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最適仕入の問題

学習のポイント

最適仕入の問題は新聞売り子の問題ともいわれます。需要が確率で与えられているときに,売れ残りの損失や品切れの損失を最小にするには,どれだけ仕入れればよいかという問題です。それらの損失と需要の累積確率の関係から簡単な公式が得られます。

キーワード

期待値,売残損失,品切損失,機会損失


問題の理解

あるパン屋の1日の需要は,これまでの実績により次の統計ができています。

   需要 確率   需要 確率   需要 確率   需要 確率
   30個 2%  35  4   40  6   45  6
   31  2   36  4   41  8   46  6
   32  2   37  4   42  8   47  4
   33  2   38  6   43 10   48  4
   34  4   39  6   44  8   49  2
                           50  2

このパン屋は,60円で仕入れて100円で売っています。売れれば1個あたり40円の利益がありますが,その日のうちに売れないと廃棄しますので60円の損失になります。

もし,40個仕入れたのに,需要が35個(<40)のときは,5個が仕入過剰による売れ残りが発生して廃棄処分することになります。また,需要が45個(>40)のときは,仕入不足による品切れが発生して,販売して得られるはずの利益が得られないことになります。すなわち,売れ残りを心配して少なく仕入れるとお客を逃がすことになるし,それを心配して多く仕入れると,こんどは売れ残りが多くなってしまいます。

では,利益を最大にするには,何個仕入れればよいかというのが問題です。このような問題を,最適仕入問題とか新聞売り子の問題といいます。

期待値による計算

例えば仕入数量を40個としたときを考えてみましょう。仕入金額は,仕入数量(40個)×仕入単価(60円)=2400円になります。

もし,需要が35個であれば販売数量は35個で,売れ残った5個は捨てることになります。売上金額は,販売数量(35個)×販売単価(100円)=3500円になります。
 もし,需要が45個であっても,仕入数量が40個なのですから,5個は品切れのために売れず,販売数量は40個です。売上金額は40×100=4000円になります。
 このようにして,需要が30~50個のときの売上金額が計算できます。

需要が35個である確率は0.04,45個である確率は0.06のように,各需要が発生する確率が与えられていますので,30~50個のときの売上金額にそれぞれの確率を乗じたののの合計が,仕入数量を40個としたときの売上金額の期待値になります。それを計算すると3842円になります。
 それで,このときの利益の期待値は,売上金額期待値(3842円)-仕入金額(2400円)=1442円になります。

  仕入数量=40のとき
   需要 確率   販売数量 売上金額
   30 0.02  30   60
   31 0.02  31   62
   :   :    :    :
   39 0.06  39  234
   40 0.06  40  240
   41 0.08  40  320
   :   :    :    :
   49 0.02  40   80
   50 0.02  40   80
               -------
     売上金額期待値   3842
     仕入金額 40×60  2400
     利益期待値     1442

仕入個数を変化させてこのような計算をすると下表が得られます。これより,最適仕入数量は40個となります。

   仕入数量 仕入金額 売上金額期待値 利益期待値
    35  2100   3468   1368
    37  2220   3632   1412
    39  2340   3778   1438
    40  2400   3842   1442 ←最大
    41  2460   3900   1440
    43  2580   3992   1412
    45  2700   4048   1348

機会損失による計算

仕入過剰ならば売れ残り損失が発生しますし,仕入不足だと品切れ損失が発生します。このように,うまくすれば得られたはずの利益が得られない損失を機会損失といいますが,ここでは機会損失を最小にするという視点から解いてみます。

需要を知っているときの利益の期待値

ここで「うまくやる」とは,仕入数量が需要と一致するように仕入れたときだといえます。そのときの利益の期待値を求めておきましょう。
 仕入単価が60円で販売単価が100円ですから,1個売れれば100-60=40円の利益になります。もし,その日の需要が40個だとわかっていれば,40個を仕入れればよいのですから,40×40=1600円の利益があります。それが起こる確率は0.06ですので,期待値は1600×0.06=96円となります。
 同様に各需要における期待値を計算すると下表になり,利益の期待値は1636.8円になります。

