IT革命やユビキタス社会といわれるようにITの進展は,身の回りの生活から国家経済や国際競争力にまで広範囲に急激な変革を与えています。反面,情報を悪用した犯罪や反社会的情報も氾濫しています。健全な高度情報化社会を構築するには,その担い手である次世代への情報教育が必要です。また,これを行うことは,デジタルデバイド(情報活用能力に起因する格差)を解消するためにも重要です。
国の施策でも,1998年「ミレニアムプロジェクト-教育の情報化-」,2001年「e-Japan戦略」,2006年「IT新改革戦略」、2009年「i-Japan戦略2015」等を通して,教育の情報化は特に重点的な施策と位置付けられてきました。
初等中等教育における情報教育の考え方
文部科学省
『情報教育の実践と学校の情報化』(2002年)では,初等中等教育における情報教育は,次の3つの要素が基本であり,しかもこの3要素から構成される情報活用能力をバランスよく育成することを目標としています。
- 情報活用の実践力
- 課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて,必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力
- 情報の科学的な理解
- 情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と,情報を適切に扱ったり,自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解
- 情報社会に参画する態度
- 社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し,情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え,望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度
さらに,次のような説明もしています。
- 情報教育とは情報技術の専門家を育成するためのものではないし,情報機器の基本操作の習得のみを目標とするものではない。
- 情報技術を活用すべきかどうか判断したり,どのように活用するとより効果的かを考える力を体験重視で育成するだけでは不十分である。情報活用の経験とその裏付けとなる基礎的理論や手法とを結びつけ,情報手段に共通の原理や仕組みを理解させることが必要である。
- コンピュータやインターネットをブラックボックスとして,闇雲に信じて利用するのではなく,その長所や弱点を知り,あわせて他の情報手段の特性も理解し,様々な情報手段の中から適切な手段を選択できることが必要である。
- 社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響(光の面と影の面)を理解させ,どのように捉えどう対処すべきかという心構えを持たせて,情報社会に参画しその進展に寄与しようとする態度を育てることが大切である。
全科目での情報教育
上記のような情報教育を行うには,情報に関する教科等のみでなく,学校教育活動全体で取り組まれて実現することが重要です。それで上記報告書では,2005年度を目標に,全ての教員がコンピュータやインターネットを活用してを用いて指導できるようにすること,すなわち次のことができるようにすることを目標としています。
1 情報活用能力の目的・内容の理解
2 指導方法の改善のための情報手段の適切な活用方法についての理解
3 全員が協力して学校の情報化に参画しなければならないという認識
改正教育基本法での取り組み
2006年に、教育基本法の全面改正が行われました。それに伴い、学習指導要領も改正されました。それでも、上記の3要素は再確認されています。また、全科目での情報教育が重要であり、さらに高い目標を掲げています。
中央教育審議会は2008年に、『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)』2008年をとりまとめました。情報教科については、次のように答申しています。
- 活用を重視した教育
学習のためにICTを効果的に活用することの重要性を理解させるとともに、情報教育が目指している情報活用能力をはぐくむことは、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着とともに、発表、記録、要約、報告といった知識・技能を活用して行う言語活動の基盤となるものだとしています。
- 影の面への対策
インターネット上の「掲示板」への書き込みによる誹謗中傷やいじめ、個人情報の流出やプライバシーの侵害、インターネット犯罪や有害情報、ウィルス被害に巻き込まれるなど、情報化の影の部分が顕著になっています。学校では家庭と連携しながら、情報モラルの育成、情報安全等に関する知識の習得などについて指導することが重要と指摘しています。
- スキルを考慮した科目構成
このような観点から、情報教育について、上述の3要素を踏まえた上で、生徒のスキルの段階に応じた改善を図る必要がある(高校生のスキルの差異が大きい)。普通教科の「情報」については、将来、いずれの進路を選択した場合でも必要となる情報活用能力を身に付けさせるため、現行の科目構成を見直す必要があると指摘しています。
- 情報教育の環境整備
学校におけるICT環境整備は諸外国に比べて遅れており、情報機器や教材の整備や支援体制等、ICT環境に関する条件整備が必要であるとしています。