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デジタル・ガバメント実行計画


デジタル・ガバメント(Digital Government)とは、官民協働を軸として、デジタル技術を活用しながら行政サービスの見直しをおこない、行政の在り方そのものを変革することです。

2016年に「官民データ活用推進基本法」が成立し、データ流通環境の整備や行政手続のオンライン利用の原則化など、官民データの活用に資する各種施策の推進が政府の取組として義務付けられました。
 2017年には、それを受けて、国の中長期IT戦略が「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」に移行されました。ここでの重点分野の一つである電子行政分野における取組が「デジタル・ガバメント実行計画」に反映するのですが、閣議決定されるまで、次の方針・計画が策定されました。

デジタル・ガバメント推進方針(2017年)官民データ活用推進戦略会議決定

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20170530/suisinhosin.pdf

「官民データ活用推進基本法」(2016年)、「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(2017年)を受けて、IT総合戦略本部の「官民データ活用推進戦略会議」が、国民や事業者が行政サービスの生みだす価値を享受できるよう、サービスのあり方に焦点を当て、デジタル社会に向けた電子行政の目指す方向性を示したものです。

従来の行政サービスが手続きのオンライン化の段階であったのに対して、利用者価値の最大化という観点から行政サービスを再設計することを基軸としつつ、サービス提供の基盤となるプラットフォーム、下支えとなるガバナンスまで、電子行政に関する全てのレイヤーを変革していくこと、すなわちデジタル・ガバメントへの移行が必要であるとしました。 また、経済成長を実現するために、事業者にとって「グローバルレベルで最も活動しやすい」社会であることが求められている。このためには、行政が事業者のボトルネックではなく、経済活動を加速するプラットフォームとして機能することが必要だとして官民の連携を重視しています。

この「方針」の別紙でデジタルファースト・アクションプラン(規制制度改革との連携による行政手続・民間取引IT化に向けたアクションプラン)を提唱し、次の3原則を示しています。

デジタル・ガバメント実行計画(2018年)eガバメント閣僚会議決定

https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/densei_jikkoukeikaku.pdf

2013年の「政府CIO法」により、政府CIO(内閣情報通信政策監)が設置され、単なるIT化ではなく、業務改革(BPR)を前提とした取り組みをすることになりました。eガバメント閣僚会議(後に「デジタル・ガバメント閣僚会議」よ改称)は、政府CIOと各省閣僚による電子政府改革の会議組織です。

eガバメント閣僚会議は、デジタル・ガバメント推進方針を受けて、利用者にとっての価値や便益を創出することを念頭に置いた取組が進め、「デジタル・ガバメント実行計画」としてまとめました。すなわち、各省庁のトップにより合意された実行計画だといえます。

ここでは、BPRを基盤とした利用者中心の行政サービスを提供し、プロジェクトを成功に導くために必要となるノウハウを、「サービス設計12箇条」として示しました。デジタルファースト・アクションプランの推進原則だともいえます。
<サービス設計12箇条>
  第1条 利用者のニーズから出発する
  第2条 事実を詳細に把握する
  第3条 エンドツーエンドで考える
  第4条 全ての関係者に気を配る
  第5条 サービスはシンプルにする
  第6条 デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める
  第7条 利用者の日常体験に溶け込む
  第8条 自分で作りすぎない
  第9条 オープンにサービスを作る
  第10条 何度も繰り返す
  第11条 一遍にやらず、一貫してやる
  第12条 システムではなくサービスを作る

デジタル・ガバメント実行計画(2019年)閣議決定

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20191220/siryou.pdf

上記の2つの方針・計画を基に、その後の環境変化も取り入れたものです。閣議決定によりIT総合戦略本部の正式な戦略となりました。世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(2017年)の重点分野の一つであるデジタル・ガバメント分野を深化したものだといえます。

以降は、これを中心とした記述になります。


IT総合戦略本部「デジタル・ガバメント実行計画の概要」2019年

1 はじめに
2 利用者中心の行政サービス改革
「サービス設計12箇条」に基づくサービスデザイン思考の導入・展開、業務改革(BPR)の徹底
3 デジタル・ガバメントの実現のための基盤の整備
デジタルインフラの整備と利用、情報システムの共用の推進
行政機関におけるクラウドサービス利用の徹底
  クラウド・バイ・デフォルト原則、クラウドサービスの安全性評価
情報セキュリティ対策・個人情報保護等
行政データ連携の推進、行政保有データの100%オープン化
行政手続等の棚卸しの継続・改善
4 価値を生み出すガバナンス
政府CIOによるガバナンスの強化、各府省ガバナンスの強化、PMO、PJMOによるプロジェクト管理
標準ガイドライン群の充実・拡充・定着
5 行政手続のデジタル化
情報システムの整備、業務改革(BPR)の実施
6 ワンストップサービスの推進
子育て、介護、引越し、死亡・相続、社会保険・税手続
7 行政サービス連携の推進
サービスデザイン思考の導入、法人デジタルプラットフォームの整備
マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進
  各種カード、手帳等との一体化等の推進。健康保険証利用、マイナポータルのAPI提供
8 業務におけるデジタル技術の活用
ペーパーレス化、オフィス改革、テレワークの推進、Web会議
AI・RPA等の活用、 電子的な公文書管理等
9 デジタルデバイド対策
10 広報等及び国際展開
11 地方公共団体におけるデジタル・ガバメントの推進
オンライン化の推進、共同利用の推進、自治体クラウドの推進、業務プロセス・情報システムの標準化の推進
セキュリティ対策、オープンデータの推進、AI・RPA等による業務効率化の推進
ガバナンス強化と人材確保・育成、官民データ活用推進計画策定の推進
12 民間手続オンライン化の推進のフォローアップ
13 フォローアップと見直し

本計画の趣旨

あるべき社会
  ・必要なサービスが、時間と場所を問わず、最適な形で受けられる社会
  ・官民を問わず、データやサービスが有機的に連携し、新たなイノベーションを創発する社会
Digitalization
 これまでの行政のデジタル化においては、紙で行っていた行政手続をオンラインでできるようにするだけなど、従来のやり方をデジタルに置き換えるだけの、いわゆる「Digitization(デジタイゼーション)」に過ぎないものが多くあった。単に過去の延長線上で今の行政をデジタル化するのではなく、デジタル技術の活用に対する考え方を改め、デジタルを前提とした次の時代の新たな社会基盤を構築するという「Digitalization(デジタライゼーション)」の観点から取り組むことが必要である。

BPRの重視

BPR(Business Process Reengineering)とは、Business Process(業務の仕方)をReengineering(再設計)すること。「(顧客満足の達成のために)、コスト、品質、サービス、スピードのような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜本的にデザインし直すこと」です。
 1990年代前半に、経営環境が激変する時代に競争優位を確保するには、現状を肯定した改善ではなく、現状を打破する革新が求められるという経営戦略技法として普及しました。その実現には、ITの活用が必要であり、ITを経営の観点から運営すること、すなわちITガバナンスが必要だとされ、それを担うCIO(最高情報管理者)の職制が重視されました。

近年、国の文書では、ITをもっと広くとらえてデジタルと表現することが多いようで、デジタルガバナンスとは広義のITガバナンスと捉えてよいでしょう。