Web教材一覧経営と情報

企業における情報システムへの期待の変化(概要)

表示が不十分なときは、□をクリックすると、その部分が別ウインドウに表示されます。

学習のポイント

ITが最も利用されているのは企業です。本章では、経営とITの関係を歴史的に展望します。

キーワード

EDPS、基幹業務系システム、MIS、経営情報システム、DSS、意思決定支援システム、TSS、汎用コンピュータ、メインフレーム、利用部門、エンドユーザ、情報検索系システム、OA、EUC、エンドユーザコンピューティング、経営戦略、SIS、戦略的情報システム、CIO、企業間ネットワーク、戦略部門、アウトソーシング、BPR、リエンジニアリング、カイゼン、SCM、サプライチェーンマネジメント、レガシーシステム、オープンシステム、オープン化、ダウンサイジング、クライアントサーバシステム、クライアント、サーバ、グループウェア

詳細:「企業における情報システムへの期待の変化」「インターネットのインパクト」


全体の流れ


業務支援としてのIT活用

初期の情報システム:EDPS・MIS

EDPS(データ処理システム)(→詳細

日本の大企業がコンピュータを本格的に導入し始めたのは、1960年代の初期です。当時のコンピュータはEDPS(Electronic Data Processing System)と呼ばれていました。文字通り、手作業で行われていたデータ処理を機械化することが目的でした。
 当時はプログラム作成環境が貧弱であったこと、省力化が大きな目的であったことから、処理方法が単純で、繰返し利用され、データ量が大きい業務、すなわち、給与計算、売上処理、会計処理などがシステム化の対象になりました。このような定例的に定型的な事務処理のシステムを基幹業務系システムといいます。
 省力化とは人を減らすことが目的ではなく、人間を無味乾燥な事務処理から解放して、人間でないとできない高付加価値な業務につかせることにあります。また、手作業処理をそのまま個別にシステム化するのではなく、業務の標準化や見直しが必要であること、全体的なシステム化計画が必要であることなどが指摘されていました。

MIS(経営情報システム)(→詳細

主要な業務の多くがシステム化されると、企業活動のデータがコンピュータに蓄積されます。それらのデータを加工して適切な情報にして経営管理者に提供すれば、経営者は活動状況を迅速に把握することができ、適切な意思決定を行うことができると期待されました。また、部門の状況を経営者に報告し、経営者の指示を部下に伝達する中間管理者は不要になり、組織のフラット化が進むと期待されました。そのような概念をMIS(Management Information System)といいます。

利用者の拡大:DSSとOA

1970年代後半になると、コンピュータに複数の端末をオンラインで接続して共同利用するTSS(Time Sharing System:時分割方式)の技術が実用化されました。これにより、経営者も含むエンドユーザ(IT部門以外の人)が直接コンピュータを利用するEUC(End-user Computing)が普及してきました。さらに、1980年代になると、ビジネスにパソコンが利用されるようになりました。すなわち、コンピュータ利用の大衆化が進んできたのです。

DSS(意思決定支援システム)(→詳細

MISは重要な概念でしたが、当時は紙の出力であり、しかもグラフ化などはできませんでした。そのため、情報を要求すると、分厚い数表が提供されるような状況で、実際には活用できない状況でした。それがTSSにより、経営者は自分の机上にあるパソコンから、必要な帳票だけを選択して画面上に表示できるようになりました。
 この間に、ソフトウェアも従来とくらべて使いやすくなりました。そうなると、意思決定者が自ら端末を操作して、コンピュータと対話しながら情報を得ることができるようになります。このような意思決定を支援することを目的とした利用形態をDSS(Decision Support System:意思決定支援システム)といいます。

DSSの一つの分野に、基幹業務系システムで収集蓄積したデータを、エンドユーザ(利用部門の人)が利用しやすい形式に整理して公開し、エンドユーザが利用しやすいツールを用いて、任意の切り口で検索加工する利用形態があります。
 このような利用形態は情報検索系システムといわれ、1980年代に急速に普及しました( 日常業務での利用計画業務での利用)。さらには、1990年代になると、データウェアハウスへと発展します。

パソコンの出現とOA(→詳細

1980年代に入ると、パソコンが急速に発展し、ビジネスに利用されるようになりました。また、オフィス業務の生産性向上のためにパソコンを活用するべきだという、OA(Office Automation)の概念が普及しました。

パソコンは、個人の生産性向上の道具として、単独で用いられるだけでなく、TSSの端末としても用いられ、汎用コンピュータのデータをダウンロードして、パソコンで多様に加工するような連携も行われるようになりました。

