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AIの歴史(1)人工知能、ニューロコンピュータ

2020年代になると、生成AI、対話型生成AIが急速に普及した。これ以降はAIの歴史(2)に回す。


基本的な概念・用語

人工知能(AI:artificial intelligence)とは、人間の脳の特徴である学習・推論・判断などの機能を、人工的に実現しようとする研究分野である。
 脳には多数のニューロン(神経細胞)が存在し、ニューロン同士の結合間に電気信号が送られることで、情報が伝達されたり、記憶が定着したりする。ニューロンの結合部をシナプスという。

人工知能研究には二つのアプローチがある。その一つは、脳を模倣することである。それをコンピュータに実装するにはニューロコンピュータが適している。ここでは主にこのアプローチを対象にする。
 他の一つは、脳のメカニズムではなく、実務面において脳の働きとされる業務をコンピュータにやらせようというアプローチである。後述のエキスパートシステムはこれに近い。これには、従来のノイマン型コンピュータで実現できることが多い。

以下、人工知能に関する基本的な概念や用語を列挙する。

ニューロンモデル

入力側のニューロンから、シナプスを介して樹状突起へ信号が入力される。入力ニューロンが興奮性ニューロンからの信号なら電位が上がり、抑制性からの信号なら電位が下がる。電位が閾値より高くなるとニューロンが興奮して、軸索を伝わって他のニューロンに信号を伝える(下左図)
 このようにして、多くのニューロンへ信号が伝播する。

  
出典:村上・泉田研究室「生体ニューロンについて」(2017) http://ipr20.cs.ehime-u.ac.jp/column/neural/chapter2.html

1943年に、マッカロックとピッツは、この仕組みを、モデル化した(上右図)。これを「形式ニューロン」という。「パーセプトロン」は、この概念を発展させたものである。
  入力=w1x1 + w2x2 + … + wnxn
  出力=f(入力-θ)

階層型ニューラルネットワーク

複数のニューロン間の情報伝播を単純化したものが階層型ニューラルネットワークあるいは多層パーセプトロンという。
 入力層のニューロンでは信号処理を行わず、受け取った入力信号をそのまま中間層のニューロンへ伝えるとする。中間層と出力層は上式により入力→出力の処理をして、出力信号を他のニューロンへ伝える。ここでは、中間層を一層としたが、多層にすることができる。人間の脳はもっと複雑なメカニズムになっているが、5層~10層程度で近似できるといわれている。


出典:村上・泉田研究室「生体ニューロンについて」(2017) http://ipr20.cs.ehime-u.ac.jp/column/neural/chapter2.html

バックプロパゲーション(誤差逆伝播法)

入力層に多様な信号を与えて出力層からの信号を得たとき、それが正しいか誤りであるかを人間が教える(実際には、正解を付けた入力データを与える)。中間層での重みを変更することにより、正しい結果を得る確率を大にすることができる。その代表的な方法にバックプロパゲーション(誤差逆伝播法)がある。

学習(機械学習)

この「入力-出力ー判定」を多数回繰り返すことにより、次第に正しい結果を得る確率が高くなる。その確率が高くなれば、新しい質問(入力)に対して正しい答え(出力)を出すようになる。このプロセスを学習という。
 このような「人間が教える」学習を「教師あり学習」という。それに対して、コンピュータに多数の画像を見せて、コンピュータが似たもの集めをするような学習は、人間の関与を必要としない(人間もわからない)。このように推論、分析など、正解がない、正解が解らない問題で学習することをを「教師なし学習」という。

ディープラーニング

ディープラーニングとは、多層(ディープ)ニューラルネットワークによる機械学習手法。2000年中頃に提唱され、人工知能は急速に発展した
 オートエンコーダとは、機械学習において、ニューラルネットワークを使用した次元圧縮のためのアルゴリズム。ディープビリーフネットワークとは、多層ニューラルネットワークで良い初期解を得る方法である。これらにより、4層以上のニューラルネットワークにおいて、単純なバックプロパゲーションよりも、効果的な学習ができるようになる。

従来の機械学習は、教師あり学習、教師なし学習に分けることが多い。それに対してディープラーニングでは、例えば画像のデータを与えた場合、コンピュータは与えられた画像のデータの一部を消して、「消えた部分を残った部分から推測せよい」という問題に変更して自分自身に質問する。これにより、画像を1つ与えるだけで、多数のの擬似的問題を作ることができる。

