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CIO、IT、IT投資、ITの戦略的活用,IT部門の運営

CIO,IT,IT部門への経営者の認識に関する考察

作成 2008.11.11

日本経営工学会「経営システム」Vol.18 No.6 pp.282-288. 2009年3月


1. は じ め に

本号でCIOを特集したのは,経営にITが重要であり,ITの効果的活用にはCIOによるITガバナンスが求められるが,現実にはCIOが十分にその任務を果たしていないという認識があるからであろう.
 しかし,CIOが有効に機能していないのは,適切な人材がCIOになっていないし,CIO自身がCIOの任務を重視していないからである.さらには,経営者がITを重視していないこと,IT部門の社内的地位が低いことに起因していると考えられる.そのため,CIOを論じるには,経営者のIT観,IT部門観を考える必要がある.

日本企業は,米国企業と比較して,ITの効果的活用が遅れていると指摘されている.それに関して,IT部門やITベンダの自覚を求める指摘が多い.本稿では,それにもまして,経営者が(タテマエはともかくホンネでは)ITを軽視していることが原因であり,その認識を変える必要があると主張する.
 当然ながら,優れた経営者やCIOは多い.しかし,本稿では大多数の「優れていない」ケースを対象にする.なお,ここでの記述は,筆者の体験による主観が多く,厳格性を欠くことをお断りしておく.

2.  CIOの任務と問題点

CIOの最大の任務は,ITガバナンスの確立である.経営の観点からITを運営することであり,そのためには,経営とITの双方に高度な知識やスキルが求められる.
 CIOがもつべき知識やスキルに関しては,米国の「CIOコアコンピタンス」[1]や経済産業省の「CIO育成のためのコアコンピタンスと学習項目の調査研究」[2]などがある。前者では大項目12,中項目83,小項目562,後者では大項目13,中項目82,小項目589を示しているが,それをすべて具備している人はスーパーマンであり,通常のCIOに期待するのは無理がある.
 ここでは,経営とITの接点に注目して,IT投資の費用対効果,ITの戦略的活用,IT部門の運営の3つの事項について,その重要性と,機能が不十分な状態と原因などを検討する.

2.1 IT投資の費用対効果

CIOの最大の任務は,単純にいえば,「儲けるためにITをどのように活用すればよいか」を検討し,実現することにある.それには,ITへの経営資源の配賦やIT投資案件の承認・却下など,IT投資の費用対効果を適切に把握する知識能力が求められる.これは他人に任せることはできない.
 CIOの関心事を調査するアンケートは多いが,「IT投資の費用対効果の明確化」に類する事項は常に上位の一つになっている.IT投資は,絶対額も投資全体に占める割合も増大している.それなのに,経営者は,店舗や生産設備などの投資と比較して,IT投資の費用や効果がわかりにくいと感じている.

「コンピュータ導入は儲かるのか?」は,日本の大企業が本格的にコンピュータを導入しはじめた1960年代からいわれていたことである.同じことが40年もいわれており,現実にはその評価基準すらもっていない企業が多いのである.「古くて新しい問題」なのである.

(1)IT投資の特徴

経営者にとって,IT投資がわかりにくい理由として,IT用語が難解であること,それはIT部門の責任だという指摘がある.しかし,生産技術をしらなくても,生産設備投資についてそれなりの評価はできるのだから,本質的なことではない.

むしろ,IT投資の特徴に起因することが多い.
 当然ながらIT投資は,実務部門の業務の改革により効果を得るのである.「ERPパッケージによるシステム構築は完了した.でもBPRは実現していない」とか,「Web販売サイトを立ち上げたが,期待した受注が得られない」といったケースは,よく見聞することである.これらは,IT投資の失敗というよりも,それを取り巻く業務改革やサイトのPR、コンテンツの充実など,非IT活動が不適切なことが原因である.すなわち、IT投資ではなく、複雑なプロジェクトの効果がわかりにくいのである.

定性的効果の評価が困難なことがある.グループウェアの効果には情報伝達の迅速化や情報の共有化をあるが,それを金銭的に評価することが難しい.ペーパーレスを評価対象としても,1枚の紙を減らすことによる効果は,購入価格なら1円程度であるが,コピーして配布する費用や保管費用の削減,デジタル化による検索や再利用の効果などを考慮すると数百円になるかもしれない.どの値を採用するかで評価は大きく異なる.