レガシーシステムからオープンシステムへ(→詳細「コンピュータの発展」

1980年代を通して、パソコンの価格は低下し機能は増大しました。初心者にも使いやすいようになりました。パソコンの価格性能比の向上により、これまでの汎用コンピュータによる集中処理よりも、多数のパソコンをLANで接続した分散処理のほうが、価格的にも、操作的にも有利になり、1980年代末から1990年代にかけてダウンサイジングが進みました。
 LAN接続で、クライアント(利用者のパソコン)から依頼をして、サーバで処理をして結果をクライアントに戻す形態が多くとられるようになりました。それをクライアントサーバシステムといいます。この形態で、社内での電子メールや電子掲示板などのグループウェアが急速に普及しました。
 汎用コンピュータの時代では、メーカーにより独自のアーキテクチャが採用されており、他の機種との接続やソフトウェア互換性が困難でした。それに対して、パソコンではメーカーや機種に関係なく接続できるしソフトウェアが使えます。このような業界標準で統一されたシステム環境をオープンシステムといいます。

EUC(エンドユーザ・コンピューティング)(→詳細「利用形態とEUC」

エンドユーザ(IT部門以外の人)が、自分や自グループの業務のために、自主的にコンピュータを利用することをEUC(End-User Computing:エンドユーザコンピューティング)といいます。上述の情報検索系システム、パソコンの利用、後述のグループウェアなどがそれにあたります。基幹業務系システム以外の情報システムがEUCであるともいえます。


経営戦略実現のためのIT

EDPSやMISの頃でも、コンピュータの有効活用のためには、経営者の積極的なリーダーシップが重要だと指摘されていましたが、1980年代後半になると、ITは経営に不可欠であると認識されるようになり、IT部門の任務を大きく変化しました。

情報システムの戦略的活用:SIS(→詳細

1980年代中頃になると、経営戦略に競争の概念が重視されるようになりました(参照:「ポーターの競争戦略理論」「顧客満足」)。そして競争優位を確立するには、ITを戦略的に活用することが不可欠だと認識されるようになりました。
 それには、自社だけでなく関係する企業との連携が必要になります。また、この頃から企業間ネットワークが普及してきました。それで、メーカーが小売店に発注端末を設置して、自社への発注を増大させたり、消費者の購買動向を迅速にキャッチしてマーケティングに反映させたりするようになりました。

MISやDSSなど、これまでのITへのコンセプトは、ITは人間の活動を支援することが目的でした。ところが、このような利用は、ITの活用そのものが経営戦略実現の手段になります。それどころか、ITの活用動向をウオッチして経営戦略に活用することが必要になります。戦略的な利用を目的としたIT活用が重要だという概念をSIS(Strategic Information System:戦略的情報システム)といいます。

SISを推進するためには、経営の立場からITを運営する必要があります。それをITガバナンスといいます。ITガバナンスを確立するためには、経営者がIT運営に直接関与するべきだとされ、CIO)(Chief Information Officer:情報担当役員、最高IT責任者)の職制が置かれるようになりました。

IT部門の任務にも大きな変化が起こりました。従来は、システムを構築したり、システムの運用をするといったDP(Data Processing:データ処理)業務が主な任務でしたが、経営戦略とIT戦略を結び付けること、IT動向を経営戦略に取り入れることが重要な任務となり、経営戦略部門へと変貌することが求められるようになりました。
 逆に、そのような戦略的業務に専心させるために、従来のDP業務は、それを専門とする業者を起用するほうが適切だとされ、DP業務のアウトソーシングが進みました。(→詳細「SISによるIT部門の変化」

業務の抜本的革新:BPR(→詳細

1990年代前半になると、BPR(Business Process Reengineering:単にリエンジニアリングともいう)の考え方が普及してきました。M.Hammer & J.Champy は、BPRとは「(顧客満足の達成のために)、コスト、品質、サービス、スピードのような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセス(業務の仕方)を根本的に考え直し、抜本的にデザインし直すこと」(野中郁次郎監訳『リエンジニアリング革命』)であると定義しています。

1990年代後半になると、BPRは単に社内プロセスの改革だけではなく、供給元の企業や納入先の企業までを含めた企業間BPRへと発展してきました。特に、部品の供給から顧客への納入までの期間を極端に短縮することにより、顧客の満足を得るとともに、在庫費用を抜本的に削減したり、資金の回収を円滑に進めたりすることができます。そのような概念としてSCM(Supply Chain Management:サプライチェーンマネジメント)が注目され、普及しています。


