スタートページ主張・講演経営者・利用部門のためのIT入門第1章 ITへの期待の変化

ダウンサイジングとグループウェア


パソコンの価格は急激に低下し、その性能は向上しました。利用者に使いやすい機能やソフトウェアが普及してきました。ネットワークの環境も整備されてきました。それで、1980年代末頃になると、これまでの大型汎用コンピュータ(メインフレーム)による集中処理から、パソコンをLANで相互接続し、それらを事業所間ネットワークで接続した分散処理へと移行するようになりました。その動向をダウンサイジングといいます。従来の方式をレガシーシステム、ダウンサイジング後の方式をオープンシステムともいいます。

汎用コンピュータとパソコンの出荷台数推移

クライアントサーバシステム

オープンシステムでの代表的なシステム構成は、クライアントサーバシステムです。クライアントとは、利用者の机上にあるパソコンのことです。サーバとは、クライアントからの要求により、処理をするパソコンです。サーバとクライアントの関係は、従来の汎用コンピュータとTSS端末と似ていますが、サーバ自体がオープン仕様になっているので、サーバ間の連携や階層構造にするのが容易であるのが特徴です。
 また、サーバというとき、ハードウェアを指す場合と、サーバ機能のソフトウェア群を指す場合があります。そもそも、サーバは物理的なハードウェアではなく、論理的な機能だと理解すべきなのです(3層構造)。 サーバをハードウェアと理解すると、新しい情報システムを構築するたびに、専用のサーバを設置したくなり、多数のサーバが乱立する状況になります。そして、一方のサーバはデータが一杯でアクセスも多く増強する必要があるのに、他方のサーバはがらあきだというような無駄が生じます。
 最近は、仮想化技術が注目されています。論理的な機能に基づく管理手段を提供することにより、資源をプールして用いることができ、無駄を排除できるだけでなく、必要に応じてハードウェアを追加したり、プログラムやデータの保管場所を変更したりするのが容易になります。

クライアントサーバシステムは進化し、現在では3層構造として認識されています。

プレゼンテーション
利用者と情報システムとの接点です。サーバへの指示やデータの入力画面、サーバが処理した結果を示す出力画面を担当します。
ファンクション
処理を担当します。プログラムが入っているサーバだと思えばよいでしょう。
データ
ファンクションで用いるデータ(データベース)を保管しています。

通常は、プレゼンテーションはクライアント、ファンクションとデータがサーバだとしてかまいませんが、物理的なハードウェアではなく、機能だと理解すべきです。データを複数のハードウェアに分散してもつ場合もありますし、ファンクションとデータが一つのハードウェアに存在する場合もあります。

初期のクライアントサーバシステムでは、特定のアプリケーションを用いるには、クライアント側にもインタフェース用の専用ソフトウェアをもつ必要がありました。現在では、多くのアプリケーションが、プレゼンテーションをWebブラウザにしています。
 そのため、理論的にはクライアントにはWebブラウザだけがあればよいことになります。それをシンクライアントといいます。シンクライアントは当初は安価になることが強調されたのですが、あまり普及しませんでした。最近では、セキュリティ対策の観点からセキュアクライアントとして普及しつつあります。

データをファンクションから分離することは、データを多目的に用いるためにも重要です。また、複数の場所にあるデータベースを分散データベースといいますが、それを扱う技術が発展し、ネットワークが高速になったことから、分散データベースが実用的になりました。

なお最近は、Webサーバに、これと異なるMVC(Model、View、Controller)という3層構造が普及しつつありますが、ここでは省略します。

グループウェア

1990年代前半にオープン環境で急発展したのが、電子メールや電子掲示板で代表されるグループウェアです。このグループウェアは、コンピュータ利用に画期的な変化を及ぼしました。これまでのコンピュータは、基幹業務系システムにせよ情報検索系システムにせよ、ファイルのデータを加工して情報にすることが主な機能でした。文字通りコンピュータ(計算機)だったのです。それに対してグループウェアは、加工ではなく情報の伝達が主な機能ですので、コミュニケータ(情報伝達機)というほうが適切だともいえます。
 現在では電子メールや電子掲示板(Webページ)はインターネットで広く利用されていますし、現在のグループウェアはその技術を用いています。しかし、インターネットでの利用以前に、社内での用途としてグループウェアが普及したのです。
 その後グループウェアは、個人の持っている知識を組織全体の知識として活用するナレッジマネジメント、電子稟議や電子伝票などの日常業務の流れをシステム化するワークフロー管理システムへと発展してきました。
 このような利用形態を総称して、コミュニケーションシステムということにします。

コミュニケーションシステムでは、全体のインフラはIT部門が提供するにせよ、その運営は利用者の自主的な利用に任されます。利用者が発信しない限り成立しない利用形態ですし、どのような内容を誰と交信するのかも利用者の判断になります。極端にいえば、IT部門の運用から離れたシステムなのです。
 また、誰とでもどのような内容でも自由に交信できる文化を持つ組織では、グループウェアは組織の壁を超えた情報伝達・情報共有のツールとして多大な効果をもたらします。それに対して「沈黙は金」「物言えば唇寒し」の組織では、単なる公式の伝達にとどまり、大した効果を得ることができません。また、組織文化を変えることを目的としてグループウェアを導入することもありました。

グループウェアの効果