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工事進行基準


2007年の企業会計基準改正に伴う税法改正により、2009年4月から、ソフトウェア開発も工事進行基準が適用されました。これは単にベンダ企業の財務報告作成での変更だけでなく、ベンダ企業の管理体制の見直しやユーザ企業との契約にまで、大きな影響を与えています。

工事完成基準と工事進行基準

ベンダ企業の会計において、ソフトウェア開発を受注して売上を計上するには、工事完成基準と工事進行基準の二つの基準があります。

工事完成基準とは、ソフトウェア開発が完了してユーザが検収をしたときに売上を計上します。この基準では費用や収入がすべて明確になった時点で計上するのですから、会計上の客観性や確実性が高くなります。
 しかし、開発が長期にわたる場合、決算期中に発生した費用は計上されるのに売上は計上されないので、開発途中での決算では損失が続き、開発完了後の決算で大きな利益が生じることになり、不安定になります。また、ソフトウェア開発が失敗して大きな赤字が出ることが予想されても、完了するまでは公表されないという問題も発生します。

工事進行基準とは、各決算時において、それまでにかかった費用と売上を、その都度計上する考え方です。これにより、工事完成基準の欠点を防ぐことができます。しかし、後述のように、この基準を適用するには、ソフトウェア開発にかかる契約やプロジェクト管理を抜本的に変更する必要があります。

日本では、建設業では工事進行基準がある程度普及していましたが、ソフトウェア業ではほとんど工事完成基準が用いられてきました。ところが海外では、一般的に工事進行基準が採用されています。グローバル化の観点から、会計基準の変更が逐次行われてきましたが、工事進行基準の適用拡大はその一環としてとらえることができます。

工事進行基準の適用

工事進行基準を適用するには、次の3条件が満たされている必要があります。

工事収益総額
ソフトウェア開発着手前に、売上総額が明確になっていること。
工事原価総額
ソフトウェア開発着手前に、費用総額を信頼性をもって見積もることができ、開発中に発生した費用を信頼性をもって把握できること。
工事進捗度
ある時点(決算時点)で、開発の進捗度合を信頼性をもって把握できること。

これまでは工事進行基準の適用は建設業が主な対象だったのですが、税法改正により、ソフトウェア開発も対象になりました。2009年4月から適用されています。
 1年以上の工期、請負金額10億円以上のソフトウェア開発では、工事進行基準で収益が計上できる場合(前述の3条件が満たされている場合)は、工事進行基準を適用しなければならない(強制適用)とされています。なお、10億円未満のソフトウェア開発でも、損失が生ずると見込まれるものについては適用することができます(任意適用)。
 強制適用といっても原則適用ですので、工事完成基準を選ぶことができますが、上場企業では、どの基準を適用したかは会計監査の対象になりますので、監査人への説明が必要になります。しかも、工事進行基準を適用しないことは、上記の3条件を満たすマネジメント能力がないと、ユーザ企業に評価されることになります。

工事進行基準の影響

工事収益総額と工事原価総額を明確にすることは比較的容易ですが、重要なのは工事進捗度の把握です。実際には50%しか達成していないのに70%達成したとしたら、虚偽の財務報告をしたことになります。 進捗度を算出するのに最も単純なのは「原価比例法」です。収益総額(契約金額)が70億円で原価総額が50億円だとしたとき、ある時点までに30億円の費用がかかったならば、30/50=60%の進捗度なので、70×60%=42億円の収益を計上するという方法です。
 しかし、これは原価総額が不変であることが前提です。プロジェクトの進行中に多様なリスクが発生するため、その費用総額は変化しまので、客観的な進捗度とするには艱難があります。
 また、「顧客からの証明を得る」ことも考えられます。実際に42億円の支払いが得られたのなら問題はないのですが、そうではないときには、進捗度について同意を得ることが困難ですし、監査人の納得を得ることも困難です。

工事進行基準を適用するには、ベンダの総合的なマネジメント能力が求められます。
 社内では、開発要員の作業管理と費用管理の統合をするために、開発部門、調達部門、経理部門、品質管理部門などの体制の見直しやそれらを統合した情報システムが必要になります。
 大規模なソフトウェア開発では、多数の要員が従事しますし、専門企業や下請企業の活用が必要になります。それらの進捗情報を迅速に正確に把握できる体制にする必要があります。

契約の方法や内容の見直しも重要です。
 進捗度を明確にするためには、ソフトウェア開発の契約を一括契約にするのではなく、要件定義までのプロセス、開発のプロセス、運用のプロセスというように個別プロセスに分割して契約することが必要になります。そして、個々のプロセスをさらに詳細な作業に分割して、作業成果の確認方法の合意を得ておく必要があります。さらに、仕様変更や環境変化などが発生したとき、どのように対応するかを明確にしておく必要があります。
 すなわち、工事進行基準は、ベンダ企業だけでなく、ユーザ企業にも大きな影響を与えるのです。

工事進行基準の意義

工事進行基準は、工事完成基準に比較して、事務作業が煩雑になり、業務の見直しも必要になります。しかし、工事進行基準への移行は多くの利点があります。また、このような利点が実現できるように、環境を整備することが大切です。