インターネットのインパクト

1995年頃から急速に普及したインターネットは、IT革命といわれるように、身の回りの生活から国家経済にいたるまで、広範囲に急激な影響を与えていますが、ここでは企業経営に関することに限定します。

インターネットの出現と普及

インターネット利用の第1期とでもいうべき、1995年~2000年代前半を対象にします。

社内での利用環境の変化

当初のクライアントサーバシステムは、多様なLANの管理システム(LAN OS)が乱立しており、その環境で用いるアプリケーションも独自の運用方式をとっていました。それが、インターネットの普及により、LANにTCP/IPを採用し、アプリケーションも利用者とのインタフェースにWebブラウザを用いるなど、インターネット技術で統一されるようになりました。それをイントラネットといいます。また、限定された関係会社間の企業間ネットワークにインターネットを用いることをエクストラネットといいます。
 通信費やアプリケーション開発・運用などのTCOの削減に大きな効果があるので、急速に普及し、現在ではほとんどが、この方式になっています。

また、社員がノートパソコンなどからインターネットを介して社内ネットワークを利用することにより、社外にいてもオフィスにいるのと同様な業務環境が得られます。このような利用環境をモバイルコンピューティングといい、オフィス以外で勤務する形態をテレワークといいます。これは単にコンピュータ利用の拡大だけでなく、成果主義の評価方法など、社員の行動や組織の変化などにも影響を与えています。

EC(電子商取引)(→詳細

インターネットによりグローバル化がさらに促進され、規制緩和が行われるようになりました(→詳細)。世界が一つの市場になり、取引の制約が緩和され、異業種からの参入も容易になりました。
 その典型的なものに、オンラインバンキングなどの電子決済、Webサイトを用いたオンライン販売などがあります。

EC(Electronic Commerce:電子商取引)は、取引の相手により、
  BtoB:Business to Business、企業対企業での取引
  BtoC:Business to Consumer、企業対消費者での取引
に分けられます。

BtoBは、自社製品の販売を目的とする場合と、自社に必要な部品や素材を調達する目的とする場合に区分できます。複数の売り手と複数の買い手が参加して、取引をするサイトのことをe-マーケットプレイス(マーケットプレイスとは、取引所のこと)といいます。規模はBtoBのほうが圧倒的に大きく、日本でのBtoBの規模は米国よりも大きくなっています。

BtoCは、規模はBtoBと比較して小さいのですが、インターネット人口の増加、ブロードバンドの普及により急速に成長してきました。また、オークションなどCtoCとでもいうべき形態も出現するなど、多様な取引が行われるようになりました。なお、Yahoo!や楽天のようなサイバーモール(電子商店街)に加入することにより、手軽に店舗を開設することができるようになりました。

インターネットの普及、規制緩和により、新規事業の創出、異業種からの参入など、中小企業やベンチャー企業などが急速に発展する機会(デジタル・オポチュニティ)を与えるとともに、これまで、店舗展開や系列強化により成功してきた企業が、インターネット取引の普及により、かえって不利な状況になるなど、産業秩序の崩壊と再編成(デ・コンストラクション)が進行してきました。
 このように、インターネットの経営へのインパクトは大きく、企業の浮沈にすら影響するようになったのです。もはやITを考慮しない経営戦略は存在せず、CEO(社長)=CIOであるべきだとすら指摘されるようになりました。

インターネットの発展

2000年代中頃になると、インターネットの利用が質的に変化してきました。

ユビキタス社会(→詳細

ユビキタス(ubiquitous)とは「(神のごとく)遍在する」という意味です。ユビキタス社会とは,どこでも,いつでも,情報機器の存在を意識せずに利用できるほど日常生活に溶け込んだ状態のことをいいます。携帯電話や情報家電などの製品でもなく,コンピュータやネットワークなどの個別技術でもなく,それらをインフラとした社会を構築する環境であると認識するのが適切です。
 日本は、従来から家電製品、ロボット、自動車などの分野で世界をリードしてきました。それらの機器はマイクロコンピュータで制御されており、そのソフトウェアを組み込みソフトウェアといいます。ユビキタス社会では、組み込みソフトウェアが重要な技術になります。この分野で日本が競争優位を確立することが重要だとされています。

Web2.0時代(→詳細

Web2.0とは、特定の技術や利用を指すのではなく、「Web利用の第2世代」というような意味です。2000年当初頃までと比較すると、次のような変化が顕著です。

このような変化は、それを活用した新ビジネスを誘発するとともに、あまりにも従来の環境に適応していたビジネスを崩壊させる原因にもなります。デジタル・オポチュニティ、デ・コンストラクションが、さらに大規模に急激に進行しかけているのです。

