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米国のITバブルとその崩壊


長期にわたって成長してきた米国経済が,2000年のITバブルの崩壊により,かなりの打撃を受けています。その事情を,事業と株式の関係などから簡単に解説します。

株と株価

事業を行なうには資金が必要です。その資金を獲得するのは株を発行するのが,最も一般的な方法です。株価が額面より高ければ,その差額だけ企業は資金がタダで入手できるのですから,企業として株価が高いことが望まれます。株を買う側からすれば,株を所有することにより配当を得ることと,株価が安いときに購入して高くなったときに売却することにより差額の利益を得ることなどが目的です。

株の配当率は,企業が株で得た資金を効果的に活用して,利益を生むことによって実現します。それで,税引後の利益を株数で割った1株あたりの利益高や,株価を1株当たりの税引後利益で割ったPER(株価収益率)が投資の指標としてよく用いられます。PERが低いほうが有利な株である(株価が安い)ことになりますが,通常は40~50位だといわれています。

株の購入・売却益を得るには,短期的には多様な要因による株価の動きを観察して売買しますが,長期的には,その企業の将来性が基準になります。

企業の規模の尺度として年商(1年間の総売上高)がよく用いられています。また,企業の経営権は株の所有割合で決まるのですから,株価×株発行数(=時価総額という)がその企業の価値であると考えられます。時価総額÷年商をPSR(株価売上高比率)といいますが,これも株価の指標としてよく用いられます。そして「企業の価値とは1年間の総売上高である」(すなわちPSR=1)程度が常識的だといわれています。

ドットコム企業の特徴

インターネットの急速な普及により,多くのベンチャ・ビジネスが出現しました。そのような企業をドットコム企業といいます。その大部分は成長する以前に消滅しますが,それに生き残った企業は,Yahooやアマゾン・コムなどのように急激に成長します。

ドットコム企業では,人気のあるサイトにはアクセスが集中しますので,多大な設備投資が必要です。また,他のサイトと差別化するためによりよいサービスや値引きをする必要がありますので,取引1件あたりの利益幅が少なくなります。そのサービスがあたるとさらにアクセスが集中するというように,次から次へと投資が必要になります。それができない企業はアクセスが減少するので倒産に追い込まれます。

赤字であれば過大な投資はできないはずなのですが,株価が非常に高いときには,増資をしたり自社株を放出することにより,巨額の資金が入手できますので,投資をしても資金繰りに困らないのです。逆に,一般にドットコム企業は工場や店舗あるいは製品などの実資産が少ないので,株価が低下すると資金繰りが急速に困難になる傾向があります。

このように,急速に成長しているドットコムであっても,たしかに売上高は伸びていますが,収支は赤字ですから配当はありませんしPERもマイナスになってしまいます。しかも負債総額が増加しており近い将来に黒字になるとは思えないとケースも多いのです。

バブルとその崩壊

ところが1997年頃から奇妙な現象が発生したのです。このようなドットコムの株価が急速に上がったのです。IT革命だとかデジタル・エコノミーなどが盛んにいわれたことも一因ですが,株価の上昇による売買益を得るために,多くの人がドットコムに集中したのです。

折から米国経済は驚異的な長期間の好況期にあり,株は魅力のある投資でした。しかも,一般の人がインターネットで株を売買するデー・トレードがブームになりました。最も成長のすばらしいドットコムが対象になったのは無理もありません。

ところがそれが行き過ぎてしまいました。PSRの値がアマゾン・コムでは30,Yahooでは100にまで達したのです。当然誰もがこの現象がバブルであることは認識していました。しかし,株価が毎日上昇をしている現実をみると,そのバブルが続いている間に利益を求めようとするのも当然です。

バブルであっても現実に適切な値とあまり差異がないときは,そのレベルは比較的安定していますが,それが非常識な差異になりますと,ちょっとしたきっかけではじけてしまいます。それが2000年3月に発生しました。日本経済の不況が続くと発表されたのが引金だとか中東問題が原因だとかいわれますが,実はどんな理由でもきっかけになったと思われます。いずれにせよ,その後のドットコムの株価は急速に下落しました。

日本の前例との比較

日本でも同様なは経験があります。1990年までは土地価格は絶対に下がらないという神話もあり,土地を頻繁に売買して価格をつりあげる土地ブームが起こり,一般のサラリーマンには一生土地付きの家は持てないという社会問題になりました。それへの国の対策が効を奏したことと湾岸戦争による警戒観によりバブルが崩壊しました。土地が売れなくなり価格が下がると,土地を担保にしていた銀行が不良貸付を抱えるようになり,土地を担保に借りていた企業が担保の追加を要求されるなどの問題が発生しました。それに輪をかけて銀行の自己資本比率を高める国際基準への対処や銀行経営の不祥事などが起こり,日本経済は長期的な不況に入りました。

それと同じように,ドットコムの株価低下とともに,いままで活発であった情報化投資もスローダウンするようになりました。そうなるとIT産業全体が影響を受けますし,IT化がいままでの米国産業を支えていたのですから,米国産業全体の好況に影がさしてきたとも考えられます。

ナスダックというドットコム企業を対象にした証券取引所があり,そこでの株価の代表値をナスダック総合指数といいますが,2000年3月をピークにして,その後急速に低下しており,その動きが1990年前後の日本の株価の動きと非常に似ているので,それからも米国経済があぶないという意見もあります。

また,米国経済はこの10年間で大きく成長したし,ITの分野で世界の他国にたいしてかなりの優越した基盤を持っているので,短期的には問題があっても長い泥沼には落ち込まないし,むしろこれで健全なIT化が進むであろうという意見もあります。

IT革命と経済

IT投資により米国経済が活性化し,ドットコムへのバブルが米国経済の低下を招いていることから,ITが経済に大きな影響を与えていることがわかります。また,米国経済のいかんに関わらず,これからもITはますます発展するでしょう。程度の差こそあれIT革命は進むと考えられます。

また,アジア諸国は他地域よりもITへの取り組みに熱心です。従来からも21世紀はアジアの時代だという意見がありましたが,IT革命をうまく成し遂げることにより,それが現実となる可能性が高まってきたといえましょう。


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