情報倫理、倫理と法律、倫理とセキュリティ
社会の行動を律するものに法律があります。しかし,法律に従っていただけでは,円滑な社会にはなりません。マナーやエチケットなどが,社会通念として共有されることが必要です。また,倫理と似た用語に道徳があります。道徳には,「社会の掟」など,不文律に強制的に従わせる面があります。それに対して,倫理とは基本的に本人の合意にもとづくものだといわれています。
すなわち,倫理とは他人から強制されるものではなく,個人が社会の一員として,自発的に自らに課す行動規範だということができます。しかし,自発的に行うにしても,どのようなことが重要なのか,一般的にどのようなことを倫理としているのかを理解しなければ,適切な行動はとれません。そのため,倫理教育が求められるのです。
情報倫理とは,ITを利用するときの行動規範です。ITが社会に広く深く関係していること,通常の日常行動とは異なる環境が多いことから,ITに特有な倫理が求められます。反社会的情報の流布や著作権を侵害しないなど,情報化社会において他人に迷惑をかけないためのモラルです。これは,加害者にならないための基本的なルールだといえます。
一方,情報セキュリティ対策とは,ウイルスや不正アクセスなどの人間による悪意の脅威,あるいは,自然災害や機器の誤動作などの脅威から,個人情報などの重要な情報,ハードウェアやソフトウェアなどを守ることです。これは,被害者にならないための手段だといえます。情報倫理とくらべて対象がやや狭いといえます。
情報化社会において,自分が気づかないうちに他人に迷惑をかけない(加害者にならない)ことを情報倫理,自分の身を守る(被害者にならない)ことを情報セキュリティ対策だと解釈することもできます。
このように,情報倫理と情報セキュリティ対策とは異なる概念なのですが,両者の違いにこだわるのは現実的ではありません。どちらにも解釈できるものもあります。
例えば,インターネットによる詐欺や中傷などから身を守ることは,他人の情報倫理が欠落していることに起因するととらえれば,情報倫理の問題になりますし,そのような情報を排除する手段に着目すれば,情報セキュリティ対策だということもできます。また、ウイルスや不正アクセスなどの脅威から防衛するのは情報セキュリティですが、それを行うのは、第三者にウイルスを伝染させないため、第三者攻撃の踏み台にならないための最低限の倫理でもあります。