費用の面では,システム開発の費用がわかりくいことが指摘される.人月やステップ数,ファンクションポイントで示されても,どうしてそのような数になるのか,単価が適正かどうかわからない.
 さらに評価が困難なのはインフラ投資である.パソコンやネットワークなどの基盤整備,開発のための環境整備や方法論の導入,エンドユーザのリテラシー涵養などのインフラ投資は,その後のアプリケーション投資のコストを非常に低下させるのであるが,それ自体は利益を生むものではないし,利益が得られるまでに長期間を要する.

(2)222の法則

システム開発では,予定した2倍の費用と2倍の時間がかかり,1/2の機能しか実現しないという「222の法則」がいわれている.これはスタンディッシュ・グループの調査(1994年)[3]で実証された.『日経コンピュータ』誌(2003年)[4]が日本企業を対象に調査した結果でも,品質,コスト,納期のすべてが計画通りに達成できたのは26.7%であったという.このように計画と実際との差異が大きいことが,経営者がIT投資に不信感をもつ要因の一つになっている.

コストや費用が増大する最大の原因は手戻りである.それが、要件定義が不十分なこと,後工程になってから追加・変更が生じることに起因することは,多くの文献で指摘されている.これを回避するには,IT部門の要件収集能力が重要であるが,それにもまして,利用部門がこれの重要性を認識することが求められる.  また,計画が実現するには,多様な前提条件がある.個々の条件が満足される確率は大きいとしても,その個数が多いならば成功確率は小さくなる.しかも,社外との関係が多い非IT活動の前提条件の実現確率は不確定である.
 すなわち,ITそのものへの投資ではなく,それを取り巻くプロジェクトの運営や評価に関する知識が必要になる.このような知識は,耳学問では得られない.当事者としての長年の実体験が必要になる.ところが後述のように,IT部門を経験したCIOは少ないのである.

2.2 ITの戦略的活用

ITが経営に不可欠な武器であることは,1960年代からも指摘されていた.当時でも単なる手作業のシステム化ではたいした効果は得られず,それを機会に業務の流れや組織を抜本的に変革することが必要だと指摘されていた.ITで利益を得るためには,儲かるビジネスモデルがあり,そのビジネスプロセスにITが役立つ分野があり,それに適したITの活用をすることが前提となるのは当然である.それを発見し実現することがCIOの任務である.

(1)IT活用での日米比較

ところが,日本企業は米国企業と比較して,戦略的な分野でのIT活用が遅れていることが指摘されている.アクセンチュアの調査[5]によると,日本では,固定的支出:戦略的投資が約3:1の割合なのに対して,世界(主に米国)では,2:2の割合であるという.日本企業は米国企業と比較して,売上高に占めるIT投資の比率も低いが,IT投資の目的が日本では「守り」重視,米国では「攻め」重視の違いがあり,これが日本企業の国際競争力を低くしていると指摘されている.

また,経済産業省[6]は,企業のIT利活用の段階的な発展階層を,ステージ1(ITを導入したが活用されていない),ステージ2(部内最適化),ステージ3(企業内最適化),ステージ(企業間最適化)の4つのステージに区分して,米国企業が約1/2がステージ3以上になっているのに対し,日本企業では1/4程度の状況であると指摘している.

(2)日本のCIOの特徴

戦略的活用が不十分なのは,日本のCIOが米国のCIOと比較して十分に機能していないからだといえる.それは,CIOに適した人材がCIOになっていないこと,CIOがCIO業務を行っていないことに起因する.
 経済産業省『情報処理実態調査』(平成17年版)[7]によれば,売上高1,000億円以上の大企業では78%の企業がCIOをおいている.しかし,CIOの73%は兼任であり,IT専門知識をもつCIOは39%である.他のいくつかの資料から推測すると,上場企業ですら、兼任の場合,CIO業務が占める割合は50%よりかなり低いし、IT部門経験者は30%程度なので、実際にはIT専門知識のレベルは低いと推測される.
 すなわち,日本のCIOは兼任CIOであり,IT素人CIOなのである.それに対して,米国ではCIOはプロフェッショナルな職制であり,ほとんどが選任であるといわれている.

