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SOX法/金融商品取引法に影響した財務報告虚偽事件

米国での事件

エンロン事件(2001年)

エンロンは,エネルギーとITをビジネスとする企業である。電気通信,パイプライン,発電,水道等の公共事業を民間移行する規制緩和に応じて進出し,公共事業の非効率性を打破したとして高い評価を受けていた。また,金融技術を駆使した経営によって急成長を遂げた。その結果,2001年の「フォーチュン500」で全米第7位にランクされるまでになった。
 エンロンのレイ会長は経済学博士でエリート経営者であった。社外役員には高い見識や業績を持つ著名な大学教授を招聘したり,世界5大会計事務所であったアーサー・アンダーセンが会計監査をしているなど,情報公開と順法性でも高い評価を受けていた。経営成績も良好であるとされ,財務報告書への信頼は厚かった。それで,年金基金管理組織や年金生活者からの投資が多かった。
 格付け機関やアナリストも,エンロンが超一流の優良企業だと評価していた。それで,エンロンの株価は1998年から2001年まで急上昇を続けたのである。

ところが実際には,実質の取引がないのに売上計上したり,取引損失を連結決算対象外の子会社に付け替えて簿外損失とするなど,巨額の不正経理・不正取引が行われていた。時価主義会計を利用して見かけ上の利益を水増ししていたのである。
 2001年7-9月期の決算で10億ドルの特別損失を計上したことから,簿外取引が明るみに出て株価が暴落した。
 ところが,経営陣は事前に所有株を売り抜けて損害を免れた。しかも,アーサー・アンダーセンならびに顧問法律事務所も,そのような粉飾決算やインサイダー取引を見過ごしていたいたどころか,不正の隠蔽に積極的な荷担をしていたのである。さらには司法長官や大統領補佐官などが同社から多大な報酬を得ていることまで発覚し,社会問題や政治問題に発展した。

このようなことが明るみになり,エンロンは2001年12月に破綻に追い込まれ,アーサー・アンダーセンも2002年に解散を余儀なくされた。

ワールドコム事件(2002年)

ワールドコムは大手通信会社である。高株価を利用して活発な企業買収を行い,資産総額は連結ベースで1,070億ドル(約12兆億円)にのぼり,AT&Tに次ぐ全米第二位の長距離通信会社にまで成長した。
 ところが,同社も粉飾決算を行っており,2001年から2002年1-3月期までに38.5億ドルもの利益を水増ししていたのである。それが明らかになり,2002年に倒産した。

日本での事件

カネボウ事件(2004年)

カネボウは1889年創業,精紡から化粧品,薬品など多角化により成長してきた,日本を代表する大企業であった。
 ところが,経営不振に陥ったことから,経営者は実態を公表すれば経営責任を問われるのを避けるために,粉飾を断ち切ることができなかったばかりか,自ら主導して長期にわたって多大な粉飾決算を続けてきた。
 そして,2004年にそれが発覚した。財政困難に陥り,産業再生機構による支援を受けることになった。2005年には上場廃止になった。このようなことから,主要な部門の売却をして,本体は投資ファンドの傘下で再出発することになった。
 同社を担当していた監査法人は4大監査法人の一つである中央青山監査法人であったが,公認会計士が粉飾決算に加担していたことが発覚した。それにより,業務停止処分を受け顧客の多くを失うことになった。そして,規模縮小して新しく「みすず監査法人」となった。

ライブドア事件(2006年)

ライブドアは,ベンチャー企業が積極的な企業買収により急速な発展をしたIT企業である。堀江社長は,放送会社やプロ野球球団の買収を仕掛けたり,衆議院選挙に出馬するなど,派手なパフォーマンスにより,新しい若手経営者としての人気を博していた。

同社では,株価を高くして,それを利用して企業買収をし,それにより株式数を増加するという,株価総額増大路線の経営戦略を駆使していた。本業のITビジネスよりもマネーゲームに走ってしまったのである。
 それで,株価を上げるために,実際には大きな利益が出ているように見せかけた風説流布,架空売上,自己株式売却益の売上計上などの不正を行ってきた。それが発覚することにより,上場廃止になり,株価は極度に低下し,多くの事業から撤退することになった。
 また,この事件に関連して,監査法人や投資事業組合(投資ファンド)の関与も問題になっている。


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