SaaS(→詳細

このような環境の変化は、企業でのシステムにも大きな影響を与えています。
 従来は、自社でハードウェアやソフトウェアをもつのが当然でした。情報システムは自社仕様のシステムを個別に構築するのが通常でした。それが、1990年代中頃からERPパッケージという、全社業務を統合した市販ソフトウェアを購入して用いることが普及してきました。「作るから買うへ」変化したのです。
 さらに2000年代中頃になると、個々の業務システム(サービス)をインターネットで提供し、ユーザ企業はそれらのサービスを組み合わせることにより、一貫した業務システムを構築するという方法が出現してきました。それをSaaS(Software as a Service)といいます。この場合は、自社にはインターネットに接続したクライアントだけをもてばよく、サーバやソフトウェアはSaaS業者がもつことになります。すなわち、「所有から利用へ」と変化するのです。

このように、情報システム環境が、自社内部からインターネットへと変化します。そのような利用環境をクラウドコンピューティングといいます。


理解度チェック

第1問

  1. 日本の大企業にコンピュータが本格的に導入されたのは、1960年代初頭である。当時、コンピュータは[ 1 ]と呼ばれたが、文字通り手作業の機械化が目的であった。コンピュータに企業活動のデータが蓄積されてくるに従って、経営管理者への報告や統制に役立つ資料として用いられるようになった。これが[ 2 ]である。1970年代になると、TSS技術の発達により、利用部門に設置された端末からコンピュータを共同利用することができるようになった。それにより、コンピュータを意思決定の支援として活用する考え方が出てきた。それを[ 3 ]という。
    1 EDPS  2 MIS  3 DSS
  2. 1980年代になると、企業戦略に競争の概念が取り込まれるようになり、戦略的な観点から情報システムを活用しようという動きが活発になってきた。それを[ 4 ]という。さらに、1990年代になると、コスト、品質、スピード、サービスなどを抜本的に見直して業務革新を行う[ 5 ]の経営理念がでてきた。この実現には、そのインフラとして、情報システムが重要である。
    4 SIS  5 BPR
  3. それにともない、経営戦略と情報技術の関係が変化してきた。従来は[ 6 ]に従って[ 7 ]の適用が検討されていたが、[ 7 ]の動向を調査してそれを[ 6 ]に取り入れることも重要になってきたのである。そのため、IT部門も従来の[ 8 ]部門から[ 9 ]部門へ変貌することが必要になってきた。
    6 経営戦略  7 情報技術  8 DP  9 IT
  4. 1990年代の中頃から[ 10 ]が急速に普及した。これは身の回りの生活から国家経済にいたるまで広範囲に急激な変化を与えるため[ 11 ]と呼ばれている。その後も[ 12 ]の発展は急速であり、2000年代前半になると、「誰でも、どこでも、いつでも、情報機器の存在すら意識せずにITを利用している」環境になってきた。そのような社会を[ 12 ]社会という。 企業にとってITが重要になっている。それでまずIT戦略を策定し、IT戦略に従って経営戦略を策定するのが通常である。
    10 インターネット  11 IT革命  12 ユビキタス
  5. ダウンサイジングにより、オープンシステムからレガシーシステムへと移行した。
    × オープンシステムとレガシーシステムが逆
  6. グループウェアが普及したのは、インターネットの普及よりも後のことである。
    × グループウェアは1990年代前半、インターネットは1990年代後半
  7. 販売システムで得意先からの注文を受注部門がコンピュータに入力するのはEUCである。
    × 基幹業務系システムでの入出力はEUCではない。
  8. インターネット技術は、企業間あるいは対消費者との関係での情報システムには大きな影響を与えたが、社内ネットワークにはあまり影響を与えていない。
    × イントラネットへの移行など大きな影響を与えた。
  9. ECのBtoBとBtoCでは、BtoBのほうが規模が大きい。
  10. SaaSとは、企業全体の業務を統合した市販パッケージのことである。
    × SaaS→ERPパッケージ

第2問

  1. 「情報システムを構築するには、業務の抜本的な革新をせよ」とか、「情報連絡だけを任務とする中間管理職は不要だ」ということは、MISの頃からもいわれていたのに、現在でも同じことがいわれているのはなぜか。
  2. EUCの効果を上げるためには、エンドユーザとしてどのような知識・能力を必要とするか。
  3. SISやBPRなどにより、経営者や利用部門とITの関係はどのように変化したか。

4択問題:「情報システムへの期待の変化」( kj1-concept-henka