2.3 IT部門の運営

CIOが直接に所轄する部門はIT部門である.IT部門をITガバナンスの観点からマネジメントすることが求められる.

IT部門の子会社化は,以前から行われていたが,1980年代の製造業が不況による本体スリム化,外貨獲得対策として発展した.それが,SIS(後述)の概念が普及するにともない,戦略的アウトソーシングが必要だといわれるようになった.
 従来のIT部門は,システムを構築して運用すること,すなわちDP(Data Processing)業務が主任務であった.経営戦略にITを結び付けることが重要であり,そのためには,IT部門を戦略部門として経営の中枢に位置づけるべきである.そして,その業務に専心させるためには,DP業務を外部化する必要があるとして子会社化やアウトソーシングすべきだといわれた.また,システム開発を外注化したりERPパッケージを利用したりすることが一般的になった.

ところが最近では,IT子会社の本体復帰や,システム開発を内製化する動きもある.このような変化は,経営環境が変化したためであるが,むしろ安易に外部化したことによる.経営者は,ITをコアコンピタンスと認識していなかったのである.
 たしかにDP業務はコアコンピタンスではない.しかし,それが極端になってしまった.料理をすることが家庭の本質ではないとして,すべて外食やコンビニに頼り,台所すらない状況にしてしまったのである.また,戦略部門化したはずのIT部門が,戦略部門としての任務を発揮せず,IT要求の取りまとめやIT予算の管理など,単なる事務管理部門になっていることが多い.

このような状況を,根本的に変革することがCIOに求められるのである.

3.  CIOへの期待の変化と現実

経営環境やIT環境の変化により、CIOに求められる知識・スキルは変化する。未だにCIOをIT部門担当役員として認識しているのでは、適切な対応はできない。CIOを任命する経営者の認識向上が必要である。

3.1 CIOへの期待の変化

CIOに求められる能力が,どのように変化してきたかを歴史的に考察する.ところが日本では,未だ20年前の状況とあまり変わっていないのである.

(1)SISの普及とCIOの出現

コンピュータ導入当時から,ITを効果的に活用するには,経営者がITに関心をもち積極的に参画する必要があるといわれていたが,CIOの重要性が強く認識されるようになったのは1980年代後半である.競争優位を確立するために,情報システムを戦略的な分野に活用することが重要だとするSIS(Strategic Information System:戦略的情報システム)の概念が普及した[8].
 ITを経営戦略実現の武器として活用するために,また,戦略部門としてのIT部門を適切にマネジメントするために,IT最高責任者としてのIT担当役員であるCIOがおかれるようになった.当時では、経営からの視点が強調され、ITの知識・スキルは軽視された。

(2)その後の変化

その後,1980年代末からダウンサイジングが進んだが,当時のオープン環境は流動的であった.また,1990年代前半に,BPR(Business Process Reengineering)の概念が普及し,業務の抜本的改革のためにITの活用が求められた.米国では,この変化を重視して,ITの動向を的確に把握して,それとBPRに結び付けることが求められる.CIOにはITの知識・スキルが重要だと認識されるようになった.それに対して日本では,IT部門の保守的な言動を非難するばかりであり,CIOの変革にはつながらなかった.
 さらに,インターネットの急速な普及は,IT革命といわれ,ITの活用が企業の浮沈にすら影響するようになった.最近はユビキタス社会やWeb2.0といわれるようになり,ITと経営の関係はますます密接なものになってきた.経営戦略とIT戦略を一体のものとしてマネジメントできるCIOが求められるようになったのである.

3.2 現実のCIO

このような変化にさいして,日本でもCIOの役割が重視されるようになったが,それでも前述のように,兼任CIO,素人CIOが多く残っている状況である.
 その原因として,IT部門の社内地位が低いことがあげられる(後述).未だにCIOは「IT部門担当役員」だと認識されている.社内地位が低い部門を担当するのだから,役員担当の検討での優先順位は低い.企画部門や営業部門など主要業務の担当を決定した後で,パワーバランスの観点,あるいは担当部門の人数の観点などから,役員の知識経験などを考慮せずにCIOを兼任させることすらある.
 また,CIOに任命された役員は,ITの知識・経験がないし,CIOの任務を理解していないため,自分がよく理解しており重要だと思っている部門に傾注することになるし,ITに関する知識を得ることに関心がない.それで「IT部門はIT用語ばかり使う」ことをいいわけにして,IT投資の費用対効果,ITの戦略的活用,IT部門の戦略的運営についても素人のままでいるのである.