   需要個数  確率    利益   利益×確率
    30  0.02  1200   24.0
    31  0.02  1240   24.8
    :    :     :     :
    39  0.06  1560   93.6
    40  0.06  1600   96.0
    41  0.08  1640  131.2
    :    :     :     :
    49  0.02  1960   39.2
    50  0.02  2000   40.0
                  --------------
            利益の期待値 1636.8

需要を知らないときの利益の期待値

ところが現実には需要を知ることができないので,適当に仕入数量を決定します。たとえば仕入数量を40個にしたとしましょう。
 40個を仕入れたのに需要が35個だったときは5個が売れ残ってしまいます。60円で仕入れたものを廃棄するのですから1個あたり60円の損失です。それで損失は5×60=300円になります。
 また,45個の需要があったとすれば5個が品切れのために売りそこないます。1個あたり100-60=40円の損失ですから,その金額は5×40=200円となります。
 仕入数量を40個としたとき,各需要について売れ残り損失と品切れ損失を求めると次のようになります。すなわち,売れ残りによる損失は94.4円,品切れによる損失は100円であり,その合計である機会損失計は194.4円になります。

   需要 確率   売残個数 その損失  期待値    品切個数 その損失  期待値
   30 0.02  10   600  12.0
   31 0.02   9   540  10.8
   :   :     :    :    :
   39 0.06   1    60   3.6
   40 0.06   0                 0
   41 0.08                     1    40   3.2
   :   :                       :    :    :
   49 0.02                     9   360   7.2
   50 0.02                    10   400   8.0
                      -------              --------
           売れ残り損失の期待値 94.4    品切れ損失の期待値 100.0

最適仕入数量

仕入個数をいろいろと変化させたときの機会損失は次のようになり,これからも最適仕入個数が40個であることがわかります。

   仕入数量  売残損失  品切損失 機会損失計
    35   19.2 249.6 268.8
    37   40.8 184.0 224.8
    39   73.2 125.6 198.8
    40   94.8 100.0 194.8 ←最小
    41  120.0  76.8 196.8
    43  184.8  40.0 224.8
    45  271.2  17.6 288.8

ここで,次の2つのことに注目してください。

どの仕入数量の場合でも,「利益期待値+機会損失計=1636.8」が成立しています。この1636.8は,「うまくやったとき」すなわち事前に当日の需要を知っていたときの利益の期待値です。

機会損失が最小になるのは,「売残損失=品切損失」になるときです。

確率分布による解法

機会損失最小などと持って回った方法を述べたのは,これを理解していれば,上のような面倒な計算をしなくても,確率分布から簡単に最適仕入数量が求められるからなのです。

公式

数学的な証明は省略しますが,「売残損失=品切損失」の関係から,最適仕入数量を基準にするとハカリのように両者のバランスがとれますので,次の関係が成立します。

      それより左にある需要確率の面積×1個あたりの売残損失
     =それより右にある需要確率の面積×1個あたりの品切損失

上の式をA×B=C×Dと記号をつけます。需要確率の総和は1ですからC=1-Aの関係がありますので,A=D/(D+B)となります。またA(それより左にある需要確率の面積)は,需要の0~最適仕入数量の累積確率です。BとDを元の名称に戻すと,次の式になります。

                     1個あたりの品切損失
      需要の累積確率 = --------------------------------------------
                1個あたりの品切損失+1個あたりの売残損失

この式にこれまでの問題の数値を当てはめると,1個あたりの品切損失=40円,1個あたりの売残損失=60円ですから,需要の累積確率は40/(40+60)=0.4となります。累積確率のグラフを参照すれば,累積確率0.4に相当する数量は40個になります。すなわち40個が最適仕入数量になります。

累積確率による解法の例題と検証

「累積確率による解法」で正しい結果が得られることを,例題により検証します。

売れ残りの処分

もし売れ残ったら50円で引き取ってもらえるとしたら,1個あたりの売残損失は10円になるので,
   累積確率=40/(40+10)=0.8
すなわち最適仕入数量は45個になります。これを「期待値による計算」で検証します。

