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インターネットによる産業秩序の再編成

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成功は失敗のもと、銀行店舗の減少、系列の解消


ビジネスでは「成功は失敗のもと」「成功は負の遺産」といわれます。従来の経営環境で成功し成長した企業は、環境が変化しても過去の路線を維持しがちです。そのため、新しい環境変化にマッチしたビジネスモデルを持つ企業との競争に負けてしまうのです。

銀行などの金融業界では、従来は店舗展開が成長の基本でした。ところが、異業種からの新規参入者は、オンラインバンキングを重点とする戦略を採用しました。オンラインバンキングは窓口業務と比較して圧倒的なコストダウンになります。すると、店舗をもつことがコストダウンを阻害することになり、競争で不利な立場になったのです。 (説明)

これまで金融業界は、法律および行政措置の保護の下で、いわゆる護送船団方式が続いてきました。新規参入も規制されサービスもほぼ同じという安定した業界でした。そのため、競争に打ち勝つ体質が欠けていました。それがグローバル化による国際標準化と規制緩和により、海外からの参入や異業種からの参入が多くなり、新しい競争環境へと移りました。

従来の銀行や証券会社は、多くの都市の目抜き通りに大店舗を持つことが安定と成長の象徴でした。ところが、インターネットバンキングやオンライン株取引が普及すると、窓口業務よりもはるかに低コストで運営できます。従来の店舗展開戦略が、高コストの体質になり、競争で不利になったのです。

さらに規制緩和と競争激化により、銀行が証券業務を取扱ったり、多様な金融商品を提供したりすることが可能になりました。多様な商品を提供することが、競争優位を得ることになります。そのためには、巨大なIT投資が必要になり、従来は考えられなかった系列を超えた合併が進む一因になりました。それが、合併前に並んでいた一方の店舗を閉鎖する理由にもなりました。


出典:大阪市都市型産業振興センター
 「銀行店舗数の推移(他都市)」
より抜粋作図

東京都区部における銀行店舗(本支社)数の推移

自動車メーカーなどの製造業では、従来は、優れた部品を安価で調達するために、巨大な系列を構成していました。ところが、海外生産が進み、インターネット取引が普及して、部品を世界中から調達できるようになると、系列内で調達を保証することは、かえって不利な状況になりました。 (説明)

従来、大企業の製造業では、部品生産、組立、販売など、全分野において優秀な関連企業や下請企業を数多く持った巨大な系列を構成することが成功の基本でした。

ところが、コストダウンのために、部品調達や組立作業を労務費の安い海外へシフトするようになりました。また、販路拡大のために、海外ディーラーと提携するようになりました。

それに追い打ちをかけたのがインターネットによる調達です。特に自動車産業や電子産業では、部品数が多く、しかも仕様が標準化されているので、新しい取引先からの調達が容易です。それで、インターネットを利用すれば、世界中の部品メーカーから、条件のよい調達ができます。このような調達サイトは、独自に運営けるだけでなく、業界全体をまとめたe-マーケティングプレイスが構築されています。

系列体制があると、系列各社への調達を保証するために不利な系列内取引を続けることになります。そのため、これまでの系列体制が急速に崩壊しました。

顧客満足のためには、顧客ニーズへの迅速な対応、コスト削減のための流通在庫の圧縮が重要になります。それを実現するには、一企業だけの努力では限界があり、部品メーカー、組立メーカー、配送業者などのサプライチェーン(供給に関連する企業群)が、受発注データだけでなく、在庫や需要情報などの情報を共有して協力することが必要になります。
 このような企業間ネットワークの発展は、企業間連携へとつながります。しかし、従来の系列とは異なり、企業間の関係は資本には関係なく、互いに対等な立場の企業が状況に応じてサプライチェーンを構成するのが特徴です。

このように、過去の成功要因であったことが、新しい競争環境では不利になることが多いのです。しかも、過去の成功に縛られて、環境変化に乗り遅れることもあります。


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