しています。
当然、大企業が多く、企業数の比率は小さいのですが、従業員数、売上高では大きな比率になっています。
これまでにメーカーとして長年の関係をもつ顧客があり、分離してからもメーカーの営業を通した受注が得られます。ハードウェアも含めた総合的な受注ができます。しかし、メーカー製品に制約を受けることもあります。
ユーザ企業では、業務の多角化のため、IT部門を戦略部門化するために、プログラム作成や運用の分野を情報子会社として分社化するようになりました。その情報子会社は、成長発展するために、親会社やグループ企業の枠をこえて、第三者へのサービスに進出するようになりました。独立してからも、親会社やグループ企業から比較的安定した受注が得られます。実際にシステムを活用したノウハウが大きい武器になりますが、専門分野が偏ることもあります。
ユーザ系のなかに、コンサルタント系があります。経営コンサルタントが、提案の実現にはITの活用が必要であるとしてIT分野へ進出したものです。この場合は、子会社にするのではなく本体が行うことが多いようです。そのため、上流工程に偏る傾向があります。
情報サービス分野の成長により、当初からこの分野を対象として設立した企業です。なかには、メーカー系やユーザ系を買収して成長したものもあります。系列からの束縛がないため、どこのメーカーの製品も自由に活用できる長所がありますが、安定した受注先に欠けるため経営基盤が弱い傾向があります。営業力強化が重視されます。
大企業もありますが、中小の企業が多く、企業数比率にくらべて従業員数・売上高比率が小さくなっています。