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国際会計基準(IFRS)


IFRS(International Financial Reporting Standard)とは、会計基準の国際標準です。日本における現行の会計基準(企業会計原則)は、国際会計基準と異なっている部分があり、これまでにも部分的な修正を重ねてきました。それを抜本的に共通にしようという動きがあります。
 金融庁は、国際的な財務・事業活動を行っている上場企業の連結財務諸表を主な対象に、2009年度(2010年3月期)に任意適用を開始し、2012年頃に強制適用とするかどうかを判断し、早ければ2015年から適用するロードマップを示しています。
 この適用は、企業の財務報告に大きな影響を与えます。ITの分野では、会計システムの大幅な改訂が必要となります。

厳密には、IFRS(International Financial Reporting Standard)は「国際財務報告基準」のことで、それを取り巻くいくつかの基準を合わせたものをIFRSsといいます。そして「国際会計基準」とは、IFRSsの前身であるIAS(Intrenational Accounting Standards)のことです。しかし、一般的にIFRSsを「国際会計基準」と訳しており、しかも金融庁の文書を含めていることが多いのです。ここでの「国際会計基準」もそのように用いています。

IFRS対応の必要性

株主などの関係者(ステークホルダー)に、企業の財務状況を正しく報告することが求められます。企業の財政状況は財務諸表により公開されます。そして、財務諸表の作成の基本になるのが会計基準です。
 海外市場に上場している企業は多いし、国内市場でも外国人投資家が多数います。このような状況において、国により会計基準が異なるのでは困ります。
 その観点から、国際標準が必要だとされ定められたのがIFRSです。

EUにおいては、2005年から、EUの域内上場企業に対してIFRSの適用を義務づけるとともに、域外上場企業に対しても、2009年1月からIFRS又はこれと同等の基準の適用を義務づけています。そして、100カ国を超える国が、適用するようになりました。
 先進国で残ったのは日本と米国でしたが、米国も、2010年からIFRSの任意適用を容認し、強制適用の是非について2011年までに決定することを表明しました。このままでは、日本だけが孤立してしまいます。

海外の公認会計士や投資アドバイザに、財務報告の数値に「これは日本特殊の算出方法による」というようなコメントをつけられることになり、投資家の信用が低下したり、資金調達が不利になるなど、国際的な資本取引で不利な立場になってしまいます。そのため、IFRSの適用を早急に検討することが求められるのです。

後述のように、IFRSに対応するためには、情報システムの全面的な見直しが求められます。その規模は、J-SOX法への対応よりも大きくなるともいわれます。しかし、グローバル化している、しようとしている企業は、それを回避することはできません。

現行の会計基準とIFRSの違い

現行の国内基準は「規則主義」、IFRSは「原則主義」
規則主義(細則主義ともいう)とは、財務諸表を作成する方法を財務諸表規則や連結財務諸表規則などの規則により細かく定めている方式です。この方式に従えば、会社間の解釈が異なることも防げます。しかし反面、「規則に形式的に従うだけでばよい」となり、「規則の穴を探して虚偽を行う」ということにすら発展しまます。
 それに対して原則主義は、判断するときの原理原則だけを示すだけで、細部については企業や公認会計士の判断に任せる方式です。雑なように見えますが、基本事項が明確になる、当事者の責任を重視する、各国の環境による違いを吸収できるなど、グローバルな基準としては、むしろこのほうが適切であるといえます。
主な相違点の例示
  • 「のれん」の扱いが異なります。IFRSでは、合併に際して発生したのれんとその減損損失計上が求められているのに、日本の現行会計基準では、求められていません。そのため、現行の基準で当期純利益が黒字であるのに、IFRSを適用すると赤字になるという違いが生じます。
  • 「売上」の認識が異なります。現行基準では売り手が出荷した時点で売上を計上するのに対して、IFRSでは買い手が確認した時点になります。個々の取引で買い手の確認を得ることは困難ですので、現実には「出荷後○日とする」などの対応をするのでしょうが、全取引に同じ日数にするのは不適切でしょう。
  • 固定資産の評価方法が異なります。現行基準では定められた耐用年数による償却計算を一律に適用していましたが、IFRSでは実際の耐用年数を適用すること、資産価値の再評価によることなどが定められています。
  • 企業会計原則では「総額主義の原則」により、費用の項目と収益の項目を直接に相殺してはならないとしていますが、IFRSでは、簡潔明瞭な表示のため、為替差損益や固定資産の売却損益の相殺を原則としています。
  • 日本の損益計算は、「所得=業績」として認識されていますが、IFRSでは、期首の純資産と期末の純資産の増減(すなわち非株主持分の変動)を包括利益として認識しています。それに関連して、企業会計原則では「経常利益」が重要な値になっていますが、IFRSでは、経常損益や特別損益の概念がありません。
  • 連結決算の対象となる子会社・関係会社の範囲が異なります。現行基準では資本構成や役員構成などによる一定範囲だけが連結対象だったのですが、IFRSでは原則としてすべての子会社・関係会社が対象になります。当然、主要なものに限定されますが、対象が増加することになります。
  • 現行の連結する情報は財務情報に限られていました。そのため、決算時期に財務情報だけをまとめて連結すればよかったのですが、IFRSでは、そのベースとなる管理情報(この内容が不明確ですが)までも連結できることを要求しています。そうなると、常時連結先の情報を得ることが必要になります。極端にいえば、連結する会社が同一システムを用いるようなことになります。

国内会計基準のIFRSへの移行

これまでも、国内会計基準を世界の大勢に合致させるために、差異を段階的に縮めていくことをコンバージェンスといいます。これまで、金融取引法や工事進行基準など逐次コンバージェンスを進めてきました。しかし、これでは半永久的にコンバージェンスの繰り返しが続きますし、基本が異なるのですから、差異は残ります。

いっそのこと、従来の基準を廃止して、IFRSをそのまま自国基準として採用(適用)することが考えられます。それをアドプションといいます。このほうがわかりやすいのですが、会計基準は財務計算の基礎であり、商法や税法などが財務計算を基礎としています。それらを一挙に改正するのは、あまりにも影響が大きすぎます。

金融庁は、「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」を公表し、国際会計基準移行のロードマップ案を示しました。

  1. 2010年3月期(年度)から、国際的な財務・事業活動を行っている上場企業の連結財務諸表に、任意適用を認める。
  2. 2012年を目途に、将来的な強制適用の是非判断を行う。対象は、上場企業の連結財務諸表が適当。
  3. 判断時期から少なくとも3年の準備期間が必要と考えられる(2012年に判断の場合、2015年又は2016年に適用開始。)
    全上場企業に一斉に適用するか、段階的に適用するかは、改めて検討・決定する。

「上場企業の連結財務諸表」に限定したのは、国際的な株式取引や海外事業所に関して求められるのは連結財務諸表であり、商法や税法では主に単独財務諸表を対象にしているからです。「任意適用を認める」とは、商法や税法が国内基準を基礎としているので、それから逸脱する方式を採用することは不適切であり、信頼のおける条件を満たした場合のみ認めることにするからです。
 連結決算をIFRSにするには、個別決算においても連結しやすいようにIFRS準拠にしておく必要があります。そのため、個別財務計算では、国内基準用とIFRS用の二重帳簿が必要になります。あるいは、IFRS用の一本にしておき、財務諸表作成段階で国内基準に手直しするほうが容易かもしれません。