4.  IT部門の位置づけ

ITガバナンスを確立する最高責任者はCIOであるが,その直接のスタッフはIT部門である.IT部門の地位が向上しなければ,CIOは重視されないし,ITガバナンスが実現しない.

4.1 地位が低いIT部門

IT部門には,「利用部門の業務を理解せよ」「IT用語を使うな」という.利用部門には「IT部門の業務を理解せよ」「IT部門が理解できるようにニーズを説明せよ」とはいわない.IT投資の効果が得られないのは,システム化を要求し,その成果をあげる責任をもつ利用部門のはずなのに,とかくIT部門が非難されることが多い.
 経営者や新任IT部長は,「私はITの素人で〜」と平気で言う.財務諸表が読めない経理部長,自社製品の特性を知らない技術部長や営業部長がいるだろうか? すなわち,上位者にとってITの知識は不要だとみなされている.不要な知識を重視する部門の社内的地位が高いとは思えない.

4.2 IT部門の地位の変化

コンピュータ導入当時では,IT部門は業務改革の先兵であった.当時は,業務支援が目的であり,しかも,大量データの事務処理が対象だったので,IT部門は自信をもって提案できるし,実現できたのである.

ところが,戦略的な効果を目的としたIT活用には自信がない.そのため,積極的な提案,推進ができなくなった.実際には,IT部門だけでなく,経営者も利用部門も自信がないのであるが,マスコミなどにより,IT部門がバッシングされたのである.これは,必要以上にIT部門を委縮させた.
本来はSISにより,IT部門が重視されるはずであったのに,経営からの視点があまりにも強調され,「SEあがりをIT部長にするな」というようなIT技術軽視の風潮を招き,社内的地位が低下したのである.  さらに,IT部門の地位低下を促したのが,グループウェアやインターネットの普及である.電子メールや電子掲示板などがIT活用の中心になり,コンピュータがコミュニケータとなったため,IT部門の支援が必須ではなくなり、IT部門の存在価値が相対的に減少した.さらなるインパクトは,ERPパッケージである.「自社のシステムに関しては自分たちが最も理解している」というIT部門の最後のアイデンティティすら失った.

4.3 不当なIT部門への批判と期待

IT部門への批判として「提案をしない」「費用対効果が示せない」などがあげられる.しかし,本来は,経営や業務をどう改革するか,どのような情報があればどのような利益が得られるのか(その情報を得るのに,どれだけ費用をかけられるのか)を考えるのは(ビジネスモデルとビジネスプロセスモデルを考えるのは),経営者であり利用部門のはずである.
 極論ではあるが,そもそもIT部門を戦略部門にしようという発想自体が,経営者がITを軽視してきた証拠である.ITが経営に重要なのであれば,経営陣がIT知識スキルをもっているはずであり,CIOに適した人材が存在するはずである.ところが,経営陣にIT部門出身者が一人もいないことは珍しいことではない.これは,営業部門や経理部門出身者がいない経営陣が想像できないことを考えれば異常である.経営陣でなくてもゼネラルスタッフである企画部にIT人材が豊富であれば,あえて,屋上屋を重ねて,IT部門を経営部門にする必要はないはずである.

すなわち,経営者すらわからないことについて,IT部門にそれができないといって批判されてきたのである.IT部門の地位を向上させるには,この当然なことを経営者が認めることが必要なのである.

5.  IT部門の位置づけに関する私案

IT部門を戦略部門として活用することは必要なことである.しかしそのためには,CIOが適切なマネジメントができることが前提であるし,経営者のITに関する認識を高める必要がある.ここでは,その対策の一つとして,やや消極的な手段であるが,IT部門を人材育成部門として位置付けることを提案する.

5.1 人材育成部門としてのIT部門

長期的な計画として,経営者や企画部に,ITがわかる人材を提供することを目的に,IT部門を人材育成部門として位置付けたらどうかという提案である.ところが残念なことに,IT部門から直接に役員になるルートは確立していない.経営者はIT部門にはあまりこないが,営業本部や本社経理部などの業務統括部門とは頻繁に接触している.そのような部門に人材を提供することになる.
 これは迂遠な手段である.しかし,CIOの重要性がいわれるようになってから20年も経過したのに,前述のような現状なのである.私事であるが,筆者が以前に所属していた企業では,意識的に優秀なIT部員を他部門に提供してきた.それらの転出者が現在では経営の中枢になっている.そのため,経営者のITに関する認識は,比較的高い状況にあるようである.

