Web教材一覧法規・基準

労働基準法


労働基準法の目的

労働者は使用者に弱い立場になりがちで、不利な契約になったり不当な扱いを受けたりすることがあります。労働基準法は、労働者を保護するための法律で、労働者の賃金や労働時間、休暇等の主な労働条件について、最低限の基準を定めたものです。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO049.html

労働基準法は強行法規です。この基準に満たない就業規則や労働契約は、その部分が無効となりますし、使用者が労働基準法を守らないと罰金刑や懲役刑に処せられることもあります。

労働基準法が制定された1947年には、労働組合法、労働関係調整法と共に、労働3法といわれていましたが、労働環境の変化に応じて、逐次改正作業が行われてきました。  特定の分野に関しては、最低賃金法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法など多様な法律が派生して制定されたり、時間外労働時間の規制強化、変形労働時間制の規制緩和、裁量労働制度の認可など労働基準法の基準も改正されてきました。
 このように、労働基準法は毎年改正されるといってよいほど、頻繁に改正されています。

労働基準法の主な内容

労働基準法では、多くの条文が多様な例外規定があります。ここではそれらを除いた原則だけを示します。また、平易な表現をしたり例示を加えたりしています。そのため厳密性に欠けています。

関連用語

労働契約・就業規則・労働協約の関係など

労働契約は口約束でも有効だが、就業規則と労働協約は文書にして、労働者に周知する必要があります。
効力の優先順位は、労働基準法>労働協約>就業規則>労働契約という順。これは、下位のものが不当な労働条件を押し付けられるのを防ぐためであり、下位のほうが労働者にとって不利な事項は上位の決まりが優先し、下位のほうが有利な事項は下位の決まりが優先します。

法定労働時間、所定労働時間など

労働基準法では、1日8時間、1週40時間以内としています。これを法定労働時間といいます。それに対して、「三六協定」をして就業規則で定めることにより、法定労働時間を超えた労働時間を設定することができます。それを所定労働時間といいます。平たく言えば、「会社ごとに決めた残業をしないときの労働時間」のことです。
 所定労働時間は、一定の期間を平均すれば、法定労働時間を超えてはなりません。

実際に労働者が労働に従事した時間を実労働時間といいます。実労働時間が所定労働時間を超えた場合、その超過時間時間外労働時間といいます。いわゆる残業時間のことです。
 時間外労働時間には、労働基準法が定める割増の賃金を支払う必要があります。また、時間外労働時間には法律で上限が定められており、それを超えて労働させると労働基準法違反で罰せられます。

多様な労働時間制

変形労働時間制(第33条の2~5)

変形労働時間制とは、一定期間内の平均週労働時間が40時間を越えないことを条件としてその変形(1日10時間,1週52時間を上限)を認める制度です。
 たとえば、単位期間を4週間とした場合、多忙な月末の週を45時間と設定しても、他の週の労働時間を短くして4週間で平均40時間以下にできればよいのです。このとき、法定労働時間(40時間)と所定労働時間(45時間)の差(5時間)は時間外割増をする必要はありません。
 実労働時間が45時間を超えて例えば48時間になった場合は、4週間平均が40時間以内であっても実労働期間と所定労働時間の差(3時間)は、時間外割増をしなければなりません。
 同様に、金曜日の所定労働時間を10時間にして、火曜日を6時間にすれば、週法定労働時間は40時間になります。このとき火曜日に8時間労働すると、2時間が時間外労働になります。また、金曜日の10時間のうち深夜にかかるときは、その部分は深夜割増の対象になります。

変形労働時間制は、曜日、月末、季節により業務に繁閑のある企業では、繁閑に応じて所定労働時間を変化させることにより、労働時間の短縮、残業手当の削減などの効果があります。
 しかし、直前になってこの制度を適用するのは、労働者にとって不都合です。そのため、この制度の適用に関しては、労働組合等との協定が必要ですし、ある程度の長期的な取り決めが求められます。