エキスパートシステム

人工知能の研究分野では、頭脳のメカニズムを模倣する分野以外に、実務として頭脳が行うことをコンピュータで実現させようという分野がある。エキスパートシステムは後者の一つで、専門家が持っている知識をコンピュータに記録して、素人でも専門家に準じた知識を得られるようにしようというシステムである。

このような機能であるから、特別な方式のコンピュータではなく、ノイマン型の高速コンピュータで実現できる。言語はLispやPrologが用いられた。
 1980年代に実務者の間にも、技術継承や設備運転マニュアルなどの用途で関心が広まった。しかし、知識ベースの獲得や整理に専門的な技術が要求されることから、限られた分野以外にはあまり普及しなかった。

ニューロコンピュータ

ニューロコンピュータとは、ニューロンやシナプスの構造や情報処理メカニズムを基礎とし、脳の持つ情報処理能力を人工的に実現させることを目的としたコンピュータであり、多層ニューラルネットを持ち, バックプロパゲーションによる学習の仕組みを実装したコンピュータである。
 エキスパートシステムなどの実装はノイマン型コンピュータで可能である。「ニューラルネットワーク などもプログラムや学習システムの構造を意味する概念であり、ハードウェアとしての回路などを示すものではなく、ノイマン型コンピュータでソフトウェアによりシミュレートすることはできる。ニューロコンピュータとは、それを構成する回路が脳を模倣したものであり、根本的にノイマン型コンピュータとは異なる。


人工知能とニューロコンピュータの歴史

人工知能の発展に関して、説により期間に関しては若干の違いはあるが、これまでに3回のブーム(発展期)があった。
  第一次:1950年代後半~1960年代 記号論理、自然言語処理
  第二次:1980年代          エキスパートシステム
  第三次:2000年代~2020年代初頭 ディープラーニング
  第四次?:2020年代初頭~現在    生成AI、対話型生成AI

ニューロコンピュータは、1990年頃までは、人工知能理論実証のために実験的なハードウェアが試作されたことはあるが、実務用途にはならなかった。1990年代には、産業用ロボットなどの機器の制御に小規模なニューロ的なチップが組み込まれるようになったが、この分野では時期を特定するのは難しい。実務的なニューロコンピュータが注目されるようになったのは2010年代に入ってからだといえよう。

~1950年代後半 人工知能前史

人工知能研究の基礎となる研究は1940年代に始まった。

1950年代後半~1960年代 第一次人工知能ブーム

自然言語処理、ニューラルネットワークなど人工知能分野での成果が続いた。しかし、この時代は明示的な記号論理を基盤にしたものが多かった。

1970年代 冬の時代

人工知能への関心は広まったものの、期待したほどの成果は得られなかった。当初は自然言語翻訳(日本語⇔英語など)への関心が高かったが、すぐに限界が見えてしまった。
理論を実現するには、当時のコンピュータの能力が低かったし、学習するためのデータが未整備だった。そのような環境により、画期的な方法論も出現しなかった。

1980年代 第二次人工知能ブーム

エキスパートシステムの普及、画像・音声認識の基礎確立、バックプロパゲーション技術の発展など、ディープラーニングの基礎技術が生まれた。

1990年代~2000年代前半 冬の時代

人工知能の周辺技術や一般大衆への認知は急速に発展した。しかし、人工知能の理論やニューロコンピュータへの実装などの分野では、大きな進歩は見られなかった。

2000年代後半~2020年代初頭 第三次人工知能ブーム

ディープラーニングの基礎的な研究は、1980年代に行われていた。それが2000年代後半になると、さらに研究が進み、人工知能分野は急激な発展の時代に入った。また、ハードウエア技術の進歩により、2010年代になると、ニューロコンピュータがブレインコンピュータ(脳模倣型コンピュータ)といわれるまでになった。
 この期間を通して「AI」の認知度が高まり、2020年頃には、一般用語になるまでになった。

2020代初頭~現在 (生成AIと社会)

人間の指示により、AIシステムが文章、画像、音声、動画を生成する生成AIが出現した。さらに2022年からは、chatGPT, Copilot など、対話型生成AIに発展した。
 生成AIにより、一般の人が無料で簡単に文書や画像を作成することができる。これは、多様な分野でITの活用を劇的に向上させた。反面、ディープフェイクなど反社会的な利用が流布し、社会的に深刻な問題になってきた。
AIの歴史(2)につづく。


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