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キーワード

ワークシェアリング、ワークライフバランス、社内公募制度、フリーエージェント制度(FA制度)、カフェテリアプラン、モバイルコンピューティング、テレワーク、自宅勤務、サテライトオフィス、SOHO、RPA、シンギュラリティ


労働環境の課題

このように、長時間労働なのに正規労働者は増加しない、人が足りないのに正社員になれない、非正規社員で賃金など労働条件が劣悪である、この状況では安心して子を生めず少子化が進む・・・という構造的矛盾が顕著になっています。

ワークシェアリング

このような矛盾への対策として、ワークシェアリングがあります。
 ワークシェアリングとは、仕事(ワーク)を共有(シェアリング)しようということです。仕事配分の見直しをして、これまで1人でやってきた仕事を複数人で行うことにより、雇用機会が増加しますし、従業員1人当たりの勤務時間が短縮できます。さらに勤務時間短縮ができれば、ワークライフバランスの実現にもつながります。
 しかし、適切な対策がないと人件費増大や過剰人員の固定化になることもあり、なかなか普及していない現状です。

ワークライフバランス

ワークライフバランスとは、仕事(ワーク)と生活(ライフ)の調和(バランス)のことです。
 内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では「仕事と生活の調和を実現する目的で多様かつ柔軟な働き方を目指す考え方」としています。
 長時間労働により、家族と過ごす時間がない、自分の趣味やリフレッシュができずストレスがたまるというような不満は以前からありましたが、上述のような矛盾を解決するためにも、ワークライフバランスを重視するようになりました。


就業制度の見直し

ワークライフバランスの一つとして、「仕事が楽しい」「自分がやりたい仕事をしたい」ことも重要です。また企業側も従業員のやる気を引き出すことで効果があります。
 それに応えるために、次のような制度を導入する企業が増加しています。

業務の選択

人事権は会社がもつことを前提にした上で、社員の希望を取り入れようという制度です。ワークシェアリングやワークライフバランスのような行政等による推進政策はありませんが、採用する会社が増大しています。

社内公募制度
社内公募制度とは、会社が必要としている職種や職務の要件を社員に公開し、応募者の中から必要な人材を登用する仕組みです。新規事業やプロジェクトの立ち上げなどに際して、広く人材を求めるときに活用されますが、日常的に公募している会社もあります。
フリーエージェント制度(FA制度)
社員がキャリアやスキルを登録して、部門からのスカウトを受ける仕組みです。一定のキャリアやスキルをもつ社員、高い業績をあげた社員にFA権が与えられます。

福利厚生施策の選択

福利厚生施策の一つで、勤務時間とは無関係ですが、ここに掲げておきます。

カフェテリアプラン
選択型福利厚生制度ともいいます。以前から勤続年数や資格取得などに対して現金や記念品を支給する制度がありました。カフェテリアプランでは、その代わりにポイントを与えます。ポイントを得た従業員は、その範囲内で各人が希望する福利厚生制度が選択できる制度です。
その福利厚生は、必ずしも企業のもつサービスではなく、社外サービスも利用できます。また、カフェテリアプランを対象にしたサービス提供企業も出現してきました。

ICT発展と労働

古典的なIT活用

単純労働からの解放
コンピュータ出現の当初から、オフィス業務での日常的な事務作業はシステム化されました。生産現場では定例的な作業はオートメーションやロボットが利用されています。人間は、単純作業から解放され、創造性の高い業務、人とのつながりを重視する業務にシフトすべきだとされました。
創造的業務での支援
コンピュータ技術の進歩や利用技術の発展により、データウエアハウスのような問題発見や解決手段検討などの支援、可DやCADにような生産技術での支援など、ITを人間の創造的業務の支援に利用するようになりました。

インターネットによる就業形態の変化

インターネットなど通信技術の発展により、オフィス外にいてもオフィス内と同様な環境で業務を行えるようになりました。次のようなタイプがあります。

モバイルコンピューティング

顧客先でオフィスにある資料にアクセスしてプレゼンテーションをしたり、在庫確認をしたりできます。受注処理をその場で行い書類を提出できます。移動中に商談報告書を上司に送ることもできます。

このような手段により、オフィスに出かけずに、自宅から直接に顧客先へ行き顧客先から直接に帰宅する直行直帰ができるようになりました、通勤に要する時間や身体的苦痛を削減できます。

SOHO(Small Office Home Office)

雇用者のテレワーク(雇用型テレワーク)と異なり、個人あるいは少人数の企業が、自宅あるいは小規模事務所に情報通信設備を置くことにより業務を行う形態(自営型テレワーク)です。
 特定の場所で作業する必要がなく、比較的単独で作業でき、モノの移動が少ない業種では、以前から自宅オフィスを構える事業者がありましたが、インターネットの発展により、このような形態が容易になりました。

SOHOグループ

近年は、SOHO事業者がグループになって事業を行う形態が出現してきました。
 中心となるSOHOが経営者になり、参加者が社員としてテレワークを行うケースもありますが、一般にはルーズな組織です。専業主婦がそれぞれの特技を生かして参加し、グループ全体でWebサイトを構築して営業する形態もあります。