フレックスタイム制(第32条の2)

始業・終業時刻は、就業規則などにより固定されているのが通常ですが、労働者が各自の始業・終業時刻を原則として自由に決められる制度です。使用者は労使協定を締結して、就業規則に定めることにより、フレックスタイム制を採用できます。
 単に時間を1時間ずらして、1日8時間とすることもできるし、ある日は9時間次の日は7時間というように一種の貸借にすることもできます。そのため、フレックスタイム制では、1日8時間・1週40時間の制約は解除され、労働協定による1か月以内の清算期間単位(4週間、1か月など)での労働時間が法定労働時間内であればよいことになります。
 コアタイム制を採用した場合でも、労働時間、休憩、休日などの規定は適用されます。深夜割増も適用されます。

フレックスタイム制を採用することにより、労働者は通勤のピーク時を避けたり家庭生活を円滑にできたりする効果があります。反面、あまりにも自由にすると、会議開催や出張命令に影響がありますから、必ず就業するコアタイムを設定する必要があります。また、あえて夜間に就業するのでは、オフィス管理に影響しますし深夜割増にもなります。それでフレックスタイムに適当な制約をしたフレキシブルタイムにする必要があります。コアタイムやフレキシブルタイムも始業・終業時刻の設定と同様な手続きが必要です。

みなし労働時間制

みなし労働時間制は、「事業所外労働」と「裁量労働」の2つに区分されます。このうち、裁量労働時間制は後述し、ここでは事業所外労働を主な対象にします。

「みなし」とは、「正確にはわからないので、このように決めよう」ということです。みなし労働時間とは、何時から何時まで働いたかわからないときに、あるルールに基づいて実労働時間とすることです。
 みなし労働の対象は、次の2つが成立する場合です。

みなし労働時間は、次のように算出されます。

残業がつく場合、使用者が一方的にみなし時間を設定したのでは労働者は不利になります。それで、労働協定を行うことが必要になります。

裁量労働制度(第38条の2~4)

みなし労働時間制の1つの形態です。労働基準法第38条の3と4で定められています。
厚生労働省の定めた特定の専門業務や企画業務に限定して適用され,労働時間は,実際の労働時間に関係なく,労使間であらかじめ取り決めた労働時間とみなすという制度です。

すなわち、実際の労働時間とは無関係に賃金が決まることになります。業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるので、労働時間を基礎にした賃金は不適切だといえます。

導入に際しては、労使双方の合意(専門業務型では労使協定の締結、企画業務型では労使委員会の決議)と事業場所轄の労働基準監督署長への届出が必要です。

主な職種として、研究者、弁護士、記者、デザイナーなどが対象になりますが、情報システム関連では、次の職種があります。
 ・情報処理システムの分析又は設計の業務
 ・システムコンサルタントの業務
 ・ゲーム用ソフトウェアの創作業務

「みなし残業」について

固定残業制度ともいいます。例えば就業規則の賃金や労働時間のなかに「月20時間の残業を含む」というような記述がある場合、残業が20時間に達しなくても、20時間の残業があったとみなされて賃金が得られますが、逆に20時間を超えた場合、20時間までの残業には残業代が支給されません。残業の中に深夜や休日があっても割増賃金は支給されません。

みなし残業時間制度により、 労働者は、残業時間が少なくても、一定の残業代が受け取れるメリットがありますし、会社にとっては、決められた一定時間内で残業が済めば、 面倒な残業代の計算をしなくて済むメリットがあります。しかし、労働基準法の精神とは一致しないし、みなし残業代を支払っていることを理由に、20時間を超えた残業に対しても残業代を支給しないケースがあり「サービス残業」になりやすいことが問題になっています。
 労働基準法には、みなし残業時間制度に関する規定はありません。労働基準法は、労働環境を守る最低限の法律で、労働基準法に定められた内容をみたしているかぎり就業規則に決めることができます。
 すなわち、みなし残業時間制度は法律違反ではないが、好ましくない制度だといえます。