5.2 求められる人材像

IT部門の人材育成としてUISS(Users' Information Systems Skill Standards)が策定されているが,IT部門内でのキャリアパスが主になっている.ここでは,部外への転出を前提とした人材像を対象にする.IT部門は,他部門が必要とする知識・スキルを習得するのに適した部門である.

IT部門には,情報システムを通して多くの情報が集まっている.また,それらの情報を加工分析する能力がある.さらに,(巷でいわれるのと逆に)他部門と接触する機会が多く,他部門の課題を知りやすい立場にある.それで,問題提起や課題解決のための情報を作成し提供することができる.このような目的にはデータウェアハウスがあり,利用部門が直接利用すべきであるが,IT部門が率先して利用したり利用部門と共同作業したりすることにより,その効果も増大するし,IT部員の育成にも役立つ.
 現在のシステム化の対象は,ある課題を解決しようとすれば,他の部分に影響を及ぼすし,それを回避しようとすれば新しい問題が発生するというように複雑になっている.それを解決するには,全体をシステムとして把握できるシステム思考が重要になる.

また,対象範囲が広がり関係者が多様になっている.利害対立だけでなく価値観の違いもある.プロジェクトを成功させるには,それらの違いを違いとして認識し,その違いを1+1=3とするように活用する能力が求められる.また,リスクも多様化している.IT部門は,日常的な業務を通して,プロジェクトマネジメント,リスクマネジメントの能力を育成するのに適した部門なのである.

このように,IT部員として求められる知識・スキルは,他部門にとっても求められるものである.そして,IT部門での経験は,前述したCIOとしての3つの知識・能力−IT投資の費用対効果,ITの戦略的活用,IT部門の運営−の基礎になるものである.

5.3 IT部門の改革

このような人材育成ができるようにIT部門を運営することが必要なのである.そのためには,IT部門に余裕がなければならない.DP業務で硬直化させないために,システム開発の外注化やアウトソーシングが必要である.また,IT部門を空洞化させないために,ある程度のIT資源が必要であるし,システム開発プロジェクトの内製化も必要である.それにもまして,よき指導者の存在が求められる.その指導者こそ,CIOとして適切な人材なのだともいえよう.

6.  おわりに

以上,経営者の認識が低いことを指摘してきたが,IT部門が変貌しなければならないのは当然であるし,ITガバナンス確立のために,CIO個人が知識・スキルを得るために努力することも当然である.しかし,それらについては多く語られているので,あえて,経営者について言及したのである.

もう一つの重要なIT当事者に利用部門がある.ITの効果は業務を通して得られるものであり,実際に情報システムは利用部門の要求により構築されることが多いのであるから,本来は,ITの効果的活用に関しては,利用部門がIT部門以上に関心と責任をもつべきである.
 ところが,利用部門が目先の利便だけで部分最適な要求をしたり,業務改革のための戦略的な活用に無関心であったりする.利用部門にとっては「提案するIT部門より,すぐやるIT部門」のほうが好ましいのである.これでは,ITガバナンスは確立しない.本稿では,紙面の都合により割愛したが,CIOについて論じるには,経営者,IT部門,利用部門の関係を考察する必要があることを指摘したい.

参考文献

[1] CIO Council『Clinger-Cohen Core Competencies Learning Objectives』,2006年
[2] 経済産業省『CIO育成のためのコアコンピタンスと学習項目の調査研究』,2004年
[3] The Standish Group 『The CHAOS Report』,1994年
[4] 「特集 プロジェクトの成功率は26.7%」,『日経コンピュータ』(2003年11月17日号),pp.52-56
[5] アクセンチュア『IT生産性に関するグローバル調査』,2006年
[6] 経済産業省『IT経営の現状と課題』,2007年
[7] 経済産業省『情報処理実態調査』(平成17年版) 表3-3-2
[8] Charles Wiseman著,土屋守章,辻 新六訳『戦略的情報システム』,ダイヤモンド社,1989年