テレワーク

社員が自宅などで業務を行う形態です。
 実際には、ほとんどの就業日にテレワークを実施するテレワーカーは稀であり、多くの場合は、通常はオフィスにおり必要に応じてテレワークを行う随時テレワーカーです。国の統計では、1週間あたり8時間以上テレワークを行っている人を狭義のテレワーカー、テレワークができる環境にある人を広義のテレワーカーとしています。一般に、この狭義のテレワーカーをテレワーカーといいます。

テレワークの形態

自宅勤務
自宅のパソコンからオフィスのコンピュータにアクセスし、仕事を行う形態です。
サテライトオフィス
自分が所属している部門があるオフィスではなく、近辺の事業所に行って仕事を行う形態です。複数の企業が共同して事務室を設置することもあります。また、事務室を貸し出すレンタルオフィスサービスもあります。

テレワークのメリット

コロナ禍とテレワーク、ニューノーマル社会

2020年から新型コロナウイルスの爆発的流行は、多くの分野に深刻な影響を及ぼしました。ここでは、それに伴うテレワークの増加を取り上げます。

コロナ以前でもテレワークは着実に増加していましたが、2020年4月7日に7都府県、4月16日には全国を対象に、緊急事態宣言を発令、全国で解除されたのは5月25日です。緊急事態宣言では、人と人との接触機会を減らすために、人の流れを平常時の70%減にする必要があるとし、企業にはテレワークを説教区的に実施することを要請しました。その要請に多くの企業が応えました。
 宣言解除とともに、テレワーク実施率は低下しました。また、解除後にリバウンドが発生するたびに、第2次・第3次の緊急事態宣言を出し、テレワークを呼びかけたのですが、実施率は第1次のときほどにはなりませんでした。

コロナとの長期戦の間に、withコロナやpostコロナなど、このような状況は今後も続いたり再発するので、以前のような状態には戻らない、ニューノーマルな社会になるだという考え方が普及してきました。
 以前からの働きかた改革の動向もあり、ビジネスの方法も変えなければならないといわれるようになりました。その一つが、テレワークを前提とした組織運営です。

厚生労働省、経団連、連合など政労使はこぞって、ニューノーマル社会への移行を必然的なものであり、テレワークが働き方の重要な選択肢の一つであること、その健全な推進には、労使が労働条件の改善を含む共通の問題として理解し、合意に立脚した協力体制が必要であること、国は(特に中小企業に)適切な支援をするべきだとしています。

テレワークへの認識変化

コロナ以前とコロナ以後でテレワークに関する必要性の認識や取組みが大きく変化しました。
コロナ以前
 (建前)
  ワークライフバランスの実現
  人口減少時代における労働力の人口の確保
  地域の活性化などへの寄与
 (現実)
  ワークバランスの観点から在宅勤務、出社・退社の時間、満員電車からの回避
  主に育児・介護事情のある社員を対象
  災害時事業継続計画の一環としての対策
 →必要な人だけを対象とした一時的な措置であり、企業戦略の重点ではない
コロナ以後(宣言以後)
  70%出社減→原則テレワーク(そこまで踏み切る企業は少ないが)
  会合オンライン化による合理化(客先訪問から電話やメールが一般化)
  組織分散による東京集中の回避(オフィス費用の削減)
 →「建前」と組み合わせたコーポレートガバナンスへ

テレワーク活用の格差

テレワークができない業務があるのは当然ですが、以前からテレワークに積極的だった企業は、いち早く緊急事態宣言に対応しただけでなく、ニューノーマル社会への対応としてテレワーク化を進めています。それに対して、関心が低かった企業や中小企業では、テレワークの効果が不十分であり、第1次では試行してみたものの、すぐに従来の状況に戻ってしまう傾向が見られました。

テレワークの経験が乏しい企業では、テレワークの効果を得るには、多様な阻害要因があります。

テレワークに積極的な企業では、このような阻害要因はかなり解決されています。むしろ、ニューノーマル社会の対応をビジネス機会と捉えることができます。

ITによる失業問題

AIの発展が、生産性向上や創造性向上に役立つことは確かです。これが労働環境の課題解決に役立つと期待されています。反面、ITの発展が極度になり、これまで人間に適した業務だとされてきや業務までもITに移行して、大量の失業職種・失業者が発生するという懸念があります。

RPA(Robotic Process Automation)

「ロボットによる業務自動化」ですが、生産現場でのロボット化ではありません。ホワイトカラーの業務の自動化を実現することです。
 単純な事務処理のコンピュータかは以前から実現してきました。RPAでも、ある程度の手順が決まっている定型作業が得意な分野ですが、柔軟性と適応力は高く、状況に応じてカスタマイズできるため、幅広い業務に導入できる可能性があります。
 また、個人の業務をパソコン上で稼働するデスクトップ型RPAから、部門業務を対象にサーバ上で稼働するサーバ型RPA、クライド型RPAなど多様なレベルでのツールが普及してきました。
 実際に、これまで「人間にしかできない」とされてきた多くのホワイトカラー業務がRPA化されています。

シンギュラリティ

シンギュラリティ(singularity)とは「特異点」のことですが、AIが人類の知能を超える転換点およびそれによる社会変化を指します。その特異点は2045年頃で、労働人口の約半数がAIやロボットで代替可能になり大量の失業者が発生するという研究があり、これをシンギュラリティとか2045年問題といっています。