━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ IT Pro Executive Radar by 日経情報ストラテジー     2003/12/3 ……………………………………………………………………………………………… 〜 IT経営に関するニュースやトレンドを毎週お届けします 〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ コ┃ラ┃ム┃ 木暮仁の「情報化の法則」 ━┛━┛━┛━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 費用対効果算出の費用対効果 ●「ないものねだりの要求をするとデッチアゲの報告が戻ってくる」  情報化投資に限らず,投資においては費用対効果を明確にすることは重要である。 勘・経験・度胸による経営からデータに基づく意思決定が重視されているようになり, 費用や効果を定量的に把握することが求められる。  役員会に情報化案件が提出され,その説明を受けることになるが,経営者にとって 情報化投資はわかりにくいものである。しかもプレゼンの下手な情報システム部門の 説明ではなおさらだ。費用も効果も根拠薄弱なように見える。それで次回の役員会ま でに再検討した報告書を提出するよう命じることになる。  ところが,これは情報システム部門にとってかなりの負担になる。昔の給与計算や 固定資産の償却計算などのシステムであれば,開発するシステムの仕様も明確なので 開発費用の説明もしやすいし,それによる省力化の効果も算出しやすい。しかし,W ebサイトによる受注システムは,自社にとって未経験の開発環境なので開発にどの ような問題が発生するか不明確である。そのシステムにより,現実にどれだけの受注 があるのかは皮算用に過ぎない。  まして,LANの設置だとかナレッジ・マネジメントの環境整備のようなインフラ 投資では,それが直接の効果を生み出すのではない。その環境の上に,どのようなア プリケーションが構築され,どのような効果を生み出すのかを定量的に把握するのは 困難である。あれこれ資料を漁るのだが決定的なものがない。それで,適当な作文を デッチあげることになる。 ●「情報システム部門管理者の時間の80%は,社内説明資料の作成に費やされる」  このようなデッチアゲ文書を作成するには,高度な表現能力や役員心理の把握が必 要なので,部下に任せることはできないし,このような不毛な仕事をさせたら士気に も影響する。情報システム部長が自分でやらなければならない。その結果,部門この ような業務に忙殺されて,情報化企画や部下の育成などに手が回らなくなる。  実は経営者もそれが困難なことはある程度理解しているし,報告書がデッチアゲが 多いことも気づいている。ところが役員のなかには完全主義者がいる。デッチアゲな のだから,おかしいところはいくらでもある。行きがかり上,それを指摘して再再調 査を命じることになる。 ●「費用対効果を問題にすれば,決定を無限に延ばすことができる」  このような報告や指示を繰り返していると長い時間が経過する。その間に環境が変 化して,費用を無視してでもやらなければならなくなったり,いまさらやる必要がな くなったりする。それで自動的にこの案件の承認・却下が決定する。役員会は常に正 しい決定をしたことになる。  しかし,決定を遅らせたことにより,開発期間に余裕がなくなり,テストも不十分 なままに実施移行をしてトラブルが頻発するかもしれない。またこの間に,競争相手 は(もし,自社と異なる意思決定手段が行われているならば)即座に決定して,その 効果を享受しているかも知れない。  すなわち,費用対効果を明確にするための費用対効果を考えることが必要なのであ る。