このシリーズは、情報教科教職課程の学生を支援するのが目的です。それで、情報教科教職課程卒業生の不利なことを示すのは不適切なのですが、実際の状況を伝えることも必要だと思います。
教育職員免許の移行措置による影響
2003年から「情報」が高校での正課の必履修教科になりました。それに伴い、多数の情報教科の教育職員免許取得者が必要になります。教職課程に「情報」が加えられましたが、その卒業生だけでは間に合いません。そので、2000年から、他教科担当の教員に講習会受講により免許を与える移行措置がとられました。2000年~2002年の間に約9000名が免許を取得しました。これは仕方がない措置ですが、副作用もあります。
- 知識能力の不足
この講習会は15日間であり、しかも受講者が多いので、(不謹慎な表現ですが)「情報」知識が不十分な教員が発生したのです。情報A・B・Cの3科目のうち、情報Aだけしか開講していない学校が多いのは、教員が他科目を教える自信がないということが、その理由の一つになっています。
- 教職履修学生の狭き門
大学の教職課程で、情報教科と他教科を併行して得ることは困難です。それに対して、移送措置で情報の免許を得た教員は、複数の教科免許を取得しています。現在でも、「情報」を担当する教員の大多数が他教科と兼務しています。しかも、全教科における情報の授業数は少ないので、情報しか教えられない教員を採用するのは不適切です。そのため、情報の教職課程を履修した卒業生が採用されるのは厳しい状況です。
情報教科担当の特殊性
英語や数学など通常の教科では、その教職課程を履修した学生ならば、高校生に教える程度の学力はあるでしょう。しかも、いったん得た知識は、長期的に使えます。例えば数学担当の教員は、授業方法改善のための努力は必要でしょうが、数学そのものの学習は必要とはしないでしょう。それに対して、情報教科では、その特殊性により、授業内容に関する自己研修が求められます。
- 対象範囲が広い
情報の分野はあまりにも広範囲です。普通教科でも情報Bでは技術面、情報Cでは社会面の広い分野になっていますし、専門科目では非常に広い分野での実際的な知識・スキルが必要になります。それらを適切に指導するのに必要な能力を、情報学部以外の学部で修得するのは事実上不可能です。
- 最新環境の学習が必要
情報を取り巻く環境は激変しています。例えばインターネット利用環境やセキュリティ環境は、5年前とは大きく変化しており、5年前の知識は通用しませんし、これらは原理・原則を指導するだけでは現実に対応できません。
- 生徒のレベルのバラツキが大きい
生徒の知識に大きなばらつきがあります。キーボード入力すらあやしい生徒から、特定の事項では、教員よりもはるかに高い知識・スキルをもつ生徒もいます。学校内での情報に関する優先順位が低いこともあり、能力別クラス編成をするのが困難です。多様な生徒の満足を得る授業をするために、他教科よりも工夫が求められます。
授業以外での負担が大きい
本来ならば、情報を専門とする職員が必要なのですが、その措置を講じている学校は少数です。そのため、情報教科担当教員に多様な要求が押し付けられることがあります。しかも、その教員数が少ないので、その負荷が大きいのです。
- 環境整備の任務
パソコンやネットワークのトラブル処理やセキュリティ対策などの仕事を押し付けられます。生徒が使うパソコンは多数だし、無責任な利用をする生徒もいます。校務のパソコンやネットワークの整備まで要求されることもあります。
- 他教科教員からの助力要請
ITを活用した教育を全教科で行うことになっていますが、ITが苦手だとする教員が多くいます。そのため、お手伝いを頼まれることがあります。
- クラブ活動支援
IT関係のクラブ活動を希望する生徒は多くいます。その指導にはIT知識が必要なので、情報教科教員が担当します。生徒の興味は多様ですし、高度な実務知識を必要とするテーマを期待します。それで、教員自身の知識習得が必要になります。