 仕入数量が45のとき,
   需要  確率   販売数量 販売金額 引取数量 引取金額  収入合計  期待値
   30 0.02   30  3000  15   150  3150   75
   31 0.02   31  3100  14   140  3240   76
   :   :     :    :     :    :    :      :
   44 0.08   44  4400   1    10  4410  356
   45 0.06   45  4500   0     0  4500  270
   46 0.06   45  4500   0     0  4500  270
   :   :     :    :     :    :    :      :
   50 0.02   45  4500   0     0  4500   90
                                収入期待値=4274
   仕入数量を変化させて同様の計算をすると,
   仕入数量  仕入金額 販売金額 引取金額 収入合計 利益金額
    40   2400 3842   79 3921 1521
    44   2640 4024  188 4212 1572
    45   2700 4048  226 4274 1574 ←最大
    46   2760 4066  267 4333 1573
となり,最適仕入数量は45個になります。

品切時の緊急仕入

品切になったら緊急に80円で必要数が仕入れることができるのであれば,1個あたりの品切損失は20円になるので,
   累積確率=20/(20+60)=0.25
から最適仕入数量は38個になります。これを「機会損失による計算」で検証します。

 仕入数量が38のとき,
   需要 確率   売残個数 その損失  期待値    品切個数 その損失  期待値
   30 0.02   8   480  9.6
   31 0.02   7   420  8.4
   :   :     :    :    :
   37 0.04   1    60  2.4
   38 0.06   0                 0
   39 0.06                     1    20  1.2
   :   :                       :    :    :
   49 0.02                    11   220  4.4
   50 0.02                    12   240  4.8
                     -------              --------
           売れ残り損失の期待値 55.2    品切れ損失の期待値 76.8
 仕入数量を変化させて同様の計算をすると,
   仕入数量  売残損失  品切損失 機会損失計
    35   19.2 124.8 144.0
    37   40.8  92.0 132.8
    38   55.2  76.8 132.0 ←最小
    39   73.2  62.8 136.0
    40   94.8  50.0 144.8
となり,最適仕入数量は38個になります。

実務適用での留意点

この最適仕入問題を実務に適用するには,次の事項に留意する必要があります。

品切れの把握
お客は商品が陳列していなければ,あえて問い合わせもせずに帰るか他の商品を購入します。そのために売れ残りの実績は把握できますが,品切れの把握は一般的に困難です。それを把握するには,厳密な方法ではありませんが,その商品を売り切った時刻を記録して,それから閉店までの時間でに売れるであろう数量を推測する必要があります。
品切損失の把握
品切損失を単純に「販売単価-仕入単価」とすると,これまでの例からも感じられるように,最適仕入数量ははかなり低くなります。現実にこのようなことをしたら,「あの店はいつも品切れになっている」「商品の品揃えが不十分だ」となって,ますますお客が来なくなるでしょう。品切損失には信用低下の損失などを加味することが必要です。

理解度チェック

第1問

  1. あるパン屋の1日の需要実績は次のとおりである。

       需要 確率   需要 確率   需要 確率   需要 確率
       30個 2%  35  4   40  6   45  6
       31  2   36  4   41  8   46  6
       32  2   37  4   42  8   47  4
       33  2   38  6   43 10   48  4
       34  4   39  6   44  8   49  2
    仕入単価を70円,販売単価を100円とし、品切時には90円での緊急仕入ができ,売れ残ったものは60円で処分できるとしたとき,最適仕入数量を求めよ。また,そのときの収入・支出と機会損失を求めよ。

    1個あたりの品切損失は,緊急仕入単価(90円)-仕入単価(70円)=20円,売残損失は仕入単価(70円)-処分単価(60円)=10円になります。

    累積確率=20/(20+10)=0.67ですので,最適仕入数量は43個になります。

      通常売上高=3992.0円 通常仕入費用=3010円
      処分売上高= 184.8  緊急仕入費用=  90
      収入合計 =4176.8  仕入合計  =3100   利益  =1076.8円
      売残損失= 30.8円   品切損失  =  20円  機会損失= 50.8円